第17話
シロは自分とクロの身の上の話をした。父親は呑んだくれで知らぬ間に死んでいたこと。母親に酷く虐待を受けていたこと。クロはシロを守る為に自ら死を選んだこと。他にも胸が痛むことが多くあった。
言葉が出なかった。ニュースでは児童虐待が〜とよく言っていたが、その被害者と出会ったことは無かった。
「……そっか。ありがとう、話してくれて。辛かったよね……」
「辛くなかったとは言えません。けれど、こうして生きていられるだけでも、十分幸せなことですよ」
舞衣とシロは、そのまま部屋で自分のことについて沢山話した。シロにとって、初めてのクロ以外との楽しい会話であったため、その時間が永遠に続けばいいと願っていた。
「ごめん、シロちゃん。私、そろそろ帰らないといけないんだ。時間も遅くなっちゃってるし」
「……そう、ですか。遅くまで申し訳ありません。私はもう平気ですので、気になさらずにお帰りになってくださいね」
シロはそのか細い手を振り上げた。すると、目の前に転移魔法陣があらわれた。日も傾いて薄暗くなっていた中でのそれは、少しの不気味さがあった。
「これに乗れば、お別れです。最後にひとつだけ、お聞きしたいことがあります」
「なに?」
「お名前、伺ってもいいですか!」
舞衣はまだ名乗っていなかった。シロがあまりにも楽しそうに話し続けるので、名乗るタイミンクがなかったという方が正しいが。
シロにとって名前の優先度は低く、心から愉しく会話出来たことへの悦びが大きかった。
「名前?舞衣、だよ。梓野 舞衣。プレイヤーネームは、アズ。遅くなっちゃってごめんね」
「舞衣さん、舞衣さんですね!これ、私たちからの気持ちです。受け取ってください」
そうしてシロがおもむろに取り出したのは、1つのネックレスだった。
デザインはシンプルで、白と黒に輝く勾玉が二つ、下げられていた。
「これ、私たちの大好きだったおばあちゃんから貰ったものなんです。舞衣さんは、私たちを助けてくれました。私も、クロもこれは舞衣に持っていてもらうのが望みです」
「そ、そんな大事なもの、貰っちゃっていいの?」
「はい!大切にしてくださいね!」
ネックレスを受け取った舞衣は、魔法陣へ乗った。体が消えかけているなかでも、シロはその細い手を舞衣に振り続けていた。
舞衣が完全に消えると、シロはどこか寂しげに、
「ありがとう、ございました」
と、呟いた。
今日一日を、ゲームに費やした舞衣。片手にはシロから貰ったネックレスがあった。
時計を見ると、既に午後7時を回っていた。
「やばっ、もうこんな時間。はやくログアウトしないと、お父さんに怒られちゃう!」
手早く荷物整理をしようとしたタイミングで、ふとシロからのネックレスを付けてみたくなった。
プロフィールから、装備欄にアイテムをセットする。
―――――――――――
アイテム名:《白と黒》
効果:不明
―――――――――――
「効果、ふめい?そんなアイテムあるのかな」
不思議に思いながらも、そのネックレスは首にかけられる。
舞衣の服装は、全体的に白と黒に統一されている。その服は、何か効果を持っている訳ではなく、ただ単に現実世界でもモノトーンのものが好きなのだ。
故に、2つの勾玉は舞衣に溶け込んでいた。
「結構似合ってるかな。あとで有咲にも見せに行こっと。…っていけない!早くログアウトしな
バンッ!!
突然の衝撃。視界が一瞬で真っ暗になり、全感覚が酔いそうなほどぐるぐるまわっている。
まぶたに光が当たっているのがわかる。そしてフカフカの布団に横になっている自分の体の感覚もある。
ゆっくりと目を開けると、そこに立っていたのは浴衣の鬼、いや、鬼の形相をした父だった。
「馬鹿者。こんなものに手を出しおって」
腕を組み、眉間にシワのよっている父の顔は怒りの色があり、いままで父の影響でほとんどゲームをしていなかった舞衣が変わってしまったことに対しての怒りであることは、すぐにわかった。
「ごめんなさい」
「……食事ができている。はやく来なさい」
父が向かう後ろを、重い足取りで追いかける舞衣だった。
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