第24話
昼食を食べ終え、少しベットに横になると眠気を覚え、有咲はそのまま眠ってしまった。
長い長い悪夢を見た気がする。
それは中学の頃、学校に行く理由が勉強だけだった有咲に、違う理由ができた。それは、初恋の人に会うこと。
その人は特に顔がいいとか、運動神経がずば抜けてるいいだとか、そういうことはなく、至って平凡だった。身長も有咲よりは高いがそれでも平均程度。
しかし、誰に対しても平等に接し、任された仕事は最後までしっかりと成し遂げる。そんな周りよりも一段階大人な姿勢が、有咲心惹かれた理由だ。
今まで恋とは無縁な生活を送ってきた有咲には、アプローチの仕方とやらがわからなかった。
どうすれば愛しのあの人が振り向いてくれるのか、どうすれば自分の魅力を伝えられるのか。
そもそもほとんど話したことの無い相手が今自分をどう思っているかもわからない。
他に好きな人がいるんじゃないかと、ほかの女子と話している度に思う。
恋とは、なんとも苦しい魔法なのだと、初めて知った。
どんな悩み事でも、相談する相手は決まって姉の舞衣だ。
姉は自分と同じような道を歩いてきたはずなのに、なぜだか自分より優れた結果を生む。
「ま、舞衣〜?」
「どした?また悩み事?」
言葉を詰まらせながら舞衣の名だけを呼ぶ時は、決まって何か相談したり頼りたいときなのだ。舞衣自身もわかってきている。
「そう。…………実はね」
有咲は自分の初恋について話した。相手が誰なのか、今不安で堪らないとか、どうすれば振り向いてもらえるのか、などを。
舞衣は何も言葉を返さず、ただうんうんと話を聞いていた。これが、有咲の言いたいことを全て言わせる方法だと知っていたから。
有咲の想い人の名前を聞いた瞬間、舞衣の心臓は高鳴った。
かわいい妹の初恋話を、自分の初恋と重ねていた。
妙に相手の共通点が多いなと思ってはいた。
有咲の口から出た名前は、舞衣の想い人と同じであったのだ。
「……って感じなの。舞衣も好きな人っているの?いるなら、やっぱり恋ってこんなに苦しいの?」
驚いて少しの間声が出なかった。まだ何一つ妹に負けたことは無い。
だから、まだ負ける訳にはいかないし、これだけは妹にも譲れない事だった。
「恋、か。私もいま好きな人いるよ。初恋。めっちゃ苦しいし、心配事も増えた。辛いことが多いなって思うよ。けどね、やっぱりそれ以上に毎日が楽しいし、ちょっとでも話せると心躍るっていうか。辛いことばっかりじゃないよ」
「舞衣もやっぱり好きな人居るんだ〜。誰なの?かわいい妹が相談に乗ってあげようか?」
悪戯な笑みを浮かべる妹に対して、
「それは結構。いまは有咲の相談でしょ!乗ってあげないよ?」
シュンっと大人しくなった。そして再び話し出した。
有咲のいう相談とは、何かアドバイスをして欲しい訳では無い。ただただ、有咲の言いたいことを聞く、というのが相談だ。
だが、何故ここまで似てしまったのか。有咲と舞衣の悩み事は、互いの悩みが自分の悩みと同じであることが多かった。
有咲が相談してくる度に、有咲の情報を集められた。だからそれに対策を講じ、有咲に打ち勝つことができていたのだ。
一通り話終わると、舞衣は自分の部屋に戻り、一冊のノートを取り出した。
そこには、対有咲用ノート、と記されていた。
今日聞いた話や、自分の考えなどをまとめ、有咲の行動予測なども立てていた。
しばらくして、有咲はその男の子に自分の想いを伝えた。
アプローチの仕方などまったくわからなかったが、自分なりに努力を繰り返したつもりだ。
その男の子の返答は――NOだった。
自分には好きな子がいる。だからごめん、と。
辛かった。全てを投げたしてしまいたかった。だが、有咲は本当にその子が好きだった。だから、
「わかった。ありがとう。その人と、幸せになってね!」
目には涙を浮かべ、無理やり作った笑顔でその場を去った。
有咲の甘酸っぱい初恋は、儚く散っていった。
また少しして、その男の子に彼女ができた、という噂を耳にした。
根拠の無い噂だろうと流していたが、その噂は確信に変わった。
帰り道のこと。いつもより少し遅れて帰ることになってしまい、日も傾いていた。
少し先に、2人の男女が仲良さげに歩いている。
あぁ、羨ましいななどと考えていた。その時までは。
顔が見える距離まできた。そこには、あの有咲の想い人だった青年と、姉の姿があった。
そう。噂の男の子の彼女とは、姉だったのだ。2人があの2人だとわかった瞬間、有咲は近くの公園に走り出した。
誰もいない公園で、何時間も泣きじゃくってから家に帰ると、姉は、いつも通りの姉で、優しく有咲を包み込んで話を聞こうとした。
絶対に負けたくなかった姉にまたもや敗北した有咲は、しばらく姉と距離を置くことを決めた。悔しかった。
そこで有咲は目が覚めた。
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