第174話 仕事は数と自動化だよ兄貴

 最近、新しく読んでくださる方が多く、感想を読んで『これってどんな話だっけ?』と読み返して、「そういえば一万田、対馬に送ったままだったな」とか「入田は今度、喜望峰まで送ってみるか」などと懐かしくなりました。

 50話の辺りでは5万pvだった本作がここまで続いたのは、長く応援してくださった皆様のおかげです。

 誠にありがとうございます。


 あと、竜骨車のアイデアや、風車の実態、新潟の地理を教えてくださった方。

 ありがとうございます。


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 人間ゲンキンなもので、今まで思いつかなかった解決法が見つかると急に協力的になった。


 まず、堤防に使う石材を持っていってよいという領主が出てきた。

 実現するとは思わなかった堤防が完成すれば来年の作付けには間に合う。

 早めに完成をして欲しいのだろう。


 次に食料支援の礼にと手の空いた農民を貸し出す領主もいた。

 まあ、これは堤防作成技術を覚えさせて自分の土地に応用しようと言う打算もあるのだろう。

 とても分かりやすいけど、手伝ってくれた方が作業は早く進むのでありがたく受け取ることにする。

「まあ、この堤防工事自体が加賀と豊後の人間の練習だからな」

 土木建築工事というのは実際にやってみないとわからない事が多い。

 石の積み方、川水を避けて土をかぶせる技術。どれをとっても初心者には失敗する要素が満載である。

 というか地盤の様子だって、聞いた話と全然違うなんてよくある話だ。

『天才柳原教授の生活』を書いた漫画家の方が和風建築を建てる際に、天井を『杉板を交差させて編み込む』網代天井という形式にしたら、30年ぶりの工事だったので、勉強のために近隣の大工さんが手弁当で手伝いに来てその技術を学んだという話があった。

 経験者が技術を継承しないと、1からやり直し。

 または消滅する技術というのはたくさんある。

 大分の浜の市で売られていた一文人形とか志木志餅とか結構危ないし、原発もそうである。

 それを考えると、技術者を使い潰したり一般兵として戦場に放り出す責任者は多大な損失を出している無能といえるだろう。

 ロ○アだけじゃない。日本のブラック建設業界it業界もそうだし、技術を教えない派遣業界も同罪だ。

「一地方の土産品と最新技術を同列に語るのはどうかと思いますよ」

 という声が聞こえたが、原発の方が後継者には恵まれているじゃん。

 こっちは最後の一店舗が消えたら消滅するんだぞ。というか一文人形はした。儲からないし。(今は大分市が体験教室で教えています)


 などと雑談を交わしていると。

「たしかに、このような大工事。必要にかられなければ、なかなかやるものではないですな」

 と、将来二条城とか安土城などの大型普請を行う信長君がいう。

「ああ、越後と加賀の仲を良くするというのもあるが、こうして技術を得ておけば、仮に加賀国が解体されても、住人は技術者集団としてどこかの国に召し抱えられるだろう。」

 加賀の一向一揆が終わったあと、住人がどのような扱いを受けたのか、他国の歴史に疎い俺は知らない。

 ただ、あまり愉快な物でないであろう事は、バテレン追放礼で秀吉が一向衆を目の敵にしていたことを考えていると推測に難くない。

 だが、治水技術や、石積技術など統治者がのどから手が出るほど欲しい技術を覚えていたらどうだろうか?

「五郎様から急に越後を援助してくれと言われた時は何故と思いましたが、ここで経験を積めば加賀に戻ってからも彼らは活躍できそうです」

 その技術を持って各地で活躍すれば、一向衆は悲惨な末路は辿らない………と思う。所詮は他国の大名の願望にすぎないが、それでもなんとかなってほしい。


 などと感傷にひたっていると

「おお!これはすごいものですな!」

 と秀吉がやってきた。

「おお、ハゲネズミ!!!どうだ?そちらの進捗は!!!」

「はっ!三郎様!杭は半間(1m)間隔での打ち込みは終了しました!石を積みの方は、まずは10町(1km)ほど、上流から仕上げております!」

 と、元気に報告する。

 木材は杭に加工して筏にしてから川を下ってきたという。

 その際に山から切り出した土石を積んで、河口から次々と落としたため、1km程は堤防の下地は出来上がったという。


 無駄がない良い工程だ。そしてそれを初工事でみんなに実行を徹底させる力がすごい。


「よし、堤防がある程度できあがれば土俵や石俵を使って基礎を固めよ」

「ははっ!」

 ベッキーもそうだが、名指揮官は名監督の下地がある。信長君も秀吉も段取り良く工事を進めており、いずれ俺は追い抜かされるだろう。


「ところで、またけったいな物をお作りになられましたな」


 井戸ポンプを動かす人間たちをみて秀吉が忌憚のない感想を言う。

「まあ、釣瓶で汲み上げるよりはこちらの方が楽だからな」

「なるほど、しかしいくら汲み上げても、これではきりがありませぬな」

 十個ほど稼働したポンプは桶で汲み上げるよりは効率が良いが、それでも池の水を抜くには力不足である。

 電動式ポンプは壊れたらそこで終了なので無理だろう。

「ああ、だから、堤防が完成したら一部の川水をこちらに回して水車で動かそうと思っておる」

 水車の回転エネルギーを上下運動に変換するスライダ・クランク機構というやつを見せる。

 今の排水も、どれだけの水量でどの大きさの水車を動かせばポンプが動くか実験しているのである。

「ほほう、つまり豊後守様は私が成功すると信じてくださっているということですか」

 堤防の完成が前提の装置を見て、調子にのったように秀吉がいう。

「こら!!!!ハゲネズミ!!!!」

「あ?お主ならそれくらいできるだろう?」

 たしなめる信長君を気にせず、あっさりと言う。

「指の多い人間は、頭への刺激が多いゆえか頭が良いのが多いという。それに、その顔立ちと指揮の腕前をみれば完成させることくらい誰でもわかる」

 お世辞ではなく、後の普請能力を知っている俺はさらっと答える。

 その言葉にはさすがの三郎君でも『何言ってんだこいつ?』という顔をする。

 そして、まだまだ無名な秀吉はそこまで誉められた事がないようで、一瞬間の抜けた顔をした後、感激したように「ありがとうございます」と頭を下げる。


 まあ、それも計算ずくの演技かもしれないが、こいつは敵に回さない方が良いだろうし、後の功罪はあるものの平民から武器を取り上げ、外国の軍事的驚異を排除した、という点は評価できる。


 俺ごときでは手綱を握る事はできないが、せめて友好的にはふるまっておこうとしても問題はないはずだ。


 信長君は良くも悪くも育ちが良いので恩を恩と受け取るが、秀吉のほうはどうもよく分からない。

 世の中には恩を受けると、それを負い目に感じたりコンプレックスから敵視するあつがいる。

 石川啄木の「一度でも 我に頭を 下げさせし 人みな死ねと いのりてしこと」

というメンタルの管理者には随分と会ってきた。

こいつもその類ではないかと俺の中のゴーストが危険信号を出しているのだ。

一抹の不安と、でもこいつ殺すと天下を押し付けるたり刀狩りや領主解体の汚れ仕事を押し付けるられる人間がいないしなぁ。

と、かなり先の未来を憂えて苦悩するのであった。


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 昔コンビニコミックであった悪役な秀吉イメージが印象強いので、太閤立志伝5の秀吉とどちらのイメージにするか葛藤中です。

ノッブもたいがいですが秀吉は畜生塚などの悪行があるので…

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