髑髏の仮面





――髑髏の仮面スカルマスクという都市伝説がある。





 名称は一定ではなく、語り手によっては髑髏とかぎ爪スカルクロウという言い方もするが、その内容に違いはない。

 都市の闇に潜む怪異、悪人の下に現れる断罪者、罪人を連れ去るこの世ならざる死神。

 そのように不気味な存在として扱われる一方、スカルマスクによって事件に巻き込まれたところを救われたという証言者もいる。

 ありふれた物取り強盗や通り魔、婦女暴行事件――ある程度の大きさに育った都市にはつきものの事件の被害者になりかけたところを、危ういところで救われたのだと。

 無論、こんな作り話めいた証言を警察がまともに取り合うはずがない。

 不審者の出没情報などの形で反映されることはあっても、公式にこの怪人の存在が肯定されたことは一度もなかった。


 そう、当然のことながら――この世のものとは思えない怪異に襲われ、スカルマスクの介入で逃げ出すことができた、などという証言も信じられたことはない。


 もちろん世の中には暇人がいるもので、山ほどのイカレた与太話の一部としてインターネット上の掲示板やSNSを賑わせてはいた。

 たとえばそれは、ある種の政治勢力に属する政治家や実業家たちは人食い悪魔崇拝者であり児童へのレイプ殺人を繰り返しているだとか、現代文明への粛清と選民による新世界をもくろむ古代民族の末裔がいるとか、飛行機雲は航空機から散布される有毒な重金属微粒子を用いた人工地震兵器の一種であるとか、そういう荒唐無稽な陰謀論と大差ないものとして、だが。

 ソラハラ地方一帯が巨大企業オムニダイン・グループによって再開発されて以来、少しずつ、全国平均よりも行方不明者数が増えていることと、怪異の目撃証言を関連付けるのは狂人の戯言でしかない。


 すべては都市の経済規模の増大と、それに伴う人口増加によって引き起こされた治安の悪化――よくある事象なのだとまともな人間は考える。

 多少の違和感はあるだろう。

 イヌイ・リョーマのように、ひょんなことからこの都市のオカルト話について調べる人間も出るかもしれない。

 しかしそれは、あくまで常識に基づいた真っ当な世界観――この世に超自然的怪異など存在せず、超科学を秘匿する秘密結社などいるはずがない――に基づいた探究心の産物だ。


 彼/彼女はそうではいられなかった。

 この世がどれほどおぞましい異形と異端に満ちているか、身を以て知っていた。

 彼/彼女自身が、それらの産物なのだから。


 その身に肉体に収められた電脳――超高密度の虚空子演算器エーテル・コンピュータは、常時、都市に張り巡らされた防犯カメラの網に接続されている。

 異常なまでに神経質に、過密に設置されたこの都市の監視網は、カメラの死角を考えてなお有益な情報源たりえる。

 セキュリティが設定されていないような民間の防犯カメラまで含めれば、完全ではなくとも、予兆を察知するには十分な目――さながら見張りの天使エグリゴリそのもの。


 監視カメラの設置数が犯罪の抑止になり得ないことは、統計から明らかになっている。

 ほとんどの犯罪行為は突発的なものであり、経済的困窮から暴力性の発露に至るまで、制御されざるものだからだ。

 監視カメラが抑止しうるのは真に計画的な犯行だけであり、また、それらの犯罪はカメラの存在を前提により巧妙に実行されることだろう。


 ゆえに、ソラハラ市を覆う監視網の本質は防犯などではない。

 カメラ群の設置目的は記録だ。

 この都市のあらゆる場所で、いつか起きるであろう事象の詳細な記録。


 都市再開発計画において巨大な資本を投じたオムニダイン・グループは、防犯カメラ網の導入から保守点検までを請け負っている。そしてオムニダインの創業者アレックス・ゴールドスタインには、余人の知らぬもう一つの顔があった。

 雪に覆われた山脈と荒涼とした砂漠の続く荒れ野の地下深くに作られた狂気の王国シャンバラの創設者としての顔だ。

 そこから始まった、もう一つの歴史、もう一つの科学を信仰するものたち――悪夢のような組織は今もなお暗躍している。

 この都市を実験場とするために。


――何が目的だ?


