第18話
舞衣が戻ってくる少し前、有咲は舞衣ど別れてから、雑魚狩りをすることをせずに、疲れたからといって現実世界に帰還した。
「舞衣、物騒なこといってたけど大丈夫なのかぁ。舞衣のことだし、そんな簡単に死なないと思うけど」
一抹の不安を拭いきれずにいながらも、夕食の時間が近いことに気がつき、急いで向かうと、そこには眉間にシワを寄せ、腕を組んで座っている父の姿があった。
梓野家の父は、とても厳しく二人の娘に甘えを許さない。
5年前、有咲達の母が病死して、そのときから父は変わってしまった。
慣れない家事に追われ、異性の娘二人を育て上げるというのは楽なことではない。叱り方も分からないために、つい厳しくなっていった。
梓野家は、代々続く僧侶の家庭で、父はその38代目。双子の姉妹は、父の読む経が大好きだったために、始めの方であれば2人にも読むことができた。
「遅かったな、有咲。勉強でもしていたのか?」
いつもの有咲なら、うん、そうだよと答えられたはずだが、今回は違う。なんせ、両親にねだったこともないゲームをしていたのだから。
「まぁ、そんなとこ。舞衣はまだ来てないの?」
「ああ。」
有咲が席に着くと、無言の時が流れ始めた。梓野家のルールとして、基本食事は家族3人揃って食べることが挙げられる。
故に、自分が遅れることを伝えなければ、誰も食べ始めないのだ。
梓野家の夕食は早く、午後六時。だが、今の時刻は午後7時を回ろうとしている。
その間にも父は一言も発さない。眉間のシワが増えていくのがわかる。
業を煮やした父は、不意に立ち上がると、舞衣の部屋へと向かった。
少しして、舞衣がボトボトと重い足取りで歩いてきて、席に着いた。
その後の食事が地獄のような時間だったのは言うまでもない。
舞衣はその日以降しばらく、ログインしなかった。一方有咲は、毎日欠かさずにログイン、雑魚狩りをしにきた。
「今日も来たー!ランキング終了まであと丸一日とちょっと。頑張るぞー!」
有咲の現在順位は4位。1位との差は150体ほどだ。相当気合いを入れなければ追いつけない。
「舞衣に借りたこの《雷槍》、結構強いけどあんまり当たんないなぁ。発動までラグもあるし、ちょっと使いずらいなぁ」
実際、舞衣がこれを買った明確な意味はなかった。店員の一撃が強力、という言葉のみで決めてしまったのだ。
「あと1日、頑張るぞー!」
有咲は今日も雑魚狩りへ向かった。
現在時刻は午後3時、ランキング終了まで残り9時間。有咲の討伐数は、477体で2位であった。
やりたいことがなんでも出来るこの世界で、好んで雑魚ばっかりをかるプレイヤーは少ない。
レベルを上げるにしても、雑魚狩りでは効率が悪すぎるためにほとんどのプレイヤーは高レベルのドラゴンを狙っていた。
「うーん……。1位の人は530体かぁ。なかなか差が埋まらないなぁ。もうちょっと頑張らないと」
荒野の中心では、魔法や銃弾が常に飛び交っている。中心になればなるほど、強いドラゴンが多く湧くからだ。経験値やレアアイテム狙いのプレイヤーは多い。
だが雑魚狙いの有咲には関係の無い事だった。
討伐数ランキングに載りたがるプレイヤーは、中心ではなく外れの方に集まる。マップは広大なため、有咲は少しのプレイヤーとしか鉢合わせたことがなかった。
今日も元気に【岩落とし】に励んでいると、少し奥で剣が肉を切る音が聞こえてきた。
こっそりと近づいて大岩の影から覗き見する有咲。
そこには、青の鎧を見に纏いながらも、その重さや大柄の身体をもろともしない軽やかな動きで敵を断つ、騎士の姿があった。
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