第22話

 次の日。ランキングは終了し、ドラスレはアップデートのためメンテナンスに入った。

 結局あのあと、有咲も舞衣もそのままログアウト、父の期待は裏切れずに勉強をしていた。

 ランキング1位をとることも有咲にとっては重要なのだが、それはしなかった。


 理由は、父の顔を思い出してしまったからだった。






 もうすぐメンテナンスが明ける。2人とも、開始してすぐにログインするつもりだ。

 それぞれのベッドに横たわり、頭にはゲーム機が装着しており、その時をいまかいまかと待ちわびている。


 そしてその時は来た。2人は同時に叫ぶ。


「「コネクト・オン!」」








 まず視界に入ったのはいつも通りの始まりの街の中心部。同刻にログインしてきたプレイヤーは少なくなかった。

 ざっと200人はいるだろう。少し遠くに、あの騎士グラスや舞衣の姿も見えた。


 ログインしてすぐに、視界にホログラムのダンクが現れた。


「アップデート完了!今回のアップデートで変わったことを説明するね!」


 久々のダンクの登場に少し驚いた。


「アップデート内容は大きく3つ。1つ目は、やっぱり『大海』ステージの登場!東西南北の街の正門から、転移できるようになっているよ!2つ目は、キャラメイクが可能になったよ!街の西側に、サロンダンクっていう、僕が経営するサロンができたよ!そこではお金を払って、顔のパーツや髪色、さらにはプレイヤーネームも変えられるよ!」


 2つ目のアップデートはありがたかった。

 VRゲームに、現実逃避をしにきている人は少なくない。それなのに、見た目が一緒では最大の効果をなさないからだ。

「最後の3つ目!新スキル多数追加!水上歩行や一時的透明感など、強力なスキルが多く追加されたよ!いままでは武器スキルだけだったけど、プレイヤー自身が獲得できるスキルが追加されたよ!」


 周りには歓声があがる。いままでは、スキルの数は武器依存であり、ゲーム特有の強力な技をポンポン打って楽しむ、ということが出来なかったのだ。


 ダンクは、じゃあね〜といって消えていった。


 





 


 その後のプレイヤーの行く先はバラバラだ。新ステージ『大海』を覗きに行く者、プレイヤースキル習得の方法を模索する者、今まで通り荒野ステージや商店街に行く者。


 その中でも有咲は、サロンダンクに向かっていた。顔立ちを女の子っぽくして貰えば、ドレスを気飾れば女性型のアバターになるだろうから。


 店に着くと、数人の先客がいた。男性女性問わずに来るサロンは、現実世界ではあまりない。

 先客の1人に、姉の姿もあった。


「あれ?アズ?」


「あ、あり……AZ?君も来たんだね」


 2人とも読み方はアズであり、話しにくいことこの上なかった。今まで生きていて1度も君と呼んだことは無い。


「名前、変えよっか。」


「そうしよ」


 この店では、店の奥にある個室でキャラメイクを行う。店内は白を基調としたシンプルなデザインで、ほんのりと花の香りが漂っている。

 実際に髪を切ったりする訳では無いので、客の回転スピードは早い。

 一足先に舞衣の順番がきた。


「じゃ、お先〜」


 そういって個室のブースに入っていく。

 舞衣が出てこないうちに、有咲の順番も回ってきた。





 2人が次にあったのは、店の戸を出てすぐ。舞衣が先に出て、出てくる人々に話しかけていた。

 なんせ姿が変わっていれば互いに姉妹だと気が付かないからだ。


 その中の一人に、ようやく当たりがでた。


「お、お姉ちゃん?」


「あれ、君はそんなに見た目を変えてないんだね。顔が女の子っぽくなったくらい?髪も銀のまんまだし……」


「そうだよ!あとは名前変えたくらい。けどお姉ちゃん姿変えすぎ笑」


 そこにあったのは、ピンクの髪に紫紺の眼、身長も伸びて170ほどほどある。


「いや〜!せっかくゲームの中なんだから、思いっきり楽しまなきゃね!で、肝心の名前だけど」


「そうだね。今日から私の名前は、アリサ!やっぱり呼ばれ慣れてる方がいいからね」


「本名を使うとは……。私はローズ。今日からローズだよ!」


「ローズか。なんか変な感じだね」


 2人は笑いあって、とりあえず一緒に行動することを決めた。

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