雑記:F県空原郡宇津代村連続失踪事件について

[投稿者:オカルト犬]




F県空原郡宇津代村そらはらぐんうつしろむら連続失踪事件。


二〇××年から二〇××年にかけ、F県空原郡宇津代村で発生した複数の失踪事件の総称である。

女子高生Aが行方不明になった一つめの事件、同年八月に事件現場を訪れた男子大学生Bが行方不明となった二つめの事件、そして一年後にミイラ化した身元不明の遺体が発見された三つめの事件。

しかしあの未曾有の大震災の直後ということもあり、この三つめの事件については地上波メディアで大きく報じられることはなかった。


特筆すべき点は、三つの事件のいずれにおいても、事件に関係があると思われる映像が記録されていたこと。

そしていずれの事件においても正体不明の人物が映っていたことである。


この二つの失踪事件と一つの死体遺棄事件は未解決事件コールドケースとして近年、TV番組でも取り上げられている。

家族の意向もあり、警察は回収した携帯端末に録画されていた動画を公開。

現在も情報提供を呼びかけている。



以下、事件概要を記す。




【宇津代女子高生失踪事件】


二〇××年五月一日、F県S市に住む高校一年生のA(当時一五歳)が旅行先の宇津代村で行方不明となった。

Aは学校の友人二名と旅行に来ており、親の同意書を準備して宿泊先も決まっていた。

これまでにもこの三人で旅行をしたことがあり、同行していた二人によれば、Aに特に変わった様子はなかったという。

Aは日頃からピクニックや登山に親しんでおり、連休を利用しての旅行を楽しみにしていた。


三人は午前一一時、宿に到着。

荷物を預けると連れだって食事に出かけ、宿から徒歩で十分ほどの距離にあるそば屋で昼食を取った。

このときAは天ぷらそばを注文して食べている。


食後、各々が軽い散歩に出かけることになった。

午後一時半に茶屋の前に集合することにしたが、約束の時間になってもAはやってこなかった。

携帯端末で連絡しても応答しなかったため、一時間ほど二人はAを探したが見つからず、やむを得ず茶屋の従業員に相談。

宇津代村駐在からAの家族に連絡が届き、事件が発覚した。


同日中には警察や消防、ボランティア含めて非常に大規模な捜索が行われた(日が沈みかけていたこともあり山間部の捜索は翌日に持ち越された)。

捜索の結果、宇津代村内でAの手荷物が入った手提げ鞄が発見されている。

警察はAが何らかのトラブルに巻き込まれたと見て、事件・事故の両面から捜査を続けている。

今日に至るまでAの行方はわかっていない。


宇津代村は空原郡郊外にある農村で、現在は観光業が盛んな土地で知られている。

国内有数の面積を誇る湖、宇津代湖に面している他、登山コースにほど近いことから国内外の観光客、登山客が多く訪れる土地である。

古くからの自然が残る美しい風景を求めて、行楽シーズンには多くの観光客で賑わっていた。

事件当時も不特定多数の行楽客が村に出入りしていた。




・失踪した女子高生の携帯端末の動画

[動画リンク]×××××://omntu.be/×××××××


 公開された動画にはAの肉声と、Aと会話する老婦人の姿が収められている。


「おばあさん、地元の人ですか?」


 Aの声。


「そうだよお。あんたはどこからきたのお?」


 赤い洋服を着た女性。年齢は五〇代から六〇代と思われる。

 老婦人はほがらかに微笑んでプラスチック製のベンチに座っている。


「S市からです」

「そうかいそうかい。よくきたねえ」


 老婦人の目線。

 撮影者であるAの顔のあたりか、そのすぐ上を見ている。


「うんうん、わかいこはうれしいねえ。あたしゃいつまでもながいきするつもりだからねえ」

「この辺って見といた方がいいところ、ありますか?」

「ああ、それならねえ。いはみさまのところに、あいさつしないとだめだよお」


 いはみさま、とAの声。

 老婦人は鷹揚にうなずくと、Aの頭上に視線を向けた。




「いはみさまはねえ、いっつもあたしらをみとるからねえ。悪いことしちゃいかんよお」




 映像中で女子高生Aと会話していた女性だが、地元住人ではなく素性は不明である。

 警察はAの失踪と何らかの関係があるものと見て女性を探しているが、現在も有力な情報は得られていない。













