1 突然彼女が出来る

 

 ここは、アジア大陸から少し離れた小さな島国でありながら世界でもっとも魔法が盛んな国日本。その日本の東京湾に浮かぶ人工島、日室島ひむろとう。魔法に関する教育機関であるその人工島には、聖魔学園と言う巨大な学園がある。四限目終了のチャイムが高らかに鳴り響くと他の生徒は、持参した弁当を片手にまとまって校内で綺麗に咲いた桜を見に行ったり仲間と弁当を食べに中庭へと行く中、高等部2年1組の教室では、次のような声が当たり前のように飛び交う。

「オラァ、弱虫真一!さっさとあんパン買ってこいよ」

「あ、俺焼きそばパン!」

「俺は、とんかつ丼だ!勿論、金はお前持ちな!」

 長い授業を抜け、やっとたどり着いた至福の昼休みのはずが、俺――永宮真一ながみやしんいちは、他人の飯の為に颯爽と購買へと走り出す。この時間になると、無心になりながら、ただ命令に従うロボットのように言われたように遂行する。そんな生活は、早く慣れた者勝ちと思えば苦ではない。ただ、お金がなくなり生活するのに困難になる。だから、ここ毎日昼飯は抜いて食いつないでいる。と言うか、彼奴ら俺が昼飯を食べられなくする為にわざと高い者を買わしている。

「おばちゃん、あんパンと焼きそばパンととんかつ丼」

 俺は、購買に着くと言われたとおりに注文をしてお代を払い手にした昼食を大事に抱えながら颯爽と教室へと戻る。できるだけ、一秒でも早く戻らないと彼奴らに文句を言われ、サンドバッグの様に殴られる。ぼろくそに言うのは耐えられるが暴力で傷つけられるのは、辛い。けど、こちらがどれだけ早く行こうとも奴らは、「遅い」と言って殴るのだから本当に勘弁して欲しい。そんなことを思いながら俺は、教室へ辿り着くと先ほど声を高らかにして注文していた三人の所へと向かう。

「お待たせ!はい、焼きそばパンととんかつ丼とあんパン」

 そう言うと、彼らが待っている机にそれぞれ頼まれた物を順に置いていく。

「お、昨日より早く着いたじゃん」

「いつもこれだけ早くもってこいよ!もしくは、今日より早くだ」

 調子の良い事を言って無理難題を押しつけてくる。俺がどんだけ苦労も知らずに彼らは、そんなことを言うのだ。けど、昼休みの購買が一番混むのは、誰もが知っているはずなのにそんなこと無理だと分かるはずなのに……。

 ――全く、だったら自分で買いに行けよ

 そう思っても絶対に口には出来ない、そんなことを言えば逆上した彼らのサンドバッグになるに決まっている。これがこの国の最下位である俺の生き方だ。

 魔法大国日本――、この国がそう呼ばれるようになったのは、今から10年前。突如突落下した隕石に寄って地球を覆うくらいの巨大な魔力が生じて人々を次の段階へと進化させた。

 魔法が扱えれば、当然強さが生じる。魔法を学び誰よりも力強い魔法が扱える人が勝者となる。それは、スクールカーストでも同じ事。みんなが使えるはずの火球すら扱えない俺は、この国では、負け者だ。敗者が勝者に勝てる訳もなくただ、腐った青春を過ごすだけだ。

「あ、そうだ!頑張ったパシリ君には、ご褒美をあげなきゃな!」

 金髪に金のネックレスを身につけたのがリーダー格の男、片岡靖かたおかやすしは、そう言うと誰かを呼ぶように手招きする。他の奴らもニヤニヤとした笑みを見せながらまるでこれから見世物が始まるかのような期待がその笑みから感じ取れた。俺は、一体何をされるのか……。そんな不安が胸を掻き回す。早く終わって一人になりたいからだ。しかし彼らが呼んだのは、クラスの女の子だった。頬を赤くし決して目線を終始合わせるのではなく、何度かこちらを見る事で数度、目線を合わせているとても愛くるしい女の子だった。

「君は……?」

「えっと同じクラスの芦沢芽依あしざわめいです」

 芦沢芽依、肩に掛かるくらいの長さの赤みがかった茶色髪に、少し着崩した制服を着方をしているいかにも陽キャと言える彼女。その胸には夢が詰まっているのかと聞こえそうな大きな双丘のせいか、第二ボタンまで外したブラウスからその大きさが伝わるかのような谷間に男なら誰もが目を引かれる理由が間近に居ると納得できた。

 そもそも、男子人気ナンバーワンの彼女が何故、俺にと言った疑問があった。芽依は、そんな俺に気にせずに話しかけ始める。

「えっとね……。私、その……永宮君の事が気になっててね……」

 彼女は、頬を更に赤くしながらそう言い始める。彼女の顔はまるでリンゴの様に真っ赤になっていた。俺も鈍感ではない為、この流れはよくドラマで見た事がある。だが、俺には発言権がなく黙って彼女の言葉を聞くしかない。

