6 パーティー結成

 リアが転入して更に大変になった俺の学園生活だが……。

 それでも無事に色んな事を学びそれなりの学園生活になっていった。そう思い始めた頃、春の桜が満開を終えて散り始めようとしている四月の終わりのある日、始業HRの時間に先生がある事を口にしながら要項を書かれた用紙をクラスの生徒に配る。俺以外の生徒達は、やっとこの時が来たと今にも言いそうなくらい配られる用紙を見て静かに闘志を燃やしていた。

「それと、そろそろ学部戦だからな。出るメンバー決めて早めにエントリーしとけよ。なんでも今回は、パーティー戦だからな。ハブられる事のない様にしろよ」

 学部戦……、魔法戦士育成機関である聖魔学園の学園内対抗戦争の出場権を賭けた各学部によって争われる競技予選会。これが学部戦だ。上位に入り込めば、学園対抗戦争に出られる栄誉と順位の大幅アップが期待され学園内での地位も確立される。聖魔学園生徒にとってとても重要な大会なのだ。だが、俺にとっては全く闘志の湧かない大会に出る選手の気持ちが分かるくらいにこの学部戦が嫌いだ。何も出来ない俺は、皆から仲間はずれにされる事が多い、居ても戦力にならない男を喜んで仲間にするお人好しなんて普通は居ないからだ。

「今年は、三人メンバーによる総当たり戦か全勝または、リーダーを討ち取ったチームの勝ちか……」

 俺は、重要な所をブツブツと呟きながら言うと隣に座っているリアがある事を思いつき俺の耳元で囁く。そう言えば、俺がここでは無力なひよことしても扱いを変えない超が着くほどのお人好しがいた。

「あのさ、私と一緒に出よ?」

「はぁ?お前、正気か?」

「うん、正気だよ!私、真一とじゃなきゃ、誰から誘われても断るから」

 大きな声で言うリアに再び周りからの殺意が俺に向けられる。男子の妬みが凄く伝わってくる。それがあるせいか、余計に断る事も出来ずに俺は、リアのお願いを聞き入れた。

「じゃ、じゃあ私も永宮くんと出る!」

「芽依まで……。」

「私は、永宮くんの彼氏なんだから当たり前でしょ!」

「でも、芦沢さんの出番ないかもよ?私と真一がいれば圧勝だもん!」

「貴女と永宮くんじゃなくて、私と永宮くんとでしょ?」

 この妙な張り合いを毎日聞かされている俺は完全に聞き疲れてしまい、突っ込む気にもなれず思わずため息を溢した。そんなことで、今年の学部戦のパーティーメンバーがあっという間に決まってしまったのだ。そして、出場する事も……。前途多難とはこの事を言うのかもしれないと思いながらもう一度ため息を溢した。

 もしかして、もう平穏な学園生活来ないのか……。そんなことを思いながら俺は、この時間三度目のため息を溢したのである。




 そんなこんなで……、授業カリキュラムが変わり一斉に学部戦に向けてそれぞれが動き始めた。最初は、それぞれの力を腕試しとしてこの日は、組み手が行われた。それぞれ、自身の力を試す場として全力で組み手を行う。そんな中、俺らのグループはと言うと……。

「よう、モテモテ真一く~ん。俺らと組み手しようぜ」

 三人メンバーと事で俺らの次に決まったヤンキー三人衆達が組み手を申し込んできた。この状況を楽しく思っているのか、彼らの表情は、常にニヤニヤとしていた。何か嫌な予感がする。俺は、そう思いこの誘いを断ろうとする。

「嫌……」

「上等じゃない!受けて立つわ」

 俺が断りしようとするのを遮る様にリアが言う。その表情には余裕を感じられる中、早速クラスが注目する転入生が居る中、クラス成績上位の彼らとの一騎打ちは、今のうちはまずい。俺は、受けようとするリアを取り押さえる様にしてそれを断る。

「――今は止めておくよ!今の俺らには、チームの力を把握する事だからさ」

 不服な顔をしながらリアは、やる気を示すも今、揉め事が起きた場合、俺らの戦力は大幅に減る。そんなことはさせられない。この誘いには、何か裏があると胸の内が騒ぎ立てるのだ。しかし、そんな俺らと違ってヤンキー達は、大声で笑いだす。中でも靖は、腹を抱えながら笑っていた。

