4 剣星
今から数秒前……。
慌ててリアを追いかける為、街灯が差す街を駆け抜ける俺だったが、リアは、そこまで遠くには行っておらず、近くの歩道でどうやら変な人に絡まれているらしい。
人を進化させた巨大な魔力は、当然他の生き物にも平等の進化を与えた。そして、人の様に自我を持った彼らによって夜も眠れない世界となっていた。そんな彼らを人々は、怪人と称していた。魔法陣の展開なしに人知を超えた跳躍力を彼女に見せつける男は、恐らく怪人の一人だ。突如現れた怪人は、恐怖で反応が鈍っていた彼女の足を握り逃がさないと言わんばかりに力強く掴んでいた。
このままでは、リアは……。
「――
俺は、ぼそっとその場で呟くと右の瞳が溶ける様に熱くなり激しい痛みが襲う。痛みに耐える為、両腕をガシッと掴み歯を食いしばる。まるで、強い憤りに自我を奪われるかの様な感覚から自我を守る為に俺は、掴んだ腕に爪を立てる。自身の中に居るそいつは、三年振りの目覚めに非常に強い気勢を感じた。
――さぁ、その身を委ねろ
胸のうちに居るそいつは、俺に問いかけてくる。奴の言う事は正確で身を委ねれば、楽にこんな激痛に染まった世界から解放される。
けど……、俺はそれを受け入れない。
「お前に支配されねぇ!!」
右目を押さえ、数メートル先に居る怪人に気づかれない様に言うと、激しい痛みは次第に弱まり俺は、右目から手を離す。赤く染まった視界が敵を捉える。投げやすい刀身が短い剣が俺の手に現れる。この右目が必要な物を必要なときに呼び出してくれる。これが、俺の隠れた能力、『剣星』だ。
自身の意志を星の記憶に繋がる事で、あらゆる時代から様々な剣を手元に呼ぶ事が出来る能力。それは、静かに星が見続けてきた人という歴史そのものだ。しかし、星には幾つもの人格があり、俺に宿った人格は、これまでの人がこの星にしてきた行為を憎んでいて……。契約をすると、ありとあらゆる物を破壊するまで止まらないバーサーカーなのだ。星の人格なんて呼びにくいから俺は、奴の事をバーサーカーと呼んでいる。
――何故だ、三年前は、あんなに楽しく破壊したじゃないか?
「違う――!俺がお前としたのは、人を殺す契約じゃねぇ。あいつの……、リアの笑顔を守る為だ!」
俺は、バーサーカーの問いに真っ向から反対する。すると、以外にもバーサーカーは大人しくなってしまった。久々に暴れる事が出来ると思って燃え上がっていると思っていたのに意外な反応に思わず拍子抜けする。
――何、久々の再会何だろ?俺だって空気ぐらい読むさ
じゃあ、いつも読んでくれ……。そんなことを思っても決して口にせず、俺は短剣をもう一本用意すると、右手を大きく振り手にした短剣を勢いよく投げる。回転が掛かり、大きく弧を描く様に男の腕を切り落とした。
「――は、はぁ!?」
男の思考が止まる。
それも無理ない。視覚から突如現れた短剣により自身の大事な腕が切り落とされたのだ。目視で確認した男は、そのまま激痛走る腕を押さえながらその場で悶え込む。リアは、様子が変わった男の事を注視している中、俺は、ゆっくりと男が悶え込む所へと歩き始める。
「だ、誰だ!?」
男が目線をこちらに向けてくる。怒号の様な声が俺の耳を襲うも今の俺にはそんな雑音は、全く怖くなかった。フードで隠れていた男の目が俺の赤い瞳を見るとその様子は再び変化する。
「お前、まさか……!?」
俺は、街灯の下へと足を運んでその姿を晒す。彼の後ろには、涙が溢れるのを必死になって堪えていたリアの菅を見ると俺は、眉間に皺を寄せ威嚇するライオンのようにローブ姿の男を睨む。
「――お前……剣使い!?」
「あぁ。」
男の言葉に思わず反応すると青ざめた表情を浮かべた男は、人の皮膚が次第に剥がれていき、二足歩行の人型のバッタ男へと姿を変えた。怪人は、死への恐怖が次第に迫ると変身能力を失い本来の姿となる。リアを襲っていたのは、怪人の一人バッタ男だ。全身緑色にバネのような足が特徴だ。
「なんで……こんな所に。クソッ!」
「――俺も神じゃねぇから、お前らがどこで何をしていようが分からない。けど……、俺の大事な物を壊そうとするならッ!!」
声に合わせて俺は、バッタ男目掛けて左手にしていた短剣をシュッと投げる。剣先が彼の右足を貫き道路へと食い込む。次に投擲にふさわしい物として忍者がよく使うクナイを両手に用意すると直ぐさまバッタ男へ目掛けて投げると、起き上がっている怪人を地面に磔にする。貫通した両腕と右足から血と共にバッタ男の悲鳴が周囲に響く。
痛いと連呼しながら怪人に俺はゆっくりと近づくと右手には、黒色の刀身の日本刀――コクゲンが姿を見せる。両手でしっかりと握ったコクゲンの刃を怪人に向けたまま俺は、大きく振り上げる。
「――大事な物を壊そうとするなら、俺は全力をもってお前達を排除する。」
怪人の懺悔の声が何度も言われようが俺は、躊躇無くコクゲンを振り下ろし、バッタ男を斬る。一本の真っ直ぐな線が怪人の体に入ると頭から順番に二つへとなって行く。もう恐怖に怯えた懺悔の声など聞こえては居なかった。
「――懺悔なら、あの世でたくさんしてくれ」
俺は、再び静まりかえった住宅街の空気に感傷的になりながら消えた怪人に対してそう言い残した。残る死体や血痕も全て塵となり消えていく。まるで、無かったかのように……。
俺が手にしているコクゲンや怪人に刺さっていた短剣、クナイも砂のように消え去り、街は完全に元の姿へと戻った。
「――帰ろうか、リア」
俺は、今もなお震える彼女へ手を差し伸べる。表情は固くなく笑顔を見せ、リアが安心できるように心がけた。彼女は、何も言わずに差し伸べた手を握る。俺は、ゆっくりと手を引くと彼女は静かに立ち上がった。
「ありがとう、真一……。やっぱり、真一は私の英雄だね!」
涙汲んだリアが胸にそっと手を当てて応える。その表情は、不安という名の霧から抜け出して広大な景色が見られたと言った感じだろうか。そんな笑顔が見たくて俺は、この力と契約した。三年前のあの選択肢が間違いではないと俺は、彼女の笑みを見てそう思った。
「どうせ、泊まるところないんだろ?俺の家で良ければ、来いよ!」
俺は、頬を搔きながらそう言うと、リアはただうんと応えて俺の後を歩き始めた。こうして、長いとても長い一日に幕が閉じた。
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