第26話

 水泳スキルの習得は、2時間もかからないくらいで全過程を終了した。

 内容は、体の動かし方や水中での浮き沈みの方法などを、ガイドに従って行うというもの。ゲームアシストが存在するため、そこまで苦ではなかったが、息が持つ時間は現時点では1分と満足に行動出来る長さではない。

 これは水泳スキルを強化していくと伸びていくが、強化するにはひたすら泳ぐしかないのだ。


「よし!習得完了!この後はどこいこっかな〜」


 体を動かすことがすきなローズは上機嫌。この後向かう先を決めるべく、マップを広げる。


 飲食店や服屋、アクセサリー専門店など、ステージごとのテーマに合った店が各ステージに配置される。

 そこでは、各ステージを優位に進めるアイテムが販売されていて、中には必須なものもいくつかある。


「う〜ん、迷うな。ご飯も食べたいし、服も見てみたい。あ、そうだ!」


 《雷槍》は雷属性。特に、【神の鉄槌】は水中で使えば、周りのプレイヤーを巻き込むだけでなく、自分にもダメージを食らいかねない。

 そのため、新たな水中用の武器を手に入れるか、他の方法で戦わなければならない。


「新しい武器も買わなきゃな。【神の鉄槌】なんて危なくて使えないし。まわりの人とかにも当たっちゃう…………って、ああああああ!」


 あることを思い出した。それは、数日前のこと。あの幽霊屋敷に行った目的だ。

 範囲攻撃が出来ないため、あの屋敷にあるといわれていたアイテムを入手にし向かったのだ。


 しかし、貰ったのはよくわからない勾玉のついたネックレス。


「白と黒、だったっけ。効果は不明とか書いてあったし。けど2人の大切なものなんだっけ」


 首に紐を掛ける。装備は普通、装備欄にセットして装備するものだ。しかしこのアイテム、首に掛けても装備欄は空いたまま。どうやら装備扱いではないらしい。


「ただのお洒落のアイテムなのかな。とりあえず荒野に戻って、攻略サイト覗いてパパって終わらせちゃおう、そうしよう」


 インターネット上のウェブサイトは、ゲーム内からもアクセスできる。ローズは歩きながらこの前に訪れたサイトを確認する。

 そのアイテムの効果だけをみて、特に調べもせずに向かった結果、どういう訳かアナザーエンドを引いたという訳だ。


「ふむふむ、なるほど……」


 読み進めるうちに、正しい攻略法がわかった。あの禍々しいスープを飲むまではいいが、そのあと普通ならば、お礼にとそのアイテムが貰えるらしい。

 体を乗っ取ってくるイベントのことは書いてなかった。


 ならばあのシロとクロはなんだったのだろう?


 そんなことを考えながら歩いていき、何事もなく幽霊屋敷へと到着。敷地へ入るもなにも変化はなく、家に入ると知っている演出が。

 大体何が起こるかは把握しているので、怖がることも無く突き当たりの部屋へ向かう。


 見た事のある光景。薄暗く埃っぽい空気が漂う部屋に、怪しさ全開のスープがひと皿。攻略法は知っているため、席につきスープを飲む。


 最後の一口を飲み干すと、目の前にはクロの姿があった。


「久しぶり、かな。そうでもないか。クロ、元気にしてた?」


「――――――。」


 クロは一言も発しない。しばらく待ったが、声を発することは無かった。


「クロ?シロは元気?」


 はっと顔を上げた。そして驚いた表情でローズの着けるネックレスを指さす。


「これ?このネックレス?これはシロがくれたんだよ」


「――――――。」


 まだ一言も発しない。だが、クロの顔は少し微笑んだ気がする。


「そうだ!」


 取り出したのは、《双子の感謝》というアイテム。幽霊屋敷のクエストクリア時に貰ったものだ。

 形は指輪と同じで、手につけるタイプのアクセサリーのようだ。真ん中に、小さなダイヤモンドか何かの宝石が埋め込まれている。


「これ見ればわかるんじゃないかな?」


「――――――――がとぅ」


 消えかけの声で呟く。


「ありがとう」


 ここへ来て初めてクロが声を発した。笑顔になったクロは、そのままだんだんと薄くなり、そして消えた。

 クロがいた場所には、一輪のピンクの薔薇が添えてあった。


 ローズが手に取ると、それは花ではなくアイテムだった。


「《衝撃》?」


―――――――――――――――――

アイテム名:衝撃

効果:技が対象にヒットしたとき、

その近くにいる別の対象に、

半分のダメージを与える。

但し、単体が対象の魔法攻撃のみ。

―――――――――――――――――


 ローズは、念願のアイテムを手に入れたのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る