第3話家族会議

「ジョージ先生から話は聞いた。

 俺に甲斐性がないせいだから仕方がないが、腹が立つ。

 娘ひとり嫁がせることができない自分自身に腹が立ち、忸怩たる思いがある」


 ヴィクトル義父上が、哀しそうな腹立たしそうな、何ともいえない表情をされていますが、これは仕方がない事です。

 義父上が悪いのではなく、時代が悪いとしか言いようがありません。


「これは義父上の問題ではありません。

 厄竜のせいです。

 厄竜が現れなければ、このような事にはなっていません。

 私たちはそれに合わせて生きていくしかありません」


「旦那様。

 ラナの言う通りです。

 私たちは今にあわせて生きていくしかありません。

 ラナの決断を認めてあげてください」


 母上が義父上を説得してくれています。

 マリア、ニコル、ダリアの三人の妹も、義弟のクリスティアンも、不安そうに私たちを見ています。

 下の子たちに心配させたいわけではありませんが、家族会議ですから、全員で話しあわないといけません。


「……もう婚約解消の話をしてしまった後だし。

 ラナの腕も冒険者には十分だ。

 信用信頼できるクランにあてがないというのならともかく、ゲイツクランからの入団許可まで取り付けている。

 しかもラナに相応しいパーティーまで紹介してくれるという。

 ふう。

 ビクトリアまで賛成だというのなら、これ以上反対もできんな」


「ありがとうございます、義父上」


「礼には及ばん。

 むしろ詫びねばならんのはこちらだ。

 親らしい事を何一つしてやれん。

 申し訳ない」


「ラナ姉上。

 本当にここを出て行ってしまわれるのですか?」


「ええ、私ももう十六歳です。

 一人前の大人として働かなければいけません。

 長女としての責任があるのですよ」


 妹も義弟も反対したいようですが、私の決意と、義父上と母上が賛成したことで、直接反対できなくなったようです。


「ラナ姉上。

 私、もっと内職を頑張ります。

 だから、だから姉上……」


「マリア。

 もう十分内職を頑張ってくれていますよ。

 ですがマリアもレイ徒士家の娘です。

 もう少し武芸の稽古も頑張ってください。

 いつまた厄竜が現れるか分かりません。

 その時には義父上は最前線で戦われるのです。

 クリスティアンはまだ幼いのです。

 マリアが家族を護らなければいけないのですよ」


「はい、ラナ姉上。

 明日から私も道場に通います」

「私も道場に通います」

「私もです」

「私ももっと鍛錬に励みます」


 マリアだけでなく、ニコルもダリアもクリスティアン真剣な顔をしています。

 ヴィクトル父上も、クリスティアンの実母であるルシヤさんも、厄竜が放つ病でしんでしまいました。

 父たちが冒険者時代に蓄えていた魔法薬もお金も、他の家族の治療で使い切ってしまっていました。

 厄竜が二度も現れなければ、全然違う世の中だったでしょうに。

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