第79話割り切り

「殿下、ここはラナの判断に任せましょう。

 何を選ぼうとも、ラナが皇室に逆らう事はありません。

 ゲイツ家とゲイツ一族も、皇室に逆らう事はありません。

 だから追い込むようなことは止めてください。

 皇室に逆らう事はなくても、見限る事はあるのですから」


 ジョージ様がヨジップ殿下に諫言されています。

 その通りです。

 私は亡き父上の名を穢すつもりはりません。

 ホセイ家が、ペタル・ホセイの娘が皇室に謀叛を起こしたなどと、史書に残すことは絶対に嫌なのです。


「殿下、私が皇室に刃を向ける事は絶対にありません。

 亡き父の名に誓って約束いたします。

 私は鈍感な女なのかもしれませんが、それでも女なのです。

 心から愛する人と結ばれたいと思っているのです。

 それを分かっていただけませんか?」


 嘘偽りのない、私の本心を訴えました。

 王侯貴族の常識からすれば、噴飯モノなのかもしれません。

 結婚は政略で行い、恋は跡継ぎを作ってから愉しむ。

 それが貴族の結婚だと教わりました。

 徒士の時も、家格の合うラル徒士家のニコラと婚約していました。


 今思えば、本当にニコラを愛していたわけではありません。

 両家の両親が話し合って、許婚に決まってから、ラル徒士家を守り盛り立てていく結婚相手として、互いを理解しようとしていただけです。

 それが全部悪いとは思いませんし、王侯貴族も同じだと思います。


 ただ力を得たら、多少の我儘を言ってもいいのではないでしょうか?

 その我儘が、弱い者達を苦しめる事ならば、絶対に許されないと思います。

 家臣領民を不幸にするような我儘は、悪だと思います。

 でも、素敵な恋愛をしたいというのは、家臣領民を不幸にする事でしょうか?

 政略決婚をしなければ、家臣領民を不幸にしてしまのでしょうか?


 少なくとも私の場合は違うと思うのです。

 力を持っているのは私の方で、政略決婚をお願いされている立場です。

 皇室が相手だと微妙ですが、断っても家臣領民はもちろん、皇国の民も不幸にならないと思うのですが、間違っているでしょうか?


「分かった。

 ラナが鈍感な乙女だと言うのがよく分かった。

 少なくともラナを怒らせる事だけは止めた方がいいだろう。

 ゲイツ城伯は大丈夫だと言うが、女を怒らせると怖いというのは、結婚しているから骨身に染みて知っている。

 それに、ラナが敵に回らなくても、逃げてしまっては元も子もない。

 ヤイツ城伯やライツ城伯にまで逃げられてしまったら、光明を失ってしまう。

 皇帝陛下と皇太子殿下には私から伝える。

 だから今まで通り狩りを続けてくれ」

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