第9話


次の日、有咲はまた荒野を徘徊していた。来週あたりに新ステージ、『大海』が追加されると運営からのお知らせで届いたため、荒野を散策し尽くそうと思っていたのだ。また、水系のドラゴンに有効手段がないため、それを見つけるためでもあった。


「あんなドラゴンなんて勝てそうになかったけど、舞衣は一瞬で……」


有咲のいうあんなドラゴンとは、もちろん昨日の水のドラゴンである。

自分は逃げるしかなかった相手に、たった二撃でくたばらせることができた舞衣。現実で負け、ここでも負けるのか、と残りできることを探しにきていたのだ。


「いいや!ここはゲームだし、ランキング上位にはいって絶対舞衣を……って、いま何位くらいなのかな」


ランキング順位やイベントポイントなどは、街の中心のスクリーンのほかに、自分のホームから確認することもできる。

そのことに、お知らせを今日初めて真面目に読んだ有咲は気がついた。


「えーっと…」


累計BPのところで、見覚えのある名前があるのに気がついた。


「アズって…、まさか舞衣!?508ポイントで6位って凄いなぁ」


このゲームのドラゴンには、それぞれ種類ごとにポイントが振り分けられている。舞衣が昨日倒した水のドラゴンには500ポイントが当てられていた一方で、有咲が倒していた雑魚は1ポイントと数をこなしてもあまり意味の無いドラゴンであった。


「私は載ってるかなー。……あった!7位だ!」


1位が231体と、差は100体程度。本気で勝ちに行けばまだどうにか埋められる差であった。

しかしここで気がついた。負けたくなかった姉に、種類は違えど順位で負けていることに。


何がなんでも1位を取る。あわよくばBPランキングでも姉に勝つ!と心に決めた有咲であった。








スクリーンの前で立ち尽くす舞衣。


有咲がランキングに載っているという事実の他に、もう1つ驚いたことがあった。

自分がランキングに乗っていたことだ。


「えっ。アズって載ってる。わ、私?いつ500も稼いだんだっけ…」


思い返してみても、当てはまるのは昨日のドラゴン戦のみ。


有咲が広範囲の技を得意とする一方で、舞衣は範囲こそ狭いが一撃の威力の高い雷技が得意であった。

故に累計BPランキングは舞衣向きのランキングであった。


「有咲に順位で勝ってるじゃん!ったく、テストも運動も恋愛も。有咲に負けないようにするのがどれだけ大変か分かってないんだもんなぁ、有咲は」


有咲は何もせずとも舞衣が自分よりも優れていると思っている。しかし、才能は努力に勝らない。舞衣もまた、有咲に負けんと必死に努力を積み重ねていたのだ。


「でも有咲も負けてること知ってるのかぁ。じゃあきっと順位上げに来るよね。よし!こうなったらやるしかない!」


目標が定まった舞衣は、ある場所へと走っていった。








「雑魚狩りばっかしててもつまんないなぁ」


討伐数を稼ぐには雑魚を狩るのが最も手っ取り早い。しかし、リリース初日からずっとこれを繰り返していると、さすがの有咲でも飽きてきてしまった。


「あそこの渓谷でも行ってみようかなぁ」


視線の先は、地面がぱっくりと割れた深い谷。一度鳥型のドラゴンを追いかけるときに、気が付かずに落ちかけてしまったことがあった。

底まで光が届かず、時折赤や黄色い目のような光が見える。


松明などの照明道具のない有咲は、とりあえずちょっと降りてみるだけ、と谷へとむかった。



「ひえぇぇ〜。いざ来てみると結構高い……。これ降りれるかなぁ」


谷を見下ろすと、少し降りたあたりのところに中に光のある洞窟の口がみえた。

あそこなら、と崖を降りていった。途中、一度だけ底の方から唸り声のようなものが聞こえてきた。危うく落ちかけるところだった。


なんとか入口まで辿り着くと、その中は赤や緑などの多くの宝石の光で明るくなっていた。


「綺麗〜!これ帰りに集めて帰ろーっと!」


そう言って1歩ずつ奥へと進み始めた。




歩き始めてしばらくは何も無く、順調に進んでいた。


カチャっ


足元から音がした。直後、正面と背後に有咲より少し小さいくらいの、ティラノサウルスのようなドラゴンが現れた。


有咲の身長は155cmほどと、あまり高くはない。しかしドラゴンの大きさはさほどであるが、迫力は十分だった。


「あわわ、戦えってことかな?魔法使いにとってこれはピンチかも!とりあえずー、【煉獄】!!」


前方のドラゴンの足元から炎が立ち上る。しかし背後にはもう一体いるのだ。

背後から迫ってくる足音が聞こえる。


「やばい!」


噛み付いてこようとするドラゴンをなんとか避けたものの、背後は洞窟の奥側。もう戻ることはできなくなった。


「にーげろー!」


ドラゴンは追ってはこなかった。煉獄の炎が消えたあたりで、有咲の姿はドラゴンの視界から消えた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る