副島君
「...ええ、こちらは問題なく。彼は案の定大人しいですし...連絡はそれだけですか?あー、そういうわけじゃないんですけど。まだ会社にいるんで、あんまりよくなくないですか?...はい、また掛け直します。そんじゃ」
「副島さーん!」
端末の電源を切ると、待ってましたと言わんばかりに五、六人の女子社員たちが顔を出した。みんなすっかりお帰りモードだ。
「もしかして、彼女ですか?」
「どう思います?」
ちょっと含みっぽい顔でにやけて見せると、えーっと高い声が上がる。わんわんとエレベーターホールに反響したので、しー、と唇に指を当てた。
「冗談っすよ。どうしたんですか、みなさまおそろいで」
「せっかくの金曜だし、若いので飲みに行こうかって話をしてたんだけど。副島君もどう?」
茶髪の先輩が聞いてくる。副島はいつもの笑顔で
「じゃ、行きましょうか!」
と応じた。雑居ビルの階段にまた歓声が反響した。
「静かにー!!!とりあえず荷物取ってきますねー!」
副島がデスクに戻ると、桜はまた画面を睨みつけていた。元々の目つきも悪いのに、眉間にシワが寄ってとんだ形相をしている。
「先輩、今そこでキョウカ先輩たちに飲み会誘われたんですけど、一緒にどうです?男子一人だと心細いし」
「ダウト。この前ランチに行ってたじゃないか」
バシンと断言される。ブラックコーヒーの缶が1つ空いた。
「桜先輩って何かと容赦ないですよね。歯に絹着せぬっていうか、オブラートがないっていうか」
通勤鞄を抱えながら肩をすくめて見せると、桜は目線だけこっちに向けてはは、と笑った。
「ソエジマ君も大概だと思うけどね。遠慮しとく」
先ほどのこともあり動いてくれることはないと判断したので、副島はあっけなく引き下がることになった。
大通り沿いは週末ということもあって活気がある。男子がいると客引きがなくていいわーなどとたわいないことを話していたら、ふと同期のミキが言った。
「そういえば副島君って桜さんと仲良いよね、さっきも声かけてたし」
「そうそう、下手すると支部一あの人と喋ってるかもよ」
上から誰かが重ねる。
「桜先輩ってどんな感じなんですか?確かに初めて喋りかけたときも若干塩対応ではありましたけど...」
「別に悪い人ってわけじゃないんだけどさあ〜」
ああ〜、とみんな頷いている。
「何というか、冷たい感じがする人だね」
「確かにねえ、飲み会とか誘っても絶対来ないもんね」
「仕事とかでちょくちょく会話ありますけど、それ以外あまりに何もなさすぎてなんかSiriと喋ってるみたいなんですよ」
会話頻度とかもそのレベルだね、と皆同意した。
「副島君に対してだけだね、あんなに笑ったりするの」
キョウカがふと思い出したように言ったので、また確かに〜!と盛り上がる女性陣。
「え〜、お気に入りになれましたかねえ」
「気をつけたほうがいいわよ、あんなのとつるんでたらあなたまで根暗になっちゃうかもね!」
桜先輩がかわいそうですよ〜!とミキがフォロ〜して、笑い声がまた上がった。高いヒールを鳴らして歩いていく彼女たちは、普段よりずっと楽しそうに疲れている。
コントラクトプリセンス 十朗 @re-juro
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