 そして今宵、彼/彼女が感知した異常が一つ。

 暗い青色の外骨格が、夜闇に紛れて都市を疾走する――ビルの壁面や屋上を蹴り上げ、肉眼では認識することすら叶わぬ速度で移動しているのだ。

 常時、周囲のあらゆる監視機器・情報端末へ侵入と操作を行い、映像や写真からその痕跡を消し去りながら。

 彼/彼女がその身に備えた超能機構――固有能力として発現したネフィリムの特性の一つ、現行人類の情報通信技術であれば即座に掌握可能な電子戦能力。

 それゆえに不確かな噂話という形でしか証拠が存在しない怪異ブギーマン、それが彼/彼女だった。









 そこは建設中の自走式立体駐車場だった。

 建設中と言ってもハコはほとんどできあがっており、電源ケーブルなども引き終わっているから、あとはちょっとした内装の仕上げすればすぐに使用開始できるような施設だ。

 時刻は深夜と早朝の間、最も人目がない時間帯。

 そこに人影があった。


 異相であった。

 仕立てのいい黒いスーツの上からコートを着込み、顔を黒い光沢のある覆面で覆った男――まさに怪人と言えよう。

 覆面には無数の素子が埋め込まれており、それ自体が一つの回路を形成している。

 虚空子回路エーテル・サーキットと呼ばれる異端科学の産物、この世ならぬ神秘の探求オカルティズムが生み出した技術体系であった。

 無人の立体駐車場に所在なげにたたずむ男の背後には、搬送用の保護シートが被せられた巨影が一つ。

 普通自動車一つ分ほどの横幅と奥行き。

 けれど、それは乗用車に比べて重すぎる別の何かだった。



「――来ていただけましたか」



 怪人が顔を向けた先、照明の死角となる柱の影から現れたのは青黒い髑髏。

 スカルマスク。

 都市伝説に語られる断罪者――彼/彼女を見た怪人は、落ち着いた声音で聞きもしないことを語り始めた。


「その異形、その性能……始まりの地〈シャンバラ〉の産物であれば、すべて納得がいくというもの――私は大いなる三つ葉の同盟シャムロックの使いです。この肉身うつわはユバルとお呼びください」

「貴様らが直接、姿を現すのは初めてだな。わざわざ〈シャンバラ〉の産物を見せびらかした理由はなんだ?」


 目の前の怪人がこれ見よがしに虚空子回路を用いたフルフェイスマスク――少なくとも一般社会には流通していないガジェット――を露出させ、彼/彼女をここにおびき出したのは明白だった。

 これまでのところ、彼/彼女が交戦した相手は先日の「蜘蛛女」のような怪異の類か、人間の犯罪者の類が大半である。

 そう、今のところは本当の敵との接触は避けていた。


――三つ葉の同盟シャムロック


 世界的企業グループの創業者のもう一つの顔、地底科学王国シャンバラ源流ルーツとする秘密結社である。

 創設者アレックス・ゴールドスタインを筆頭に、彼の信頼する二人の科学者を加えた三人を幹部とする組織――彼/彼女にとっても因縁の深い相手だが、テンレン家の養子となってからは可能な限り接触を避けてきた相手。

 この都市でスカルマスクが活動を開始するまで、向こうはこちらの生存に気づいてすらいなかったはずだ。


「ネフィリムの生き残りよ、貴殿が今までどのように生存していたのかは問いません。此度はただ貴殿と対話をしに来たのです。〈シャムロック〉に貴殿と対立する意思はございません」

「対話だと?」


 白々しい話だった。

 地球外生命体の残滓と人間の遺伝子を掛け合わせた非道な実験の成果物、ネフィリム体は秘密研究所〈シャンバラ〉で生まれ、その大半が理由も定かでないまま研究所諸共に粛清された。

