7 強くなりたい理由を得る

屋上……、風通しも良く嫌な事も風に乗せてどこかに行くんじゃないかと思うくらいに真一は、少し冷たい風を浴びながら黄昏れていた。このままどこか飛んでいきたいと思う。

「――こんな所に居た」

授業中で誰も来るはずのない屋上に一人のブロンド美女がやって来た。可憐な佇まいの彼女は、真一を見つけると怒らずに優しい口調で歩み寄る。

「ねぇ、さっきの……発動しないってどう言う事?」

予想は出来ていた質問に驚く事もしない真一は、そのまま彼女に背を向けつつ質問に答えた。

「俺の能力の『剣星』は、星の人格と魂を共有して初めて発動出来るんだ。彼らから星の持つ記憶から様々な剣を召喚出来る。けど……」

「けど?」

「俺に取り憑いた人格は、名前がないんだけど俺はバーサーカーって呼んでる。人がこれまでにしてきた行いに対して怒りや憎しみなどの負の感情から生まれたバーサーカーは、俺の魂ごと喰らい、破壊の限りを尽くすんだ。」

「――じゃあ、真一はそのバーサーカーにいつも苦しんでいたの?この間助けてくれた時、三年前のあの時だって」

初めて聞く彼の別次元的な能力の代償を初めて知らされたリアは、少し涙が滲みながらも真一の右手を取ると自身の額に当てる。

「私のせい……だよね。あの時、あんな約束しなければ……。」

「お前のせいじゃねぇよ、俺が『剣星』の力を受け入れただけだから。」

「でも、真一が幸せじゃなきゃ意味ないよ!ねぇ、辛いなら逃げよ?」

連れ戻しに来たそう思い込んでいた真一だが、リアの予想外の言葉に驚きを隠せないでいた。確かにここから逃げれば全てから解放される。辛い事、悲しい事、苦しい事色んな負の感情から解放される。けど……。真一の手が一瞬ピクと動く。このままで良いのかと胸の内が語りかけてくる。

「リア……、確かにこの力を手にしてから辛い事、悲しい事いっぱいあった」

ゆっくりと振り返った真一は、左手をリアの背中に回してそっと自身の方へと抱き寄せる。もしこの力が無ければ……そう思う事はあっても、決してこの力を憎んだ事はない。それをリアに伝えたい。真一は、少し間を置いてから口を開いた。

「――けど、この力を恨んだ事は一度もない。少し性根が腐っていたけど、俺は嬉しかったんだ。」

「嬉しかった?」

俯いていたリアの顔が上がる。優しい口調で真一は、更に話しかける。

「うん、リアがイスカリアに帰って笑顔になってくれた。その笑顔の為に頑張れたんだって心の底からあの時、バーサーカーと契約して本当に良かったって」

「ごめん、本当にごめん!私の為に真一の人生が……」

「何度も謝るなよ、これは俺の意志で選んだんだ。だから、お前が謝るのはこれで最後。これからは、俺のそばで俺が辛くなる度にその太陽の様な笑顔で俺を闇から照らしてくれ。」

真一の言葉にリアは、堪えていた涙が溢れ出すとそれを隠すかの様に真一の胸に顔を埋めて泣きだした。自身の願いのために大事な人を辛い思いをさせてしまった事を後悔の念で今は、泣く事しか出来なかった。ただ、真一の言葉にうんうんと頷きながらしばらく泣くのであった。

――もう一度、奴に会うしかない……。

彼女の抱きしめていた真一は、密かにそんなことを心の底で思うのであった。






◇◇◇

その日の夜……。

俺は、妹や居候のリアに内緒で外出した。向かう場所は、たった一つ。この街の外れにある小さな山奥だ。ここには、昔から思い入れがある。奥へと続く道を歩みながら俺は、昔の記憶を頼りに誰かを探す。

