第6話 哲也の不安

 哲也は深い溜息をつく。

 バイト先で色々あった。

 家に帰り、自分の部屋でお気に入りの拳銃を触りながら、気持ちを落ち着かせた。

 「俺がサバゲか・・・」

 確かに昔からサバゲには興味があった。しかしながら、人見知りの性格のせいか、そこに飛び込む事は無かった。

 まぁ、射撃の訓練として、部屋の中でエアガンを撃ってはいる。それなりに腕前は良い方だと自負はしている。以前、店長にもその腕前を見せて、感心させているし。

 だが、やはり・・・不安だった。以前から店長には誘われてはいた。だけど、それでも色々と自信が無くて、断り続けた。

 それが突然、やることになった。

 緊張と不安。

 そもそも、あの女の子達が出した条件ってのもよく解らない。

 何が目的なのだろうか。

 言う事を聞く・・・。

 彼女達に何か悪い事でもしたのだろうか?

 理由が解れば、こちらから謝っても構わないと思う。

 無論、理不尽な事に謝るつもりはないが、ゲームに負ければ、それが理不尽でも謝らざるえないのだろう。

 そう思うと、この事自体が何とも理不尽だと思えて来た。

 やめたい。

 素直にそう思う。

 だが、それを彼女達を前にしてはっきりと言えるほど、度胸などあるはずも無かった。

 サバゲ用に装備を整える。

 エアガンに関しては、問題などは無い。スペアマガジンがある物から選ぼう。問題は服や装備だ。ミリタリーマニアでは無い自分にはそれらに関する知識も乏しいし、そもそも手に入れていない。

 ネットで探す。

 思ったより高い。

 ただ、サバゲに関して、改めて、調べてみると、ゴーグルさえあれば、最低限、ゲームには参加が出来るようだ。

 ならば、ゴーグルとフェイスガードを注文した。

 服装は近所のガテン系のお店で、作業服を手に入れ、靴はトレッキングシューズを買った。

 ほぼ、最低限の装備を手に入れただろうと思った。

 選んだエアガンはメインは東京マルイの次世代電動ガンのAKS74U。

 威力がどれをとっても同じであるエアガンでは有利なのは小型である事だ。マガジンも他弾数を選べば、マシンガン並に撃てる。実銃との圧倒的な違いをしっかりと考えれば、ゲームに勝つ為なら、選ぶ銃は限られてくる。

 サイドアームはあまり使う事は無いだろうと思うので、趣味でウェスタンアームズのコルトガバメント系でコンバットウィルソンのコンバットコマンダーモデル。セーフティをアンビ化して、マグウェルを装着して、マッチ風にしてある。

 使う事は無いだろうが、これをレッグホルスターに突っ込んだ。

 

 勝負の前日。

 哲也は店長に事前練習だと言われ、彼の車に乗り、とあるサバゲフィールドにやってきた。

 「結構、山奥ですね」

 周りは森に囲まれている。そこは有料サバゲフィールドのアポカリプスである。

 「よう!岩谷さん」

 店長に声を掛けて来たのは何人かの男達だ。

 「前田さん。いつも世話になっています」

 店長も軽く会釈をする。

 「そっちが電話の?」

 前田は哲也を見て、店長に尋ねる。

 「あぁ、うちでバイトをしている鏑木君です」

 「あぁ、僕はこのフィールドの代表をしている前田です。よろしく」

 挨拶をされて、俊哉も慌てて、頭を下げる。

 「ガンマニアなのにサバゲをした事が無いんだって?」

 「は、はい」

 「まぁ、楽しみ方は人それぞれだけど、何でも女の子から決闘を申し込まれたって?」

 「は・・・・はい」

 「すげぇなぁ。そんな神展開・・・ありえねぇよ」

 40代を過ぎたぐらいの前田だが、喋り方は妙に若者風であった。

 「ははは。俺も隣で聞いていて、すげぇと思ったよ。場所はインフィールドだから、基本的にCQBになると思うけど、まずは基本的なサバゲを体験させたくて、ここに来たのさ。もう、あいつらは来ているか?」

 「あぁ、ザコさんと内村さんは仕事で休むって。明日は出るからって」

 「そうか。じゃあ、着替えをしようか」

 店長に言われて、俊哉は駐車場からプレハブ小屋へと向かった。

 

 事務所と休憩所などを兼ねているプレハブ小屋の中には3人の男達が居た。

 「へぇ、高校生じゃん」

 「ここって条例で高校生ってダメとかってなかった?」

 「ねぇよ」

 彼は哲也を見て、笑いながら会話を交わす。

 「集まって貰って悪いな。こいつが今回の主人公である鏑木君だ」

 店長は彼らに哲也を紹介する。

 「装備は・・・作業服だな」

 「作業服だ。俺、あれ・・・仕事で使ってるぜ」

 「ガンマニアとは聞いたけど・・・装備に興味は無いの?」

 そう尋ねられて、哲也は答えに窮する。

 「お前ら・・・てめぇの自己紹介をする前にあれこれ聞くな。まずはみやっちから」

 みやっちと呼ばれたのはPMC(ブラックウォーター風)装備をした30代中頃の男性である。

 「俺はみやっち。見ての通り、PMC好きでね」

 PMC。民間軍事会社と訳され、主に戦闘集団が彼方此方に居て、危険度が高い地域にて、軍隊並の装備にて、警備を請け負う組織だ。

 「俺はラット。ナム戦好き」

 そう言う通り、上から下までしっかりとベトナム戦争当時の米兵の恰好をした青年だった。顔を緑にペイントしているので、年齢が解り辛いが、多分、20代後半ぐらいだろう。 

 「俺は特にこれと言ったアレは無いけど、間島です」

 少し小太りな若者が笑顔で自己紹介をする。恰好は軍装では無く、作業服のような上下にホルスターとマガジンポーチだけを提げたガンベルトをしているだけ。

 「間島は単なるサバゲ好きだけど、それ故に強いぞ」

 店長がそう言うのだから、多分、この人は見た目以上に強いのかと思う。

 「最後・・・ミヤタです。狙撃が好きです」

 ギリースーツでまったく顔の殆どが見えていない人が現れた。手には東京マルイのVSR-10が握られている。

 「狙撃ですか・・・サバゲでは不利だと聞いてますけど」

 哲也はどこかで聞いた話を尋ねる。

 「確かに・・・だけど、潜んで、相手に気付かれぬようにヒットをするのは快感なんですよ。狙撃は楽しいですよ」

 「まぁ、楽しみ方は人それぞれだが、最初からそんな沼にハマる必要はない」

 店長は笑いながらミヤタの勢いを逸らす。

 「そして、俺だ。このメンバーなら、相手が誰であろうと勝てる」

 「本当ですか?」

 哲也は不安そうに店長を見る。

 「それをお前に教える為にここに連れて来たのだ。これから一緒にサバゲをするぞ」

 「は、はぁ」

 哲也は戸惑いながらも店長たちに連れられて、フィールドへと入って行った。

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