 彼/彼女はその数少ない生き残りである。

 おびただしい数の人体実験を行い、その成果も犠牲も秘匿・隠蔽する――〈シャムロック〉とはそういう組織である。

 ここ百年の人類史を歪めた諸悪の根源と言ってもいい。


「ええ、まずは確認を。貴殿に〈シャムロック〉へ参加……我々の同志となる意思はありますか?」

「……ほう?」

「この都市における怪異の増加傾向は、我々にとっても興味深いものです。自律型虚空子回路……怪異の発生率、成長速度、共に驚異的と言っていい。これほど自然な実験環境は貴重です。どうか彼らの健やかな成長を見守ってはいただけないでしょうか」


 おかしな話だな、と呟いて。

 彼/彼女は笑う。


「再開発の過程で都市全域に張り巡らされた呪術陣――虚空子回路エーテル・サーキットが人為的ではない、と?」

「お人が悪い……そこまでご存じでしたか」


 悪びれずに肩をすくめるユバル。

 このソラハラ地方に張り巡らされたのは、送電網や情報通信網だけではない。

 虚空子回路エーテル・サーキットと呼ばれるテクノロジーそのものは、表社会にも先端科学の一分野として流出しているが、まだまだ研究段階で実用はおろか工業的大量生産マスプロダクトなどもってのほかだ。

