第3話 ガンヲタをぶっ潰してやんよ

 摩耶は街角のとある店にやって来た。

 一見すると模型店のように思えるが、自動ドアを潜ると目に入るのは迷彩色の衣服である。雑多に並べられたのは軍が放出した中古の軍服だったりする。

 それらを横目に店の奥へと入って行くと、様々な銃が飾られたショーケースが現れる。

 ショーケースの奥には一人の中年男性が立っていた。

 「よぉ、摩耶。珍しいな」

 彼は気軽に摩耶に声を掛ける。

 「こんなよく分からん場所なんて、来たく無かったわぁ。おっちゃん」

 「ははは。男のロマンが解らんか」

 「何が男のロマンや。良い歳したおっさん達が玩具の鉄砲で撃ち合っているやろ?」

 「厳しい事を言うな。俺はそれで飯を食っているんだから」

 「まぁ、いいわ。おっちゃん。サバゲを教えてな」

 「んっ?突然だな。サバゲに興味を持ったのか?」

 「興味とか・・・そんなんじゃないから。ただ、同級生におっちゃんみたいなのが居て、親友が告ったら、銃の方が好きだとかクソみたいな事を言いやがったら、いっちょ、かましてやろうかと思ってな」

 「かましてやるか・・・女よりも銃を取るとはそいつ、高校生の癖にやるな。解った。俺が何とかしてやるよ」

 おっさんは笑顔で摩耶の頼みを請けた。

 

 週末。

 摩耶と詩織は運動がし易い恰好でガンショップの前に来ていた。

 「おおっ、来たか。お前らに紹介するよ」

 おっちゃんは店から出てきて、後に続いてきた人を紹介する。その人はスラリとした長身の綺麗な女性だった。

 「フェアリーズのネムさんだ」

 「ネム?」

 摩耶と詩織は明らかに日本人っぽい女性を見て、驚く。

 「あぁ、違うわ。ハンドルネームよ。本名じゃないわ。だけど、基本的にこの名前で通っているから、これでよろしく」

 20代中頃だろか。二人からすれば、お姉さんという感じだった。

 「あ、あの。摩耶と詩織です」

 摩耶が恥ずかしそうに挨拶をする。

 「話は聞いているわ。理由は面白いけど、こっちも女の子のゲーマーなんて、なかなか出会えないから、助かったわ。うちは女の子だけでチームを組んでいるから安心して」

 その一言に二人は安心した。

 「まぁ、ネムさんなら、大丈夫だろ。あと、お前らの装備を選んでおいたぞ」

 おっちゃんは二人に一個づつのバッグを持ってきた。

 「金は後から貰うからな。請求書だ」

 おっちゃんは二人に請求書を渡す。それを見た瞬間、二人は唖然とする。

 「まぁ、金の掛かる遊びだからね。でもやってみれば、楽しいわよ」

 ネムは二人の様子を笑いながら車の鍵をポケットから取り出した。

 「さて、ここで屋台を広げると面倒だから、説明は現場でしましょう」

 「現場?」

 ネムに言われて、二人は顔を見合せた。

 「そうよ。こんな場所じゃ、まともに撃つことも出来ないしね」

 ネムは店の駐車場に置いておいたミニバンに二人を乗せる。

 「これから向かう先はインドアフィールドのサバゲフィールドよ」

 「インフィールド?」

 「そう。屋内って事」

 「屋内で出来るんですか?」

 詩織は不思議そうに尋ねる。

 「出来る。出来る。まぁ、多少、制限したりする場合もあるけどね。屋外とは違った面白さがあるわよ。それに天候にも左右されないし、あまり汚れないとか利点は多いのよ」

 「へぇ・・・」

 二人は解らないまま、納得したような顔をする。

 「二人は解らないかもしれないけど、昔は有料サバゲ場なんて、ほとんどなかったから、誰かの敷地だったり、河川敷を借りたりしてやっていたのよ。今でもそういう所はあるけどね。そういう所は大抵、トイレが無かったり、着替えする場所が無かったりと女の子には不便だったのよ。だけど、有料サバゲ場はトイレもあるし、着替えもロッカーもあるし、シャワーや空調まで完備している所もあって、ちょっとしたフィットネス感覚で行けるのよ」

