2 ブロンド髪の美少女は、嵐の様に俺を連れ去ってしまった

 昼休みが終わり、授業となればとくに何をやれとも言われずに割と平和に過ごせる。それは、カースト上位の彼らが授業に興味が無く、いつも爆睡しているからだ。おがげで、俺はいつも集中して授業を受けられる。知識を身につけて俺みたいな魔法適正がない奴が現れたら俺が救ってやる。そんな理想を抱いて俺は、授業を受けていた。

「おっと、そろそろ終わりだな……各自復習をしておくように」

 時計を見た教師がそう言うと今日の最後の授業が終わる。授業が終われば、俺がやるべき事はたった一つ。俺は、勢いよくその場から立ち上がりカースト上位の彼らを見る。まだ居眠りの最中だった。このまま気づかれずに還れば……。

 俺は、そう思い鞄を手に取り教室を去ろうとしたときだ。俺の前に突如として芦沢芽依が姿を見せた。

「永宮くん、一緒に帰ろうよ!」

「良いけど……彼奴らとはごめんだぞ?」

「うん、永宮くん彼奴らの事嫌いだもんね、放っておいて早く行こう!」

 芽依は、そう言うと俺の腕を掴み二人並んで教室から出る。その際、数多くの声が聞こえてきた。

「羨ましい……」

「なんで最下位なんかに……」

「可哀想……」

 俺はこの学園に入ってから、常に陰口を叩かれながら生きてきた。恵まれなかった者とされ挙げ句の果てに検査を偽造したのではと言った疑いをされ社会に俺の行き場がなくなるくらいにマスコミや政治家に叩かれた。だからか、陰で言われる事になれていた。慣れすぎてその声をただの音にしか聞こえなくなっている自分がいる。

「ねぇ、何怖い顔しているの?」

「いや、何でも無い」

 少し考え事をしていると不意に芽依に呼びかけられて我に返る。芽依は少し不安な表情を浮かべながら俺に接していた。相当怖い顔をしていたのだと、彼女を見れば良く分かった。

「だったら、今日は楽しく遊ぼうよ!」

「え?」

「ほら、付き合った記念にさ、ね!」

「う、うん……わかった」

 俺はそう言うと芽依は、ぐいぐいと俺の腕を引っ張りながら近くのゲームセンターに入店する。生まれて初めて入るゲームセンターは、機械の音で賑やかで思わず鼓膜が潰れるかと思った。大迫力の音量に熱狂する人々……。正直、ここは未知の世界だと思った。

「あれ?初めてだった?」

「あぁ、ここには初めて来た」

「じゃぁ、今日は二人でとことん楽しもう!」

 そう言われて俺は、隣にいる初めての彼女と未知の世界であるゲームセンターを順番に回る事となった。始めに連れてこられたのは、プリクラと書かれた写真を撮る機械のまえだった。

「え、ここ?」

「そうだよ、付き合った記念に残すなら写真でしょ!これね、チョー綺麗に撮れるからね!ほら、早く行こッ!!」

「ま、待って!わかったから、分かったから!!」

 こういうとき、普通なら男がとか言われるのだが……。

 俺には、こういう経験が無いので完全に彼女の言い回しに付き添う感じの受け身になっていた。ブースの中に入ると、芽依が100円の硬貨を入れて機械が起動する。慣れた手つきで芽依は、画面をタッチして設定を決めていく。

「ほら、始まるよ!」

 そう言うと、画面から離れて芽依は、俺の横へと戻ってくると画面の上にあるカメラのレンズを指さす。

「永宮くん、あれ見てね!」

「凄い、慣れているんだな」

「まぁ、友達と一緒に撮るからね~。今回は、永宮くんの初めてを一緒にやれて私は、嬉しいよ!」

 彼女は、不意にこちらを向き笑顔で応えてくれた。その笑顔がとても綺麗で思わず見とれてしまっていた。そんな中、シャッターを切る音と共に視界を奪うほどの眩しいフラッシュが俺らを一瞬照らした。あまりの眩しさに俺は、瞬きをしてしまう。すると笑顔だった芽依の表情も驚きへと変わっていた。お互いに数秒見つめ合うと、クスクスと笑ってしまう。

「永宮くん、私じゃなくてカメラ見なきゃ」

「ご、ごめん。まさか、もう始まっているなんて……」

「ほら、次ね!」

 俺は、気を取り直し芽依からカメラの方へと視界を変える。今更だが、機械から案内の音声が流れていた事にこのとき気が付いた。俺は、目線を奪われていたとき視界まで消えていたのだ……。

