第21話

 荒野の端の方で、ものすごい轟音が鳴り響いた。大気を揺らし、風圧で辺りには砂が舞っている。

 その音はいまからそこへ向かおうとしていた舞衣の耳にも届いていた。


「今の音って……多分雷槍のだよね……。あれ使うの結構危ないからちゃんと忠告しとけばよかったな……」


 雷槍から放たれる【神の鉄槌】は、非常に高火力の技で、対象が電気を通しずらい場合でも、その一撃の衝撃によりかなりのダメージが期待できる。

 しかし、稀に対象の座標がズレることがあり、それが運悪く自分に当たることもあるのだ。もし直撃したのなら、死からは逃れられない。


 舞衣はそこへ来る途中だったこともあり、音源地にすぐたどり着いた。そこにはやはり、有咲がいた。


「お〜い!だいじょーぶ?」


 あまりの勢いに驚いていた有咲は、手に持つ《雷槍》を見つめていた。


「それたまに自分に当たることもあるんだぞー!」


 大きく手を振りながら、遅すぎる忠告をした。


「早く言ってよ!こんな威力当たったら死んじゃうじゃん!」


 ごめんごめんと頭をかく。舞衣は半笑いでこの武器の危険性を告げる。

 頬を膨らませる有咲。舞衣は無事有咲から武器を預かった。


「ま、何も無かったんだからいいじゃん。また今度使わせてあげるから〜」


「なんかあってからじゃ遅いでしょ!それより、ほんとにそんな強い武器、お店で買ったの?」


 《雷槍》の一撃は、市販の武器とは思えない威力だった。《炎の契り》の【煉獄】もそこそこの範囲と威力を誇る武器だが、《雷槍》程ではない。


「正確に言うと、武器屋で買ったのは《雷いかづちの契り》。有咲の《炎の契り》と似たようなやつ。それに鍛冶屋で、スパーク・コアってアイテムを合成したの」


「へぇ、鍛冶屋なんてあるんだね」


「知らなかったの!?」


 舞衣が驚くのも無理はない。本来、このゲームは初心者が初めにするべきことのミッションが課される。

 武器の合成やら装備の変更など、初めに知っておくべきことを簡単におさらいできる、チュートリアルのようなものがあるのだ。


 しかし有咲は、ゲーム初心者にもかかわらずに説明をすっ飛ばしたために、そのミッションに気が付かなかった。


「行ったことないなら、案内しよっか?」


「お願いしたいな」


2人は早速、鍛冶屋へ向かうことにした。








「ここが鍛冶屋かぁ!」


 着いた先は街の東側。武器や装備の店がズラっと並んでいる。

 その奥に位置するのがこの世界の鍛冶屋。和風の屋敷がモチーフのようで、巨大な屋敷のような姿だった。


 中は広く、THE・鍛冶屋という内見。炉や鞴、金床などが並ぶ。カウンターの奥からは刀を打つような音も聞こえてくる。


「すいませーん」


 有咲が呼ぶと、奥から職人と思わしきNPCが出てきた。


「いらっしゃい」


 有咲の手元には、武器の合成、強化、修繕、売却のアイコンが浮かんでいた。


「アイテムがあれば、武器強化したり、合成して強い武器にしたりできるよ。有咲は何か他の武器とかもってないの?」


「他の武器かぁ…」


 いままでの戦いの記憶は、【岩落とし】か【煉獄】がほとんどだった。しかし、初日まで記憶を遡ったところでひとつの武器を思い出した。


「あ!あるある!幸運が上がる武器らしいんだけど…」


 そういって取り出したのは初日に買ってほとんど役に立たなかった《ラッキーステッキ》だった。


「これ!《ラッキーステッキ》」


「あ、有咲?こんなの買ったの……?ほとんど使い物にならないじゃん」


「やっぱり弱かったかぁ。もう使わないから合成できるかな?」


 《炎の契り》と《ラッキーステッキ》を選択し、確認を押すと、その場で合成演出が始まった。


 武器は有咲の手から浮くと、金の光を放って回り出した。

 やがて光が収まると、有咲の手にひとつの武器が戻った。

 それは黒く、ゴツゴツした木の先端に大きな紅く輝く宝石がついており、手に収まりやすい形になっていた。


「《運炎の杖》?」


――――――――――――――――

アイテム名:運炎の杖

魔法攻撃+80

《幸運Ⅱ》

スキル【煉獄】

30秒間、指定の範囲に炎の壁を作り

その中を焼き尽くす

――――――――――――――――


「若干強くなってる……かな?」


「元の武器があんま強くなかったからね。でも《幸運Ⅱ》ってそこそこ貴重なアイテム落ちるから、持ってて損はないよ」


「そっかぁ、まぁいいかな。今日からこの子が相棒かな。よろしくね!」


 有咲はそう杖に話しかけた。

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