 「凄いやん」

 二人はフィットネスと聞いて、驚く。

 「まぁ、あくまでも遊びだから、堅く考えなくて良いよ」

 車は30分程、走ると、住宅街の一角にある工場へと辿り着いた。

 「なんか・・・工場みたい」

 車から降りた詩織は素直な感想を口にする。

 「工場よ。元は自動車部品を作ってたらしいけど、廃業して、使われなくなった工場を使っているの」

 ネムは荷物を降ろし、工場へと向かう。

 工場の事務所だったらしき場所に入り口がある。そこには看板が掲げてあった。

 「ヘルプラネッツ・・・・凄い名前」

 詩織は看板を眺めながら呟く。

 「ネーミングセンスがわるぅ」

 摩耶は呆れた果てたように呟く。

 「気にしない。入るわよ」

 中に入ると、まるでカフェのような内装だった。

 「ここは休憩場って言うか。カフェになっているの。カレーが美味しいのよ」

 「へぇ・・・」

 「受付はここよ」

 カウンターのようになっている場所に行くと、若い女性が居た。

 「あぁ、ネムさん。そちらも一緒?」

 「えぇ。初心者よ。1時間ぐらい射撃練習してから、ゲームに参加させて貰うわ」

 「解りました。じゃあ、レンジのレンタル料はポイントから引けばいい?」

 「そうして、2レーンで良いから」

 ネムが受付を終えると、更衣室へと向かう。

 元は従業員用の更衣室らしき場所には100円を入れるロッカーが並んでいる。

 「ここで着替えをするわ。何だか、動き易そうな恰好をしているけど・・・店長が戦闘服もセットにしてくれているみたいだから、こっちに着替えしましょうか」

 ネムに言われて、二人は着替えを終える。二人が着替えたのはかつての米軍が採用していたウッドランドパターンの戦闘服である。

 「まぁ、よくある感じの」

 ネムも着替えをするが、ロシア軍の戦闘服に着替えている。

 「戦闘服って生地が厚いからゴワゴワするね」

 詩織が初めて袖を通した戦闘服を撫でる。

 「こんなんで動き回るんや。なんか大変そうやなぁ」

 摩耶も不思議そうに戦闘服を眺めている。

 「次は装備品よ。まずはこれを腰に回す」

 ガンベルトを二人に渡す。それにはすでにマガジンポーチなどが装着されている。

 「他弾数マガジンを使うから、マガジンポーチとか要らないけどねぇ」

 二人が装着したガンベルトにあるポーチはほぼ空だった。

 「ウェストにガンベルトを付けておくと、腰回りがぴったりして、動き易くなるからね」

 二人はガンベルトを装着した姿を鏡で見る。

 「なんだか、本当に軍人さんになったみたい」

 詩織は少し、いつもと違う自分に驚いている。

 「あとはこれが一番大事ね。ゴーグルとフェイスプロテクター」

 詩織が出したのは東京マルイが販売しているゴーグルとフェイスプロテクターが一体になっている物だ。

 「ゲーム中はこれを絶対に外してはいけません。例え、ゴーグルが曇っても、外してはいけません。これはサバゲの中では絶対的なルールです。絶対に守ってください。仮にゴーグルが曇ったら、諦めて、その場で曇りが取れるまでジッとして、ください。それだけです」

 強い感じにネムに言われながら、二人はゴーグルを受け取る。そして、頭から被った。

 「視界が思ったより・・・・」

 微妙に曲がっている部分で歪むし、肉眼に比べて、視界は多少、悪くなる。

 「それで目を保護するの。絶対に外してはダメよ。あと、曇り止めを塗っておくと、良いわ」

 ネムの説明を受けながら、二人はゴーグルをしっかりと装着する。

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