第175話 小話 そのころの武田晴信くん
ジャンルについてお詫び:
スマホで作品情報を編集中、手が滑り歴史ジャンルから創作論ジャンルを押してそのまま変更を反映させてしまい、多くの方からご指摘があったとカクヨム様よりご連絡がありました。
急に柔道から野球漫画にジャンル変更したような事態になり、ご心配をおかけして申し訳ありません。
一応まだ歴史小説としての形態は保ちますので、これからもご贔屓のほどよろしくお願いいたします。
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なお、ちょっと話が長くなっているので、今回は武田家さんサイドから見たお話を書いてみました。
電話も無線もない情報伝達に時間がかかる時代のタイムラグを考えたらこんな感じかなと思いました。
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甲斐の守護 武田晴信(1559年より信玄)はいらだっていた。
以前、妻である三条夫人の父が豊後より『堤防の技術を大友に教えろ』と手紙で送ってきたとき、なんたる非常識なと憤ったものだ。
それゆえに
「長年かけて培った技術故、一朝一夕にはお教えすることができませぬ。もしも本気で知りたいのなら『義鎮(宗麟)』が自らお越しくだされば考えなくもありませぬ。とお伝えくだされ」
とわざと呼び捨てで返信した。
20年かけてもうすぐ完成しそうな堤は彼の一生をかけた大事業だった。
数十年かけてつくった秘伝のタレとか、一子相伝の暗殺拳並みの国家機密。
その秘密をおいそれと教えられるものか。
そう思って当然なほどの貴重な技術と知識だった。
甲斐から豊後までは数百里の距離がある。
大友家の小せがれとは一生会うこともないだろうし、仮に大友家から使者でもノコノコ送ってきたら、口八丁で金だけ貢がせよう。
そう思っていた。
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ところが、十数日後
「越後から戻った商人が、信濃川の中流に我が家の堤と非常に似た堤を作っていると報告がありました」
と注進が入った。
これを聞いたとき晴信は
『稚拙な陽動だな』
と思った。
越後と言えば一見 長尾景虎の下で家臣がまとまっている様に見える。
だがその実、この武田という強力な外敵がいるためにまとまらざるを得ないだけの烏合の衆だ。
もしも敵が消えれば食料も足りず、仲間同士で奪い合い、バラバラでまとまりがなくなるだろう。
おまけに君主の長尾は戦では無類の強さを誇るが内政は商売だけ。
自分の様に民と土に汚れて土地を守るという意識に欠けている。
それが湿地の多い土地事情から来るものとは知っている。
だが、土地は国家の根本である。
せっかくの土地を改良もしない無神経さ、家臣を養う意識に欠けた無責任さに相入れないものを感じていた。
作物が育ちにくい甲斐の国で、民のため武田のためならいかなる手を使ってでも領地を増やし、不満を外に向け、甲斐の発展のためならどのような犠牲や悪名を受けることも辞さない覚悟。
この戦乱の世で大名であるために必要なものを自分は持っていると自負していた。
だからこそ、潔癖を保つために己の名誉に傷を付けられぬ長尾は戦の実力は認めていても、内政での評価は問題外だった。
なので、越後で堤を作ったなどと言われても信じられるはずがなかった。
だが、3日後
「堤が!!!霞堤も龍石も将棋頭も模倣した堤防を越後で作られておりました!!!」
などととんでもない報告が入ってきた。
「嘘だ!!!」
信じられなかった。
何度、いや何十度あの堤は洪水のたびに破損し、それを教訓に改良したと思っているのだ?
あれを見もせずに噂話だけで作ったというのだろうか?
ベテラン料理人が若い天才にあっさり追い抜かされるような展開に、晴信はひざをつき『これは悪い夢にちがいない』と不動明王に祈りを捧げて心を落ち着かせた。
すると2日後には、越後の広大な湿原に杭を打ち始めたという。
しかもその杭は1里半(6km)にわたる長大なものだという。
「忍びに命じて妨害をさせよ」
すかさず命じた。
そんな大規模な工事、成功するとは思えないがもしもというときがある。
他国の発展は妨害し、自国だけが栄える。これが戦乱の世で生き延びるための基本。当たり前の策である。
人足にまぎれさせて、堤に穴を残すよう指示する。
単純だが効果的な手段だ。
だが、晴信にとって誤算だったのは、忍びに2日かけて準備をさせ、見送ったあと伝令が
「堤防ができあがっておりました!!!(涙目」
完成の報告を告げてきたことだった。
「んなわけあるか!!!(懇願」
晴信は伝令を叱りとばした。
既存の堤防を真似するのなら、情報流出したと考えればまだ納得はできる。
一枚岩と信じていた家臣に裏切り者がいるとは思いたくなかったが、そう考えないと納得できない。
だが、たった数日(6日)で堤防ができるなど聞いたことがない。
十年前の日本人が『中国が1日で10階建てビルを建てた』などと言われても信じられなかったように、そんなスピード工事信じろというのが無理な話だ。
矢も盾もたまらず、晴信は馬に乗った。
そして
「義父上(三条夫人の父)よりいただいた種!あれを試しに植えておけ!!!」
と叫ぶ。
そこには『嫌がらせか罠だろう』と三条夫人の父より送られてきたのに放置されていた西洋葡萄と蕎麦の種それにサツマイモとジャガイモ、その育て方が丁寧に書かれた本が置かれていた。
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たまには別サイドの見方も載せようかなと思って書きました。
三国志演義の氷による一夜城とか、1587年の秀吉による一日城(こちらはガチ一日)とか、北条攻めで秀吉が即席で作った付け城とか、できるわけないと油断していた事を実際にされた大名って世界がひっくり返るくらい驚くんじゃないかなと思います。
というか、敵にこれやられたら士気を回復させて戦いに挑ませるの、無理とは言いませんが非常にやりたくないです。
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