第19話
その騎士はなにかスキルを使っているのか、多くのドラゴンに囲まれていた。しかし、その剣さばきに無駄な動きはなく、美しさまで感じられた。
そのとき、
「誰だっ!!」
気が付かれた。有咲の姿は死角で見えない。音もほとんど立てておらず、見つかる要因などないはずだ。
騎士はドラゴン達から距離のあるところへと高く飛び、そして音も立てずに着地した。
「もう一度問う。誰かいるのか?」
優しい口調になった。有咲も、このままでは殺されかねないと思い、大人しく出ていくことにした。
「は、はい。ちょっと前からここに居ました。あの、もしかして討伐数ランキングの……」
「そう。俺が討伐数1位のグレアだ。お前も挑んでいるのか?だが俺が勝つ。勝たねばならぬ理由があるんでな。誰にも負けられない理由が」
いきなりお前が呼ばわりかよ、と内心思いながらも、ランキング1位の技の完成度をみて感心してしまった。
「はい!私も頑張っていま2位まで上り詰めてるんです!けど1位の人になかなか追いつけなかったんです。それで向こうで雑魚狩りを続けてたら、剣の音が聞こえたもので……」
「お前があの2位なのか。どれだけ周りと離してもお前の差だけは開かなかった。執念深さだけは敵わないな」
「しゅ、執念深さ……。ぜ、絶対グレアさんを追い抜いてみせますよ!」
「不可能、と言いたいところだが、俺にもいろいろ事情があるからな。せいぜい頑張ってくれよ」
「望むところです!」
2人は別れ、グレアは元いたドラゴンの軍勢の中へ、有咲は鳥型のドラゴンが多くいる所へと戻った。
父から叱責を受けた舞衣。この4日間、よほど落ち込んだのか、ゲーム機にすら触れていなかった。
厳しくも優しかった父に、申し訳ない思いをさせた。男手1つで育て上げてくれた。だから舞衣も有咲も、勉学に励み続けることができたのだ。
それなのに、ゲームにはまり、ましてや家のルールを破るなど言語道断。有咲はいまだにゲームを続けているようで、家族が全員集まる食事時にはいつも時間ギリギリで来る。
父を落胆させまい、と舞衣はあの日以降、いままで同様に努力を続けていた。
しかし、ふとした時に、あの感覚が手に蘇る。大型のドラゴンを雷いかづちで貫いた、あの感覚が。
あれは、現実世界では味わえない感覚であり、舞衣の集中力を削ぐには十分なものだった。
1度だけ、1度だけなら、と何度も考える。しかしその度に、父の怒った顔が脳に浮かぶ。あの顔の向こうには、悲しみがあった気がする。だから耐え忍んでいたのだ。
「……、でも…………。集中持たないし……ちょっとやってまた勉強した方が……」
舞衣のいうちょっとがどれだけかは不明だが、心の中の天使と悪魔の戦争では、悪魔が優勢だった。
「やっちまえよ。親父さんもお前がゲームに費やす時間が長かったから悲しんでただけだぜ。ちょっとくらいなら平気だって」
「だめだよ!お父さんの気持ちを考えて?大変な思いをして育ててくれたんだよ。いっぱい勉強して、いっぱいお金稼いで、少しでもお父さん楽させてあげなきゃ」
「うるせぇ!」
天使は悪魔に突き飛ばされた。舞衣の脳内では、悪魔が勝ったようだ。
気がつくと、舞衣の頭にはゲーム機が装着されていて、横になりこう唱えた。
「コネクト・オン……」
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