第179話 人生の値段
皆さまのおかげで、九州の片田舎の大名を題材にしたお話が50万PV越えました。
これは大分市の人口を超えた数であり、キムタク信長を見に来た人たちよりも多い数で、その数の大きさに震える思いです。
これからも、戦国時代に実現可能な技術とフィクションのブラック企業話をほどよくフィクションまじりでブチ込んでいきたいと思いますので、お楽しみ頂けたら幸いです。(※本作はフィクションです。実際の人物、団体、大分とは関係ありません)
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信濃に移動していた武田晴信の屋敷に手紙が投げこまれたのは7日後の事だった。
今回の移動は近臣にしか話しておらず、場所を知るものは限られていたのだが、それでも手紙が届いたということは『おまえの行動をこちらは全部把握しているぞ』という無言の脅しに感じられた。
だが、この程度でビビっていては戦国大名など勤まるはずもない。
なんでもない風を装って晴信は手紙を持ってくるように言った。
『―――おそらく、こちらが放った密偵をいくらで買い戻すかの商談だろう』
一人当たり2貫だろうか?手持ちの金で足りなければ本国から持ってこさせるか?と計算をする。
晴信は敵の戦意を挫くため、諏訪攻めでは城を取り囲んだ際に討ち取った者たちの首300を柵にさらすという外道のような所行をおこなったと言われる男だが、身内には意外と優しい男だった。
マフィアのボスが敵には苛烈な報復をしてもファミリーには優しいのと同じである。半分は保身のための演技でもあるが、仲間を想う気持ちはあった。
『なんとしてでも取り戻さねば』
そう思い、持って来させた手紙を見ると
「…………ぶ厚すぎぬか?」
そこには30通ほどの手紙の束があった。
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この時代の手紙は字が汚な…個性的なので解読にも時間がかかるし「。」は記号化された「候」を使ってはいるものの、改行はされないため読みにくいことこの上ない
(紙面節約のため紙にびっしり字を書くため)。
直江状という長い文章(長さ5m45cm幅30cm)を送られた徳川家康も『え?これ全部読まないといけないの?』と思ったことだろう(推測)
手紙が長いことで知られる毛利元就でさえも長さは訳2m。
嫌がらせの長文メールは覚悟からして違う。
だが、大事な部下の為だ。
とりあえず『壱』と書かれた書状を開いて内容を見る。
そこには、読みやすい字でこう書かれていた。
『(意訳)お宅の忍びを捕まえたけど、機密を知られたから返せません。でも家族と離ればなれにするのは可哀想なので、妻や子供一人あたり1貫支払うから越後まで送ってください』
「…………」
晴信は一度手紙から目を離し、眉につばをつけてもう一度文面を読み直す。
『(意訳)お宅の忍びを捕まえたけど、機密を知られたから返せません。でも家族と離ればなれにするのは可哀想なので妻や子供一人あたり1貫支払うから越後まで送ってください』
どうやら見間違いではないらしい。
スパイを捕まえたので買え。という話はよくやるが、スパイを捕まえたのでその家族を売れというのは初めてである。
「何を考えておるのだ?この男」
理解不能な思考の男が書いた手紙を見て、晴信は不気味さを感じた。
しかも、その後ろに
『取引に応じるなら『弐』を、応じないなら『参』の書状をご覧ください』
と書かれている。
返答しだいで、次の話に続くらしい。
現代なら『外交文書をゲームブック形式でおくってんじゃねぇ!』と怒られそうだが、いちいち信濃と越後を往復するのは大変だろう。という匠の心遣いと合理性に甲斐の虎は感心した………………………………などと、思うはずもなく
『こやつはマトモな教育を受けておるのか?(意訳)』
と、思った。
この時代、書状は仲間内なら名前を省略したり砕けた表現も許されていたが、外交文には定型があり、それを外れるのは『カナリシツレイ』にあたるものだ。
そんな文書を送って来る辺り、よほど礼儀を知らないか、余程無礼な男なのだろう。
とりあえず、どのように対応すべきか相談するため、わずかに呼び寄せた供の一人の名を口にする。
「(山本)管助!」
「はっ!」
そういわれて隻眼隻足の人物が登場する。
昭和時代に大河ドラマ風林火山が登場するまで実在自体を疑われていた晴信の腹心 実際の書状(市河家文書)では山本管助。通称 山本勘助である。
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「これは、やっかいな事になりましたな…」
基本忍びというものは、生還できそうなら生還する。
情報をクライアント(依頼主)に届けるのが仕事だからだ。
だが、帰れそうになく、逆に拷問などで誰の依頼か吐かされそうなったら情報を吐く前に死ぬ。
だからこそ大名は信頼して仕事を任せるし、忍ぶ方も家族は養って貰えることを信じて死ねる。
そんな関係である。
だが、武田の場合、一般人を忍びにしている。
これは一見効率が良さそうだが、その実質は便衣兵と同じである。