【宇津代大学生失踪事件】


この事件は女子高生失踪事件を受けて、個人的にこの事件を調査していた大学生Bが行方不明になったものである。

Bが一人暮らしだったこと、宿を取っていなかったこと、B単独での行動だったことが災いし、事件の発覚は遅れ、家族から捜索届けが出されたのは二〇××年八月一二日。

後に残されていた携帯端末の動画から、Bが何らかのトラブルに巻き込まれたのは八月三日だと判明している。


Bは女子高生失踪事件が報道されてから強い関心を寄せており、現地へ赴いて聞き取り調査のようなことをしようとしていたらしい。

彼は日常的に未解決事件に関するブログの管理人をしており、考察や資料収集をライフワークにしていた。

宇津代村へ向かうことを前日に電話で友人へ話しており、それが後述するBの荷物の発見に繋がった。

事件当日のBの足取りは詳しくつかめていないが、いくつかの目撃証言から三日午前八時には木造アパートを出発していると思われる。


警察の捜査により、宇津代村の外れの方にある民家周辺でBのリュックサックと携帯端末が発見された。

現在もBの行方はわかっていない。





・男子大学生の携帯端末に残っていた動画

[動画リンク]×××××://omntu.be/×××××××


 屋外、晴天。

 周辺は耕作放棄された畑になっており、ぽつんと一軒家が立っている。

 雑草が生えて荒れ放題になっているが、民家の敷地内に人影。


「あのー」


 Bの声。

 作務衣のような服を着た七〇代ほどの男性がカメラに映る。

 無表情でBと目を合わせようとしない。


「この辺で失踪した女の子の話なんですけど、ちょっといいですか?」


 男性はBと目を合わせず、Bの頭上に目を向けている。




「このばちあたりが」




 低い声。


「え、えっ、なに」


 うろたえるBの声。

 映像は暗転(撮影者のBが携帯端末を落としたと思われる)。

 以後、風で揺れる草木や遠方の自動車の走行音などが数十分続く。

 携帯端末はバッテリー切れまで放置されていたと思われる。


 動画に映っていた民家は撮影当時、すでに空き家となっており住人はいなかった。

 Bと会話していた男性の身元は不明である。

















【宇津代村ミイラ事件】


二件の失踪事件の翌年、五月五日。

山菜採りにやってきた宇津代村在住の男性により、山中でミイラ化した女性の遺体が発見された。

女性の遺体は完全に水分が飛んでおり、腐敗の痕跡は見られなかった他、衣服を綺麗に身に着けた状態だった。


発見現場は比較的、人里に近い山の斜面にあり、山に入るものがいればすぐに異物を発見できる程度に視界も良好だという。

また空原地方は春から夏にかけて湿潤な気候で知られ、遺体が乾燥するような自然環境にはない。


行方不明の女子高生Aとは衣服、背丈、歯形、いずれも異なったためミイラはAの遺体ではないことが確認された。

外傷はなく死因は不明。

現場にはビニール袋に密閉された携帯端末が落ちていた。




・撮影者不明の動画

[動画リンク]×××××://omntu.be/×××××××



 薄暗い森の中、おそらく胸ほどの高さでの録画(植生から遺体と携帯端末が発見された現場近くの山中と思われる)。

 映像はぶれていて、足下の地面と斜め上の木の枝を交互に映している。

 女性のものと思われる声。


「もうゆるしてくださいよお」


 画面中央、カメラの先に人影。

 撮影者に背を向けて歩いており、逃げているようにも見える。


「ゆるしてえ」


 撮影者の反応はない。


「わるかったから、よこどりしてわるかったから」


 ガサガサと物音。


「ゆるしてよお」


 動画の撮影者および遺体の身元は現在もわかっていない。



















【編集メモ】

・動画の中で聞き取れた単語「いはみさま」。

・この地方の民間伝承に登場する「イハミ様」?

・S市内の神社の祭神。安産と豊穣を司る山の神、とのこと。

・中世の終わりまで人身御供を行っていたとの情報。

・可能なら知人に資料を送ってもらう。



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