このソエジマという男

 このソエジマという男は実によくできるやつで、僕は実に驚いた。こちらにきてからたったの一週間ほどで、なんとなくギスギスしがちで薄暗いこの支部の照度を持ち前のコミュニケーションスキルでで百ルクス上げ、イヤミがちな支部長にも何かと頼りにされ、女性陣にも気に入られ________まあここまでくればいかに彼がこの支部に貢献していたかがわかるだろう。

 今思えば、本社が彼のような人材を手放すわけがないのだ。明らかに空気が変わって皆楽しそうに仕事をするようになり、あまりの変化に支部長が呼び出された。

 「桜先輩って何か影っぽいですよね」

 そう、この支部一無気力かつ女子社員には人付き合いの悪さで評判の僕にまで超積極的に話しかけにくるのだから、初めはこちらも少々面食らっていた。

 「なにそれ、陰キャ的な意味?否定はしないけどさ」

 僕は彼との会話にそんなに興味はなかった。仕事の時滞りなくコミュニケーションが取れればいいや、くらい。そんなことよりやらなければいけないことがたくさんあったから。彼はあっというようなそぶりも見せずに、淡々と続ける。

 「いや別に貶してるわけじゃないんですよ、ただ、いつも疲れてるって感じの雰囲気」

 あはは〜、と笑う。随分日が傾いて、支部内が閑散としてきたころ、彼はノーパソの蓋を畳んで立ち上がった。

 「そういえば、今日は晩飯どうですか?」

 「あー、悪いけど」

 リリリリリリリリリリ、と、聞きなれない電子音が会話を引き裂いた。

 ソエジマ君は慌てた様子で立ち上がり、カバンから小型の端末を取り出した。

 「あ、すいません、ちょっと電話出てきますね」

 「ほーい。今時珍しいね、PHS?」

 またいつものあはは顔に戻って、彼はオフィスを出て行った。邪魔がいなくなったので、僕はすっかり溜まっている自分の作業に戻ることにした。

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