もしも甲斐と戦が起これば、甲斐から来た商人や僧、踊り巫女は全員敵とつながりがあると見なして幽閉される事になるだろう。
現在の●国でも「国家情報法」という「国の情報活動を強化、保障し、国の安全と利益を守ることを目的とする」法律によって国の命令でスパイ行為をしなければならない状態にあり、実際に数人が逮捕され国外退去させられている。
を乱用し過ぎれば、たとえどんなに良い人で何十年もその国に住んでいたとしても『中●人は国の命令でいつか牙をむく』とか『中●人お断り』の看板を出さなくてはならなくなってしまう。
それを理解して法律を作ったのかはなはだ疑問だが、アメリカは第二次戦争中は共産主義者を隔離した。
また日系人もスパイの恐れありとして連合国、特にアメリカやペルー、ブラジル、メキシコ、カナダやオーストラリア、ニュージーランドなどのイギリス連邦において日系人や日本人移民に対する強制収容所への収監政策が1942年から終戦後の1949年に亘って実施された。
各地を旅する商人や山伏が警戒されたのはそれが原因の一端だが、甲斐はその中でも一般人を諜報活動に組み込みすぎた。
「ここで家族ごと放出すれば甲斐の内情が漏れる可能性はあるし、領民からの非難は免れませぬな」
書状を読みながら勘助は言った。
「だが『そんな男はしらないから好きにしろ』と言えばもっと非難されるだろうし、忍びに従事しようとする人間は減るだろう」
と晴信は渋い顔をする。
さらには『武田は領民に過酷な使命を与えておきながら、捕らわれても助けもしない非人情な男』などと騒ぎ立てられれば、これから武田を頼る家は減るし、領主たちからも失望の声があがるだろう。
『……いっそ、死んでくれてた方がやりやすかったものを』
非道な感想を勘介は思った。
仮に上杉が忍びを殺していたら
『長尾は他国からきた商人や坊主を殺害する人でなしだ』
と非難できる。だが、生きているならそうはいかない。
『家族を呼ぼうとしたら晴信から殺された』などと吹き込まれれば、民間人で専門的な訓練を受けていない商人などは簡単にマインドコントロールを受け情報を暴露するかもしれない。
少し奮発してでも買い戻すべきだろうか?
だが、相手は甲斐に戻す気はないと言う。
『いっその事、三ツ者(忍び)たちは機密を漏らさないよう立派に自害を遂げたのに、長尾はまだ生きているとウソをついて金をゆすり取ろうとしている。と非難するか』
ついでに、この書状を近隣の大名に見せ、書いた奴を笑い物にしてやろう。
そう思いながら、手紙を読んでいくと数枚の紙片が落ちて来た。
「なんじゃ?これは」
今度はどんな掟破りな書式の紙を送って来たのだ?
そう思いながら、拾い上げると
「……………これは一体どのような絵師が書いたのだ?」
そう言って手に取ったのは、まるで鏡にでも写したかのような精密な絵だった。
そこには自分が送りだした忍びが縄で縛られ捕まった絵が載っている。その姿に心を痛めながらも、絵の美しさに魅了された。
髪の一本一本。目の光、肌の皺、髭の毛穴まで、ここまで精緻な絵と言う物を晴信も勘助も見た事が無かった。
「……………素晴らしい」
当代随一の絵師でも、画聖と呼ばれた雪舟でもここまでは書けないであろう程、その絵は写実的で、美しく、晴信は心奪われた。
まあ、写実的というより『写真』が送られていたのだが。
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「さて、今頃武田さんはどの手紙に辿りついているかな」
「最後まで読まずに破り捨てられてないと良いですね」
「人質の命がかかってるんだから嫌でも読むだろうさ」
「アンタ鬼ですね」
と、気の抜けた会話を交わしているのは、非常識な外交文書を送った大友義鎮とさねえもんこと斎藤鎮実だった。
「まあ、人相画を書いても正確に伝わるか分からないし、名前は偽名の可能性もあるからな」
そう言いながら、大友義鎮は先週豊後に帰った際に無月さんから渡されたカメラをいじっていた。
それをみて、さねえもんが
「『なんかこう、小さな箱があって、光を一瞬入れたら光の当たった部分だけ反応するような物質を探して、それを固定する液体を作って』というふわっとした説明で、よく作れましたね。そのカメラ」
と呆れたように言った。
「家づくりの基本も知らない状態で、初めて現場監督をしたときに『いい感じにやっといて』だけしか言わない上司に比べたら、まだマシだろ?」
「…………それ、場を和ますためのジョークですよね?」
しりとうなかった社会の理不尽を聞きながら、さねえもんはグーグル先生で評価が3以下の建設会社にだけは就職しないようにしようと決意した。
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高校時代、友人が写真部に入っており、暗室とかで現像しているであろう姿に憧れを抱いたものですが、今になってやっと現像の仕組みが理解できました。
大分は硫黄が取れるので銀があればある程度いけそうですが、カラー写真はまだ理解が出来ないので、当分白黒写真で行きます。
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