「お前さ、そんなこと言ってるけどさ……確認するほど力あるの?」

「それは――」

「何もないの癖にイッチョ前に言うなよ!最弱真一」

「そうだよね、俺は何も出せないからこの二人に頼るしかないから彼女達を知る事から始めないとね」

「ふん、興ざめだ。行こうぜ、こいつらの相手しているだけ時間の無駄だ」

 そう言い残して靖達は、どこかへと向かってしまった。何も言い返せなかった俺に対してなのか、リアはえらくご立腹だった。

「なんで、あんなに言われて黙ってるのさ!真一のあの力なら、奴らにだって勝機が――」

「発動しないんだ!!」

 俺は、ご立腹なリアに対して黙らせるかの様に大声で怒鳴り散らしてしまう。奴らにあんなことを言われて悔しい。一国の独立に貢献した男なのは、俺も知っている。だからリアにこんな姿を見られたくなかった。情けない気持ちで胸がいっぱいさ。

 この学園では、この力は何かに妨害され思う様に発動が出来ないのだ。リアが来た日は、上手く発動出来た物の……。ただでさえ、激しい激痛が体を支配する中でまともに戦える訳がない。そんな不安を打ち明ける事が出来ない。結局それから何も言えずに俺はそのまま立ち去ってしまった。

「ちょっと、真一!」

 リアの声が耳に突き刺すも俺は、無視をしてその場を駆け足で離れる。いつもそうだ……。俺は、逃げてばかりだ。そんな自分に一番腹を立てているのに人に八つ当たりしてしまい情けなく思う。今となって少し後悔の情が湧いてくる。

 ――リア、今頃怒ってんのかな?

 俺は、離れてしまった彼女の事を想いながら天を仰いだ。雲があると心地良いくらいの日差しが俺を照らしている。時折、こうして誰かを癒やしてくれる太陽が羨ましく思った。





 ◇◇◇

 真一がいなくなったリアと芽依は、二人で一緒にこの学部戦のルールや戦闘法を学んでいた。

「へぇ~、味方へのヒールが自由なんだ」

 中でもリアが聞いて驚いた事は、パーティー戦における戦い方の中で剣道の様な団体戦が言われる場合でもヒールが自由に行えると言う事。だが、ここで芽依が注意点を初めて参加するリアに向けて言い放つ。

「けどね、その回復行為を邪魔する妨害魔法も放たれるからそれに気を付けて」

「そうだよね、ただで回復させてくれないか……。相手を攻撃するのは?」

「攻撃魔法は、禁止されているの。あくまでも個人の勝負、他のメンバーは手助けのみ。それに手助けばかりに気を取られていると自分の時には魔力切れになるケースもあるからね。」

「そうか、自分の時に負けちゃったら意味ないのか」

「でも、何か意外だなぁ~」

 自分の話を真摯に聞き入れ戦略を練っていたリアの姿をずっと見ていた芽依は、思わず内に秘めていた言葉を不意に言ってしまう。

「そう?」

「うん、永宮くんが居ないならやる気がないんじゃないかって思っていたから」

「そんな事無いよ、私がやる気を完全に無くせば、真一は完全にやる気をなくすしね……。それに、私は信じているから」

「永宮くんが来る事を?」

「うん、だから私たちは諦めちゃ駄目。大事なのは真一を信じる事だよ」

 信じる事……、リアの言葉一つ一つが芽依の心に突き刺さる。幼馴染みのアドバンテージとかそんな邪念な部分を考えずに素直にリアが凄いとこの時痛感した。それに比べ、私は彼の事を信じる事が出来るだろうか……。芽依は、リアの横顔を見ながらそんなことを思うのであった。

「ねぇ、リアさん。お願いがあるんだけど……」

 芽依は、そう言うとリアは彼女の言葉に少し驚きながらも彼女の真剣な瞳を見ると、自然にうんと頷いて耳を傾ける。

「良いよ、私に出来る事なら何でも言って」

「ありがとう。お願いってね、永宮くんをやる気にして欲しいの!幼馴染みの貴女なら出来ると思うからお願い!」

 意外と言う言葉が当てはまる程、リアは予想外のお願いに一瞬目を見開くもすぐに納得して芽依に「任せて」と言い残してその場を後にした。


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