第8話 ゲーム開始
哲也は仲間と共にスタート地点に到着する。
フラッグとは言うが、そこにあるのは旗ではない。エア缶が装着された大きな音が出るエアホーンが置かれている。フラッグゲットはこれを鳴らす事で達成される。
「音がしたらゲーム終了だからな」
そう言われて、哲也は「はい」と素直に返事をする。
ゲームが始まる前、哲也は緊張感を感じていたが、周囲では仲間同士で笑いながら会話をしている。意外にも緊張感と言うのは無いみたいだ。
ほのぼのとした感じで、開始を知らせるホーンの音が聞こえた。
哲也は店長の後を追うように駆け出す。
フィールドは深い森と言うわけじゃなく、ある程度、開けた林のような感じだ。茂みなどは少なく、見通しは思ったよりも良い。木々の無い部分にはドラム缶やベニヤ板などでセットが組まれている。フィールドの案内図はでは市街地エリアとなっている。
店長は速度を抑えて、木々に身体を隠すようにし始めた。そして、哲也に声を掛ける。「これから用心深く行くぞ」
哲也も木に身体を寄せて、銃を構える。すると彼方此方でエアガンの発砲音が聞こえ始める。店長はそれを聞きながら、ニヤリとする。
「こっちのルートは正解だな。多分、奴等の主力は北側だな」
それを聞いた哲也は店長に尋ねる。
「解るんですか?」
「経験が多いと何となくね。だけど、こっちに誰も回さないって事は無いと思うから、気を付けるんだよ」
店長と哲也ともう一人はゆっくりと進む。
この辺りは静かだった。
あと100メートルも進めば、敵の本拠地であった。
先頭を進む店長は動きを止めつつ、様子を窺っては進む。だが、少し焦っているようにも思えた。
「まずいな。むこうは北山さんしか居ないけど・・・守り切れないかもなぁ」
今回は4対4。守備として1人が哲也達とは別ルートに配置されているわけだが、当然ながら、相手チームはそこに全戦力を投じている可能性もある。そうなれば、一気に勝負が着く場合もあるのだ。
「とにかく急ぐよ」
店長が進もうとした時、突然、銃声が聞こえ、店長が慌てて、飛び退くも同時に「ひぃっとぉおおお!」とヒットコールを叫んだ。彼はすぐに両手を上げて、その場から立ち去る。それを見ながら、哲也は周囲を確認する。すぐに後ろに居た園山に尋ねる。
「どこから撃たれたんですかね?」
「解らない。だけど、多分、狙撃手だ。一発で決められた。このままだと、うちの北山さんが突破されるのも時間の問題だ。何とかしないといけないから、俺が出る。君はあっちの方に向かって進んで、相手を囲むようにするよ」
哲也は命じられたようにソロソロと歩き出した。
彼方此方で銃声が鳴っている。エアガンの銃声と言えども静かな空間ではよく響く。哲也は慎重に敵に見付からぬように歩いた。
サバゲは不思議なもので、誰とも遭遇しない時はまったく遭遇しない。
運が良ければ、そのまま、フラッグゲットをしてしまう事もある。
だが、それは偶然である。
大抵は敵と遭遇する。
戦闘になれば、相手をヒットする要因は三つある。
先制攻撃
量
奇襲
この三つの内、どれかが無いと、相手をヒットする事は難しい。
哲也は冷静に周囲を見ながら小走りをする。
だが、それは所詮、素人の動き。
迷彩柄で茂みに潜んだ相手を探し出すには彼の目は鍛えられていない。
まして、小走りで流れる景色の中から相手を見付け出す事など彼には無理であった。
茂みから銃声が鳴る。白い弾丸が哲也を襲う。
幸いにも小走りを止めなかった哲也に弾は当たらなかった。
哲也は驚いたものの、そのまま、駆け抜けようとする。
それを許すわけが無かった。
相手も初弾を外して、慌てたのだろう。茂みから立ち上がり、立射で手にしたエアコッキングのスナイパーライフルを構える。
哲也は慌てて、手にした自動小銃を構えるでもなく、片手で撃つ。
乱射のように放たれた弾は相手を牽制する。だが、相手はそれなりに経験のあるプレイヤーのようで、慌てず、冷静に狙いを定めた。
次の瞬間、哲也の背中に弾が当たる。
痛みを感じた哲也は足を止めた。
「あっ・・・ヒットぉ」
両手を上げて、哲也は気まずそうに立ち尽くす。
だが、その直後、背後でもヒットコールが聞こえる。
哲也が振り返ると、哲也を撃ったプレイヤーも両手を上げた。
その向こうには哲也の仲間が哲也に向けて親指を立てながら、フラッグへと駆けて行った。
そのまま、彼がエアホーンを鳴らして、ゲームは終了した。
セーフティエリアに戻って来た哲也はペットボトルのお茶を飲む店長に気まずそうに報告をする。
「何も出来ずに撃たれちゃいました」
「はははっ。そんなもんだ。初ヒットにはまだ、時間が掛かりそうだな」
「結構、体力を使いますね。ちょっと走っただけで息が上がりそうですよ」
「装備も重いし、足場も悪いからな。それにしゃがんだりとか色々な動きも多いから」
「これをあと・・・5回も繰り返すんですか?」
「ははは。そうだよ。なにせ人数が少ないからな。休めないぞ?」
哲也はすでに足腰がガクガクしそうなことに恐怖した。
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