何もおかしいことは特になかったはずなのだけれども
「こんにちは」
と声をかけられて驚いて顔を上げると、いつの間にか隣のデスクに居を構えた新人君が覗き込んでいた。くわっと開かれた彼の大きい瞳が眩しくて、桜はもともと悪い目つきをさらに悪くした。
「ああ、あの本社から来た...」
「副島です。よろしくお願いしますね、桜先輩」
に、と白い歯を見せて笑う彼に、桜はまたああ、と気の無い返事をした。そういえば昨日のタスクがまだいくつか残ってたっけ、とtodoリストを眺めながらプルトップを引っ張る。昨日は夜更かしをしすぎた。
「先輩、持ち帰りですか?」
「へ?」
ボケーっとしていたところに飛び込んで来たので、素っ頓狂な声をあげた桜を副島はクスクスと笑う。
「ここあんまり残業とかないって聞いて喜んで来たんですけど、結構忙しそうですね。なーんだ」
「でも本社に比べればよっぽどマシらしいよ?この前来たお偉いさんが愚痴ってた。よかったね、転属できて」
「ほんとですね、よかったです」
はは、と桜は笑った。軽い会話もそこそこに、お互いそれぞれの仕事に戻っていく。
それはそれは、たわいもないはずの、一日が始まった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます