第176話 壊したら不味い自然と壊した方が都合が良い自然


 皆さんは中国で一日でビルが建てられる動画と言うのを見た事があるだろうか?


『中国 ビル 一日』で検索すると現れるのだが、10階建てのビルを28時間で完成させていた。

 予めコンクリトー製の部屋を分けて造り、おそらくボルトなどの金具で固定して積み木のように積み上げていったのだろう。

 大型クレーンで次々と部屋を載せて行き、連結道具を処理する部隊、内装やガラスを設置する部隊、電気や水道をチェックする部隊と下から決められた行程を進めていた。


 耐久度や安全性を考えると住みたいとは思わないが、是非は置いといて、事前準備さえ出来ていればこのような不可能に見える工程の工事でも可能なのだなぁと感心したものである。

 

 ビル倒壊のニュースが多い中国だが、挑戦を繰り返す態度とその実行力には脱帽する。もし自分がこの現場を『やれ』と言われても絶対やりたくないし、住みたくもないが、問題点が洗い出され、これが当たり前の工法になったら工期に追われる監督は減……らないだろうな。

 お客様は無茶ばかり言うから。



 前置きが長くなったが、何が言いたいかと言うと『秀吉が6日で6kmの堤防を完成させた』という事である。


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「知ってます?墨俣一夜城って『絵本太閤記』って江戸時代の本に書かれてて、実際の史料には出てきてないそうですよ」

 とさねえもんが言う。


 マジかよ。


 一夜城くらい、この年齢でも出来るだろ。と思ったから任せたけど、失敗してたらえらいことじゃん。

 だが、そんな心配は杞憂だった。

 くい打ち部隊、集土石部隊、土石積み上げ部隊、と徹底した役割分担により作業はシステマチックに進んでいった。

 それに、秀吉は問題が起こりそうな場所へ先廻りして段取りを整える。

 一人一人の担当作業が単純化されているのでミスも少なければ技術の習得も早い。

 昔『これからはマルチ的な人材が必要だ。一人一人が店長になった気持ちで、すべての部署を動かせるよう何でもできるようになれ』。

 と、バイト先の書店でうさんくさいコンサルに洗脳された跡取りのボンボン課長と同調したアホ店長が、書籍に文具にレンタルDVDをローテで担当させて、店を潰した事があったが、『これが効率の良い管理だ』と見せてやりたいほどの指導っぷりだった。

 なんか信濃から出稼ぎに来たという人間が数名いたが、工事は完了しているというと肩を落として帰って行った。なんか悪いことをしたな。


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「よくやった!!!!!ハゲネズミ!!!!!」

 褒めてるのか、けなしているのか分からない言葉を与えるノブナガ。

 俺だったらぶん殴ってるか退職届を出してるかもしれねぇ。

「ははっ!!おほめに預かり光栄の至り!!」

 だが、秀吉は満面の笑みで答える。

 なんで、こいつが加賀に追放された信長君に仕えているのか分からなかったが、たぶんウマが合うのだろうな。と思った。


 出来上がった堤防から川の水は海へと直接流れ込み、一部は井戸ポンプを動かし排水にも利用できる。

 仮に堤防が壊れても、外側にもっと堅い堤防を作っていくので、川底のかさまし材となる。無駄のない使い捨ての堤防である。

 

 これであとは信濃川の水によって砂浜を貫通する水路が出来れば、越後の治水はとりあえず完了である。


 ……なんて気楽に考えていた時期がありました。


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「なんで河口が消滅してはるんですか?」

 俺は信濃川の新しい河口『だった』砂浜にいた。

 今あるのは砂砂砂。

 コンクリで固めた壁は砂に埋もれ、水が通ったはずの部分も砂。

 いま俺が立っている堤防だった場所も砂の下である。


「いやー、最初は川の水が砂を押し流して大きな流れができとったんですけどね、4日目あたりだったですかな?強い波と風が来てからあっという間に河口がふさがったんですわ」

 と、工事の担当者である加賀の技術者が言う。

 

