第38話暴竜

「一頭狩ったら撤退するよ。

 帰りに属性竜に遭遇することもありえる。

 明日以降もある。

 七割の魔力と体力を残して撤退するんだ」


「「「「「はい」」」」」


 完全現役のドウラさんが指揮を執られます。

 ジョージ様は勘が戻っておられないのでしょう。

 なんといっても相手は亜竜の群れ、それも暴竜です。

 一瞬の遅れが全滅に繋がります。


 体長はおおよそ十四メートルで体重は十トンだと聞いています。

 はるか昔の狩猟記録なので、今も同じとは限りませんが、参考にはなります。

 上下の顎に生えている多数の鋭い歯は三十センチもの大きさがあり、咬筋の力も強く、同じ亜竜種の強固な骨をひと噛みで噛み砕く恐ろしい武器です。


 ですが狩れれば最高の武器になります。

 暴竜牙剣と暴竜牙槍は王侯貴族でも持っている者はほとんどいません。

 属性竜牙剣や属性竜牙槍ほどではありませんが、王侯貴族が家宝として宝物庫に厳重保管しているほどの宝物です。

 冒険者で実用使いしている者などいません。


 ですが、それでも、亜竜は亜竜です。

 鉤竜はともかく禽竜が狩れるのなら、狩れないわけではありません。

 特に遠距離から魔法攻撃できるパーティーならば、確実に狩れます。

 暴竜の圧倒的な攻撃をいなすことができるのなら、強力な魔法を準備する時間を稼げるのなら、狩ることができるのです。


「エマ、ニカ。

 口から叩き込んで脳を破壊しな。

 あんたらが狩る分は眼玉を残すんだ」


 ドウラさんはエマとニカには愛情たっぷりで厳しいです。 

 市場の流通、特に亜竜薬の在庫と流通量を考えろと教えています。

 私達前衛職が亜竜種を狩る場合、どうしても目から脳を破壊する方法になります。

 だから素材として眼玉が不足します。

 それは眼玉が必要な薬が作れない事を意味します。


 遠方から比較的安全に亜竜種を狩れるエマとニカには、市場が求める素材を考えて狩りをしろと、ドウラさんは教えているのです。

 そしてそれが高値で獲物を売るコツでもあります。

 ドウラさんの愛情はエマとニカに向かいながら、同時に病に苦しむ人にも向けられているのです。

 私達にとっては命ギリギリの、人から見れば簡単に見える亜竜種の狩りは、暴竜を斃して撤退となりました。


「これは凄い!

 残す素材はいつも通り牙、爪、骨、鱗、皮でいいですか?

 他は全部買い取らせてもらっていいですか?」


「それは暴竜と禽竜だけでいいよ。

 鉤竜は一頭丸々売ってくれでいい」


「それは助かります。

 ではいつも通りオークションのかけさせていただきます」


 暴竜と禽竜は一頭ずつしか狩れなかったのですが、群れで襲ってきた鉤竜は結構な数が狩れました。

 鉤竜の相場が値崩れするのではないかと心配になるほどでしたが、厄竜の恐怖があるので、薬の素材として高止まりしているようです。

 お陰で私達は更に大金持ちになれました。


鉤竜:百キログラム:二十万小銅貨×百七頭=二千百四十万小銅貨

禽竜:四トン   :八千万小銅貨×一頭=八千万小銅貨

暴竜:十トン   :四億小銅貨×一頭=四億小銅貨


 そうそう、今回は合同パーティーであることと、私達前衛職もパーティーリーダーでもあるので、分配金は公平に均等割りになりました。

 これからはずっとそうなるそうです。

 なので私の今回の取り分は、六千二百六十七万五千小銅貨となりました。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る