 だが、秘密結社シャムロックが保有するそれは違う。


 プロジェクト・ネフィリム――外宇宙文明に由来する存在の解析結果から、彼らはいくつかの成果を生み出した。


 一つはネフィリム体。エネルギー保存の法則、質量保存の法則に反したオリハルコンの怪物である。

 一つは魂の存在証明。人の意識の源が、神経組織の電位活動や脳の分泌する化学物質の作用などではないと突き止めた。


 それらの応用が、増幅型回路アンプと呼ばれる代物だ。


 インフラ整備に乗じて都市全域に張り巡らされた回路は、そこに住まう人間の精神活動によって生じる虚空子エーテルを吸収、増幅して指向性を持たせて吐き出す。

 なんということはない。

 この都市で目撃される怪異、幽霊、お化けの類は、異端科学が生み出した被造物クリーチャーなのだ。


「貴様に問おう。あの化け物どもの性質を、把握しているのか?」

「それを知るための観測なのですよ、名も知らぬネフィリムよ」


 論外であった。

 一体どこのバカが、正体不明の存在を人口密集地で養殖して観察しようなどとほざけるのか。

 無言の彼/彼女から察したのか、ユバルはいかにも残念そうにため息をついた。


「お気に召しませんでしたか。実に、残念です」


 独自の発光パターンを浮かべる覆面――虚空子回路の活性化に合わせて、男の背後、シートにくるまれていた何かが動き出す。

 先ほどからスカルマスクの電子的侵入を受け付けなかったそれの、制御系に用いられているのは通常の演算処理装置コンピュータではあるまい。

 なめらかな駆動音――ここが無音に等しい閉鎖環境でなければ、聞き逃してしまいそうなほどに静かな音。

 この時点で動力源は内燃機関ではない。

 シートが内側から盛り上がり、膨れて、破れていく。

 姿を現すものは、まるで。


 鋼の獣。


 肉食獣のようなシルエット――だが、陸生哺乳類でこれほどの巨体はヒグマの類でなければありえない。

 そして金属繊維の外皮と合金の骨格を持つヒグマはこの地球上に生息してはいなかった。

 人工筋肉に支えられた太い四肢はまさしく獣の異様だが、頭部と呼べるものは存在せず、五〇口径の重機関銃を無人銃座として背負う異形。



「テクノゴーレム・ウェアウルフ。如何なるハッキングも受け付けない完全自律型スタンドアローンの対人兵器です」



 テクノゴーレム。

 二〇世紀半ばから異常発達を遂げた機械仕掛けの兵士であり、連邦の旧大陸への軍事介入をきっかけに実戦投入された。

 近年では中東統合戦争において投入され、おびただしい数のゲリラ、テロリスト、民間人を殺戮した自動人形オートマトン



「正規軍では運用できない特別仕様、まさに我々の叡智の結晶と言える逸品です。是非、ご賞味ください」



 ユバルが言い終えるよりも早く、鋼の獣がスカルマスクに飛びかかっていた。









 千年に一人の天才と言われた傑物アレックス・ゴールドスタイン。 

 彼の地底王国〈シャンバラ〉より生まれた無数の科学技術は、テクノロジーの優越に支えられた歪んだイデオロギーの伸長をもたらした。

 結論から言おう。

 冷戦と呼ばれた東西陣営を分かった戦争は、あっけなく、終末時計の針を早めることさえなく終結した。

 アレックス・ゴールドスタインが味方した国家が、陣営こそが実質的に勝利を収めたのである。

 人類史に燦然と輝く巨人、現代のプロメテウスとも称される男の脳が思い描いた理想世界。



 まったく冗談ではなかった。



 鋼の獣の跳躍――乗用車ほどもある体躯からは想像もつかない軽やかさ。

 〈シャムロック〉が流出させたテクノロジーの産物か。重機関銃を警戒していたスカルマスクが一瞬、あっけにとられるほどの跳躍距離。

 自然界の動物が見せる運動性そのものの動きは、生ける泥人形ゴーレムの名に相応しい。

 しかし遅い。

 青黒いオリハルコン製の外骨格が跳ぶ。テクノゴーレムが着地するよりも早く、鉄筋コンクリート製の柱を蹴って真横に飛ぶ。

 加速と質量による体当たりは不発――急制動をかけながら、血に飢えた人狼ウェアウルフの火器管制システムは速やかに敵へと銃口を向けた。

 瞬間、猛烈な銃火。

 五〇口径の弾丸の嵐は容易く立体駐車場の床を、壁をえぐり打ち砕いていく。

 埋め込まれていた電線の類が千切れ、火花を吹いてショートする――ブレーカが降りて電力供給が止まり、照明が消えるまで数秒。

 耳をつんざくような重機関銃の音をBGMに、意気揚々とユバルは謳う。


「父母から虐待の限りを受け、生存の意思すら手放したむき身の魂――傷つき倒れた幼子が、生きようともがいているのです。異端科学によって生まれ変わった鋼の身体、その尊い輝きを目に焼き付けましょう」