「来たか、小僧」

何百年もこの世界で野太い声が響くと俺は、歩みを止める。そこには、白髪の長い髪を後ろで一つに束ねた男が出てきた。

「あぁ。」

「ここへ来るのは三年ぶりか……。あの時よりは、地に足が着いた顔をしている。成長したな」

「そんな事を言われる為にここに来た訳じゃない。それは、お前が一番分かっている事だろ?」

「そうだな」

男は、そう言うと俺の様にどこからか、剣を取り出して構える。

「構えよ、小僧!お前のその力、返してもらう。」

「悪いけど、また奪わせてもらうぜ……おっさん!!」

俺と違い星の人格を複数持つ目の前の男へに向かい俺は、真っ直ぐ走ると奴は、手にして片手剣をそのまま投擲して応戦する。一直線に進む剣を躱しながら俺は、おっさんとの間を詰めると黒い刀身の日本刀コクゲンを召喚するとおっさんに向かって刃を振り下ろす。しかし、俺の刃は、彼には当たってない。おっさんが後ろへ下がり避けたのだ。それを確認すると一歩踏み込むと同時に振り下ろした刀を振り上げまた振り下ろす。

「――相変わらず鈍いな」

おっさんは、そう言うと振り下ろされた刀を短剣で受け止める。キンッと言った金属同士がぶつかり合う音と共に火花が小さく散る。澄まし顔をしながらバーサーカーは、つば競り合いを制して短剣を振り払うと俺は、十歩ほど後ろへと下がる。それを見たバーサーカーは、空かさず先の短剣を投げては、もう一個別の短剣を取り出してはまた投げる。迫り来る二本の短剣を俺は、コクゲンの刀身を当てて振り落とす。その隙に間を詰めてきたバーサーカーは背丈ほどの大きな刀身の両手剣を軽々と振り下ろす。

バキンッ!!

コクゲンの刃は、その両手剣の一撃を受けて粉々に粉砕されてしまう。

「嘘――だろ!?」

一瞬、俺の世界が固まる。圧倒的な破壊力を前に俺は、驚きを隠せなかった。知識に差があるのかと思い知らされたからだ。俺が知っているのは、奴の一部分と自身で創作した黒い刀のみ。実践なら俺は、奴のもう一振りで致命傷を受け即死だ。だが、おっさんは俺に向かって剣を振り下ろす事はなく、雪崩れる様に座り込んだ俺の前に両手剣の先端を地面に差し込んだ。

「これが俺とお前の差だ。」

「クソッ!!」

その場の土を無雑作に掴んでは、力強く地面へと拳を叩き付ける。今回は、俺の負けだ。このままでは、リアや芽依を悲しませてしまう。このままではいけない。俺の胸の内が激しく鼓動する。

「――おっさん、一つだけ教えてくれ」

俺の言葉におっさんは黙って俺の目を見る。俺は、そんな彼を見上げながらもう一度、重い口を必死に動かす。

「頼む、強くなりたいんだ。お前から憤怒の感情を取っておいてずうずうしいのは分かっている。けど、今度は負けられないんだ!!頼む、おっさん。強くなる方法を教えてくれ」

おっさんは、何も言わずに頭を下げる俺の姿を黙って見ていた。俺は、もう一度口を開き「頼む」と彼に向かって言う。すると、おっさんはそんな俺の姿を見て間を少し置いてから塞いでいた口をゆっくりと開いた。

「――マラリア。それが俺の名だ。地球の記憶や感情を全て抱え込んだ、先代の剣王だ。」

「先代の剣王!?――って事は、今の剣王は?」

俺がおっさんと呼んでいた男は、マラリア。かつて、俺の様に地球の記憶を身に受け剣の王として世界に君臨した先代の剣王。俺は、マラリアに質問をした。先代の王がいたと言う事は、今の王がいるはず。しかし、彼が指さしたのは、俺だった。

「――お前だ、真一。三年前、一人の少女を救いたいと心から祈り、最後まで諦めなかったお前のその人を想う心が王の素質なのだ。」

「俺のリアを想う心……。」

「力は与えた。後は、お前の気持ち次第だ。どんなに向かい風でも負けない強い心を作れ。そして自身に眠る星の人格を従えよ、協力はしてやる。またここへ来い」

「あぁ、分かった」

「また会おう、次世代の剣王よ」

そう言い残してマラリアは、木陰の方へと消えていった。

月夜の夜、激闘の爪痕が残る中、一人残った俺は、夜空を見上げた。星々が輝く中、俺は、

もう、誰にも負けない。そう誓うのであった。

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