 俺は、芽依の言葉に耳を傾けた。

「その出来れば、お付き合いを――」

 赤面の芽依がそう言うとそれに乗じて周りに居た男達が場を盛り上げる空気を作り俺の逃げ場を失うかのようにヤジを入れてくる。その様子は、正直子供かよと突っ込みを入れたくなってしまうが必死に堪える。

「くそ、羨ましい!!」

「なんで、こんなやつなんかに……」

「真一の馬鹿野郎!!」

 俺は、そのヤジに少し引くも目線を目の前に居る彼女に向ける。クラス一のヤンキー三人衆が絡んでいる時点できっとろくな事ないと思うのだが……。

 ここで、断ってしまえば、俺は『勇気をだして告白した美少女を振った最低野郎』と言われ、彼らに良いネタを提供してしまう。それだけは、なんとしても阻止しないといけない。

「――俺なんかで良ければ」

 結局、馬鹿にされるのが怖かった俺は、芽依の告白を受諾した。

 無力の俺には何も出来ない。

 強者の言う事をただ従うだけの下僕……。

 彼らの薄笑いの笑顔をみて、俺はそんな事を思い知らされる。

「じゃあ、俺行くから」

 俺は、教室の雰囲気が嫌いだ。だからそう言っていつも教室から離れる。今のやり取りで時間は、減ってしまった。

 残り三十分の少ない昼休み、俺は癒やしを求めて誰も居ない校舎の屋上へと向かった。






 ◇◇◇

 真一が教室から離れると彼のクラスでは、大爆笑が響き渡る。と言っても、笑っているのは柄の悪い三人の生徒のみだったが、それでも大きな笑い声は、教室の外まで筒抜けで聞こえていた。きっかけは、先の告白にある。何も知らずに嘘の告白を了承した真一の姿にリーダーの靖は、一番笑っていた。

「あいつ、本当にOKするとはな!全く、勘違いも甚だしいぜ!コイツが誰の女かもしらずにな」

「そうですよね、ただ王様ゲームで負けた芽依ちゃんが告って三ヶ月付き合う罰ゲームだっていうのに」

 靖は、隣に居る芽依の大きな双丘の片側に手を伸ばして優しく触れる。芽依も嫌がるそぶりを見せず、その手をギュッと抱きしめ、私は貴方のものですと態度示すように、大事に離さない。その様子に靖は、ニヤッと口角が上がる。

「――あいつの地獄へ落ちる顔が楽しみだ!なぁ、淫乱女」

「はい、靖様。でも、たまには芽依のこの大きな丘で遊んで欲しいな~」

「おう、良いぜ!あいつじゃろくに快楽を与えられねぇからな!」

 再び教室の一部がヤンキー達は、大声で笑い出す。周りのクラスメイトは、距離を置いた所から彼らの様子を少し退いた目で見るけど、そんな彼らに誰も逆らえない。何故なら、このクラスのカースト上位が彼らだからだ。他のクラスメイト達は、彼らの行為を見て見ぬ振り。それしか出来なかった。例え、どんなに汚いと思ってもここでは、順位が一番大事なのだ。

 上の順位の奴には逆らえないそれがこの国の決まり事。

 そうして、上へと言う強い執着心がたくさんの優秀な魔法戦士を数多く輩出してきた一番の理由なのだ。

「まぁ、俺が良いって言うまでは、あいつの相手でもしてやれ!良いな?芽依」

「――はい、靖様」

「分かれば良い……、良い子だ。さぁ、俺らも飯にしようぜ!」

 靖の声に賛成と声を上げて三人は、真一が買ってきた購買のパンやとんかつ丼を頬張る。そんな彼らの横に居た芽依は、靖の事をバレない様に睨み付ける。本来なら彼に従うなんてもっての外だが、ここで騒ぎを起こせば、全てに無駄になる。

 小さくもとても力強いを彼に託す為にも芽依は、彼らの無茶振りにも素直な感情を表に出さぬ様に耐え忍んでいた。




 こんな、生活が東京湾に浮かぶ人工島日室島の真ん中に位置するここ国立聖魔学園で起こっている。

 聖魔学園は、幼稚園から大学まであるエスカレーター式の学校だ。

 魔法を使える可能性がある人を生誕時に調べ、1パーセントの確立でもあれば、強制的に入学させる。ここは、国が認める魔法戦士育成機関だからだ。生徒の実績は、全て魔法を扱える能力でしか、評価されない。例えば、高難易度の魔法が自在に撃てるとかそう言った事で人を評価していく世界だ。

 そして、その評価は学園の順位として生徒達に番号ナンバーを与える。

 高校生の永宮真一の番号ナンバーは、3000。

 これは、幼稚園から大学機関まで合わせた全ての全校生徒3000人中の最下位である。




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