 だが、スカルマスクには当たらない。

 既存の如何なる兵士、兵器にも不可能な殺人的Gを前提とした戦闘機動のたまもの。

 四肢のすべてを生かして、床を、壁を、天井を自在に跳ね回る青黒い死神――だが、テクノゴーレムとの距離は遠い。

 軍用の火器管制システムに支えられた銃火は、牽制として十分以上。


「すべての生命は生まれながらに祝福されている――我が師の教えです。苦しみの中でもがいた命が、こうして存在意義を全うするのです」


 ユバルの垂れ流す能書きを聞き終える。

 彼/彼女はコンクリートの柱の陰に飛び込みながら、おかしくてたまらないと嘲笑した。


「仮面がなくては悪行一つ為せない、卑怯者が言いそうな戯れ言だ。露悪趣味に走らねば生きていけないと見える」


 虚空子エーテルの流れを視る。

 ネフィリム体としての基本的機能、虚空子の追跡によって、それを見つけた。


 なるほど、あのテクノゴーレムに電子的侵入ができないわけだ。

 本来の無人兵器としての仕様を逸脱した改造品――人の霊魂を核とした制御装置を搭載した怪物なのだから。

 おそらく外科手術で取り出した脳を加工、虚空子回路エーテル・サーキットとして機能させているサイボーグ体。


 消耗品に過ぎない機械兵に、死を待つばかりの幼子を使う。

 なんとも連中のやりそうな外道だった。



――もはや人に戻す術はない。



 ならば獣として葬ろう。

 それが彼/彼女にできる唯一の慈悲であった。

 これまでの銃撃で火器管制システムのアルゴリズムを解析、理解――予想される弾丸の軌道をかいくぐるように跳躍、疾走。

 立体駐車場という環境では、スカルマスクの機動力から逃れる術はない。


 テクノゴーレム・ウェアウルフの前足に仕込まれた超振動鉄槌――対戦車ロケット弾に匹敵する破壊力――なぎ払うように振る舞われた前足を回避。

 振り下ろされた鉄槌のごとき一撃が床を粉砕すると同時に、その前足を踏み台にして駆け上がる。

 積層セラミックの鎧の隙間、防弾繊維の獣皮を突き破って。

 無人銃座の根元へかぎ爪を突き立てる。


「――貴様の苦しみは、ここで私が絶ち切ろう」


 手刀の一撃だった。

 柔らかな脳組織を貫き、握りつぶす感覚。

 ピンク色の肉片に塗れた右手を引き抜く――戦闘開始から三〇秒足らずで沈黙するテクノゴーレム。

 振り向きざま、戦闘中に握り込んでいた拳大のコンクリート塊を投擲した。

 投げつけられたコンクリートの塊が、逃亡を試みていたユバルの右足を直撃。

 ぼきり、と鈍い音がした。


「ご……がぎっ……!」


 潰れたカエルのようなうめき声を上げる男――その真横に着地。

 人外の膂力で投げつけられたコンクリートの塊は、ユバルの足の骨を綺麗に骨折させていた。

 うつ伏せに倒れ込んだ男の肘関節に、容赦なく足を踏み降ろした。

 卵の殻が潰れるような感触と、関節の骨が砕ける音。


「安心しろ、手足の一本二本で貴様らは死なん」


 普通なら激痛のあまり失神しているだろう。

 だが、〈シャムロック〉の虚空子回路を装備した人間が、この程度で意識を失えるはずがなかった。

 痛覚が残っているのなら都合がいい。


「〈シャムロック〉はこの都市で何を産み落とそうとしている?」


 砕けた肘関節を踏みにじり、彼/彼女は問うた。

 覆面の男は、浅い息を繰り返しながら、それでもなお、穏やかな口調で諭すようにしゃべり出す。


「心外なことです……我々が関わらずともいずれ……虚空の彼方より……神が降臨するのですから……」


 神――何らかの現象/生命体を指す呼称か。

 さらなる追求をせんとした瞬間、ネフィリムの目は、眼下の男の肉体の異常を感知していた。

 生身の人間ではあり得ないほどのエーテルの増大――その破壊的な輝き。

 半ば物質化しはじめたそれは、目視できるほどの発光現象を伴って明滅。


「師よ……偉大なるカインよ……ご覧になったとおりです……どうか愛されざるものネフィリムに慈悲を……」


 飛びすさった彼/彼女の前で、男の身体が塵になって消えていく。

 まるで砂場に作られた城が風によって崩れていくように、身を包む衣装ごと肉体が分解されているのだ。

 だというのに、ユバルを名乗った男に死を恐怖する様子はない。

 ただ、穏やかで満足げな吐息。



「ああ、良き探求を……」



 呟きとともに、男の命はこの世に存在した痕跡ごと消えていた。

 後には、その質量分の塵の山だけが残されている。



「自爆――いや、体組織を自壊させる虚空子回路エーテルサーキットか」


 遠隔式か、時限式か、任意に起爆するのかは不明だが。

 次に尋問するときは対策を講じるべきだろう。


 幼子の成れの果てを殺め、もう一人には目の前で自決されたというのに。

 彼/彼女の心は動かない。

 ただ冷たい実感だけがあった。



――こんな世界が素晴らしいモノであってたまるか。



 彼/彼女はこの世界を憎んでいる。

 自らを生み出したモノ、自らを生み出した歴史を嫌悪し続ける。

 そして何よりも、人でもなく天使でもない我が身を呪っていた。


 スカルマスクは、決して正義の味方スーパーヒーローにはなれない。

 そんなものが、この世に存在できるはずもないのだ。






 人間は、人の善で救えるほど上等にできてはいないのだから。






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