第5話イヴァンとダニエル

「この通りだ。

 ドウラをリーダーとしてその指示に従う。

 だからパーティーに加えてくれ」


 イヴァン師範代がドウラさんに頭をさげて頼みました。

 次男とは言え騎士家の一員です。

 それが祖父と元パーティーメンバーとはいえ、深々と頭をさげたのです。

 私にもよほどの決断だというのが分かりました。


「俺もたのまぁ」


 バッチィーン!


 ダニエル師範代が軽くあいさつした途端、ドウラさんの激烈な平手がダニエル師範代の頬を捕え、彼は吹き飛びました。


「実戦経験もないひよこが軽口叩くんじゃないよ!

 騎士家風をふかしたいのなら、取り巻きを連れて魔都に行きな!

 今度舐めた口を利いたら、その首斬り落とすよ!」


 あまりにも、あまりにも衝撃的な光景でした。

 実戦経験を積み重ねた冒険者と、道場訓練しかしていない自分たちの違いを、心の底から思い知りました。


 そして同時に、ドウラさんの覚悟も伝わりました。

 相手が騎士家の人間であろうと、孫娘たちを危険にさらす存在は許さない。

 必要とあれば殺す事も辞さない。

 正直寒気を覚えるほどの覚悟です。


「おのれ!

 騎士家の人間に手をあげてただですむと思っているのか?!」


「……」


 ダニエルは、師範代の自分が簡単に叩きのめされたのが、とても悔しく恥ずかしかったのでしょう。

 本気かどうかは別にして、実力ではなく、肩書で脅すような事を口にしました。

 ですがその言葉が、その場の雰囲気を一変させました。

 ドウラさんが明確な殺意を持ったのです。


「ディミタール。

 これは家とゲイツ家の殺し合いだね」


「申し訳ない、ドウラ。

 家の教育が悪かった。

 全面的に家が悪い、この通りだ。

 今この場でダニエルを勘当する。

 道場も破門にする。

 だから好きに殺してくれ」


「お爺様!」


「黙れ、汚らわしい!

 お前のような恥知らずを孫に持った覚えはない!」


「そんな!」


「さあ、こっちの話はついた。

 さっさと殺し合おうか」


 ダニエルは完全に追い込まれました。

 もう頼るモノがありません。

 実力の違いも思い知っています。

 

「すまない。

 この通りだ。

 どうか許して欲しい。

 もう二度と偉そうな態度は取らない。

 だから許して欲しい」


「さっさと立ちな。

 お前のような屑は、形だけ謝って心の中では舌を出しているモノさ。

 ディミタールの前で殺すのは可愛そうだからね。

 二度と逆らう事ができないように、徹底的に叩きのめしてやるよ」


 それからは、暴力による徹底的な躾けになりました。

 いえ、道場ですから鍛錬というべきかもしれません。

 五百人を越える門弟がいる道場で、師範代を務めるくらいの実力があるダニエルが、それこそ襤褸雑巾のように、死の一歩手前まで叩きのめされました。

 

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