 小さな障壁なら頑張って開通させる気も起るが、一晩たって現場に来たらすべてが砂浜に消えていたという。

 それも60~80cmレベルの砂壁が毎日100m近く復活するようになると、

もはや抵抗する気も失せたという。

「あ、あそこが堤防だった部分だよ」

 みると、護岸用に固めていたコンクリ壁が、川水に打ち付けられどんどん砂に埋もれているのが見える。


 今までの苦労をあざ笑うかのような『守ろう地球の自然』による洗礼だ。


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 別府の浜脇には昔、砂湯というものがあった。

 これは温泉が地面の下を流れて海に向かうため、別府で一番低い地点、砂浜を掘ると温泉が出てきたためだ。

 温泉熱で温められた砂はリューマチや血行促進に効果があり、観光客は砂浜から見える大分市街や高崎山、扇山などの風光明媚な自然を楽しむことができたという。

 また、今のゆめタウンには木製の桟橋があり大型船だと港に着岸できないため、小舟が乗客を迎えにきて桟橋まで招待したという。

 それはそれはのどかでにぎやかな光景だったという。

 だが、いつのまにか港は北の方に移転。

 砂浜は無機質なコンクリートの護岸にとってかわり、いまでは大型温泉施設といくつかの温泉が跡に残るばかり。

 かつてにぎやかだった浜脇は廃れ、別府の象徴ともいえた砂湯ははるか北の上人が浜を残すのみとなってしまったという。


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「ああ、なるほど」

「と、とのさん?」

 この砂はすべて、住民の発展を妨げる邪魔な存在なんだな。


 この風景を見て俺は色々悟った。

「ははは…」

「おい?だいじょうぶか?おい?」

 何で大分市や別府市の砂浜海岸がコンクリートで破壊されたのか。

 住宅地にはなんで砂浜がないのか?


 砂浜は、徹底的に根切りしないと人間の生活に害を為すからなんだな。


「あはははははははははは!!!!!!」


 別府の砂浜を整備した市長さん。土木課のみなさん。


 ごめんなさい。


 俺、反省します。


 洪水とか道路の崩落とかインフラが破綻している今、考えるとあなた方の提案は市民の安全に利するために活動しようという行動が見られました。

 たまに変なのがはいってたり賄賂で捕まった職員さんがいるけど。災害の多い場所で自然を破壊するという事は、それだけ『この自然を破壊しないと住人がやばい』という事なんですね。


『なんで、せっかくの観光資源である砂湯を壊したんだろう?アホなの?』とか思ってしまって、ごめんなさい。


「砂浜は10町(1km)規模で、全て石垣か松林にするぞ。水が通るのに邪魔な砂浜は全部破壊しろ。根切りだ。ここに砂浜があった事すら分からないようにがちがちにコンクリで固めてやれ」


 


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 一昔前にゴルフ場は環境破壊という事で少年マンガから青年マンガまで悪役にされていました。

 ゴルフ場の芝はイネ科だったので、当時の除草剤は近隣の田圃に迷惑をかけていたそうなので、それは正しかったのでしょう。


 ですがゴルフ場もなく人というか村が消えてしまい、荒れ放題となった山からイノシシやシカ・猿が出てくる現在日本を見ると、環境破壊してもよい自然もあったんじゃないかな?と思います。


 というか、保水能力のある山など人間にとって都合のよい自然は守るべきですが、落石や土砂崩れの恐れがある自然は壊した方が良いんじゃないかと、豪雨の多くなった大分で思います。

 ただし、山地や砂浜での太陽光発電。テメーはダメだ。


 なおラストのセリフは吼えよペンの自主製作映画回、暗闇に向かって走れ!の一部をオマージュしました。

 理想は高くて実物がアレという。創作家がだれしも通る黒歴史を分かりやすく書いたあの回は、ゴーストスイーパー美神の椎名先生の小説家の悪霊がこんな薄っぺらい話が小説だと?と憤慨するのに対して、あんたらが門を狭めたせいで読者が消えたという応酬並みに好きな話です。

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