第25話
目覚めたのは、昼食を終えてから3時間後。舞衣と特に約束をしていた訳でもないので、待っていてくれたりはしないだろう。
嫌な夢を見た。本当に忘れたい夢を。
時々、あの夢を見てしまう。忘れたいはずなのに、体が、脳が、そのことを忘れさせないと言っているかのように。
姉に負け続け早16年。テストで負けようがコンクールで負けようが、どうでもよかった。どんな努力を積み重ねたら、姉に勝ることができるのか。未だにわからない。
あの夢は、絶対に姉に勝つ、という意志を忘れないために思い出す、戒めのような夢なのだ。
気分が落ちているが、ゲームにログインをする気はあった。ゲーム機を装着して一言唱える。
「コネクト・オン……」
いつものあの感覚。まばゆい光に包まれた後、アリサはいつもの場所へと立っていた。
さて何をしようかと考えた時、1件のお知らせに気がついた。
「あ……ランキング集計終了、か」
そこにはTOP10のプレイヤーネームがズラっと並んでおり、アリサの名前は一つだけ見つかった。
「アリサ……2位か。1位はグレアさんか……」
ゲーム初の競争の場で、初黒星。負けた相手が姉では無いのが不幸中の幸いではあるが、それでも負けは負けだ。
ただでさえ低いテンションが、もっともっと低くなる。
これではだめだと、頬を叩く。顔を動かして表情筋をほぐす。これは、いつも有咲が元気を出す時にやることだ。
「よしっ。気分を変えるために『大海』ステージ行ってみよっかな!」
アリサは門へと歩き出した。
昼食を終えてすぐ、舞衣は部屋に戻りすぐにログインしていた。
今日は久々に占いでも、と思ったからだ。
この世界に来てすぐに、あの占い屋に向かった。怪しげな濃い紫の垂れ幕。中は間接照明のみで薄暗く、如何にもな店だった。
中には老婆のNPCがおり、手相、水晶など、いくつか選べるようだった。
その中でも、ローズは水晶がお気に入りだ。様々はバフが掛かる。
「今日も水晶でお願いします」
「はいよ」
NPCの向かいに座ると、何やら水晶玉が怪しげな光を出して光り出す。そして水晶の中には何かが映るのだ。
「今日のあんたは、あまりいい運とは言えないねぇ。火と水の仲が悪いように見える。火と水が同時にあるとこには、あまり行かない方がいいねぇ」
NPCか言い終えると、ローズの身体にはキラキラと輝くエフェクトが現れた。
「今日は、守護の力だよ。防御と魔法防御が上がるヤツさ」
その倍率約1,5倍。防具のプラス値も倍率がかかる為、強ければ強い程恩恵が得られるのだ。
これが500円とは、なかなかいいものである。
店を出て、老婆の忠告を再度確認したローズは、『大海』ステージへと向かった。
門を抜けると、そこは漁師の町。海の上に造られた少し大きな町で、床や家も全て木で出来ている。潮の香りがする、本当の海にそっくりだ。
町の中心には必ず、そのステージの案内所がある。そこへ向かうと、大海ステージのマップを手に取った。
「水泳スキル獲得かぁ。一応泳げるけど、そんな得意じゃないんだよなぁ。え!釣りができるところなんてあるのか」
この世界はほとんどが海で出来ており、泳げなければ話にならない。一部小さな孤島もあるが、そこまで行くことができなければ意味が無いため、水泳ステージ獲得は必須なのだ。
「まずは水泳スキルかな。訓練所は……あった!って、目の前じゃん」
見た目はまるで水族館だ。20メートル建物の壁はガラスで出来ており、その中には多くの魚が泳いでいる。水の透明度は高く、奥まで見透せるレベルの綺麗さだ。
入口を抜けると、いくつかの分かれ道があった。
初心者向け 中級者向け 上級者向け
の3つだ。ローズは真ん中の中級者向けへと進んだ。
道を抜け先は大きなプール。50メートルが10レーンもある。建物の見た目からしてこんなスペースは無かったはずだが、ここは電脳空間であることを理由に納得した。
手元に1つのパネルが浮かぶ。どうやら、特定のステップを踏めば、誰でも水泳スキルを獲得できるらしい。だがそのスキルを伸ばすのは、泳いだ距離を稼ぐ必要があるらしい。
「泳ぐのあんま好きじゃないけど……ゲームのためだ。頑張んなきゃな」
嫌々プールに浸かる。この『大海』ステージの季節は常夏であり、気温は高く設定されている。
だがやはり水は冷たいものだ。水中では服は塗れないが、肌に水の感覚はある。
水中で、服の重さは無視されるが、防具の重さはカウントされる。つまり、水の中では重装備ができない。
ローズは防具をつけていなかったので、簡単に浮くことができた。
その後、出現するパネルに従い、水泳スキル習得の過程を順調にこなしていった。
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