 今考えればとても恥ずかしい……。

 あまりの恥ずかしさで顔が熱くなりその後の事をあまり覚えていない……。

 俺らは、気が付けば無事にプリクラを撮り終えていた。ブースから出て印刷された物を俺は、彼女から受け取った。

「はい、結構楽しいでしょ?」

「そうだね、緊張しててあんまり覚えてないけど……」

「えぇぇぇ――、じゃあ~もう一回行く?」

 彼女は俺の返事に納得がいかないのか、少し落ち込むと逆に気合いが入ったのか、もう一度と提案されるも俺はそれを咄嗟に断った。ブースの中の独特な雰囲気に俺は、ついて行ける自身がないからだ。でも……。

「ん?どうしたの?」

「いや、何でも無い……。さぁ、次に行こう」

 俺は、そう言って彼女の問いをはぐらかしてしまう。今思った事なんてとても言える事ではなかった。

 ――昔、一緒に遊んだ幼馴染みと撮りたかった

 なんて、言ったらそれは、欲張りなのかも知れない。けど……、時折彼女の事を思い出す。あれから元気にやっているかなど遠い海の向こうへと帰った彼女のことを……。

「――やぁ、真一!」

 ん?

 幻聴なのか、どこかで聞いた様な彼女の声が聞こえた。一瞬焦りのせいで額に冷や汗が浮かぶ。まるで、俺の心の声が外に漏れたかのような気がしてならなかった。

 ――イヤイヤ、可笑しいでしょ!?彼女の実家は、海の向こうのイスカリアと言う国ですよ?

 聞こえてしまった幼馴染みの声に戸惑いながらも俺の心の声は、自身に突っ込みを入れるという良く分からない事を思わずしていた。しかし、隣にいる芽依は、俺の袖をクイと引っ張り俺に質問する。

「――ねぇ、永宮くん……その人は、誰?」

「え、声!?そ、そんなの聞こ――」

 俺は、裏声を出しながらビクビクと背中を震えさせてゆっくりと後ろを向く。さっきの声は、幻だ。そう俺の心に言い聞かせながら……。

 しかし、目に映るのは……。腰まである長いブロンド髪の誰もが美しいと思う美少女の姿だった。俺は、瞬きを何回か繰り返してしまう。幻覚じゃなかと。

「ねぇ、真一……。頭可笑しくなった?それとも記憶が無い?」

「――嘘、だろ?」

 それしか、声が出なかった……。正直、数年ぶりに再会する幼馴染みは、今の彼女より何百倍も美しくて見とれていたのだ。お人形の様に美しい彼女に……。

 そんな固まっている俺なんかを放っておいて嵐の様に姿を見せたブロンド髪の幼馴染みのリア・イスカリアは、隣で袖を掴んでいる芽依に話しかける。

「ねぇ、ちょっと彼を借りるね!」

「え、ちょっ……永宮くんは、私の――!」

「お願い、この埋め合わせは今度するから!三年振りの再会なの!」

 そう言って、幼馴染みは俺の手を強く握り締めて芽依から奪い取るかのように俺を連れてその場を去っていく。

「――え、ちょっ…俺の意見は!?」

「呆けている君の意見なんて聞きません!」

 何だ、この状況は……。

 正直、理解が出来なかった。今日は、色んな事があり過ぎた。

 彼女が出来たと思えば、突然異国に住む幼馴染みが俺の前に現れるなんて……。

 こんな事を誰が想像しただろうか、俺だって想像できない。

「お、おい!どこ行くんだよ?」

「――良いから、少し付き合ってよ」

 俺は、もう考える事を辞めて片腕を引っ張る彼女に問いかけると、先と冷たい口調でブロンド髪を揺らしながら彼女は応えた。

「どこか、行くぐらい教えてくれても良いだろ?」

「馬鹿……」

 それでもどこに行くか知りたくて彼女に問い詰めるとリアは、顔をこっちに見せず、今にも消えそうな小さな声で呟く。俺は、それを聞き取れずに「何?」ともう一度聞き直してしまった。

「――何でも無い!だいたい、どこ行くかなんて真一ならすぐ分かるでしょ?」

 そう言われてしまったら俺は何も言えず数年前の懐かしい記憶を辿る。途中、ゲームセンターから人通りの多い大通りで出ると、誰もが俺の先頭を歩く彼女の事を見る。そりゃ、誰もが振り返るくらいにリアの顔立ちはとても美しかったのがとても印象的だった。

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