第177話 鬼さんが一晩でやってくれました。
全国各地に広がる鬼が一晩で作った石階段伝説。今回はその謎に迫ります。
嘘です。
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河川工事をして分かったことがある。
都市部というか人の多い住宅地の河口に砂浜は百害あって一理なしである。
なぜ唐突にそういったかと言うと、別府が昔、砂湯が各地で出来たのに今では上人が浜以外砂浜が残っておらず、北浜と餅が浜の人口砂浜を残してすべてコンクリートで固められて居るからである。
何で観光名所を潰して味気のないコンクリートにするかなぁ。と昭和初期の写真を見て思ったものだが
砂浜の砂は海の波と川水に挟まれて堆積し、福良という自然の堤防を作る。
その堤防のせいで川水の逃げ場がなくなると陸地に水が溢れ、米もとれない、人も住めない干潟の出来上がりとなる。
というわけで以前、大在地区の干潟を改修しようとしたときは
「ダメっすね。試しに川を通してみたけど、すぐに海砂で埋まっちまいます」
「壁が砂でもろいから、掘った先から壁が崩れて川の流れが勝手に変わります」
などと失敗報告が何度も来たものである。
おのれ、人類の敵め。(漁村と観光地をのぞく)
ごめんなさい。歴代の別府の市長さん。
風情では人は生きていけません。あなたたちのやってきた自然破壊は住民が生きるために必要なものでした。
由布市の湯の平温泉も川の護岸は昔の風情ある割栗石(まるっこい20cmくらいの石)を固めたものだったが、洪水で流された土砂がぶつかって石がえぐれ落ち堤防が崩れてしまっていた事も考えると、田舎の風景も安全のために変えるべきは変えないといけないと思ったものである。
というわけで、この越後でも最終的に河口から500m付近の砂浜は全て消滅させる予定である。
だが…
「まいったな。こりゃ」
重い石は一度動かせば簡単には動かない。
土くれや石も踏み固めれば止められる。
だが、砂のような軽くてサラサラしたものは簡単に留めることが出来ない。
水ほどではないが砂と言うのはやっかいな存在である。
「どないするかな。これ」
「三郎殿」
「は!なんでしょうか!五郎殿!」
信長君が体育会系の後輩のようなノリで返事をする。
優秀すぎる後輩から尊敬の目で見られるって結構なプレッシャーだなぁ。
「えーとね。とりあえずコの字型のコンクリートブロックを50個。幅6尺(2m)くらいで端に丸いワッカをつけて作っておいてくれる?」
「はあ。それは宜しいですが…砂は海砂を使ってもよいのですか?」
心配そうに信長君が言う。
お、すごく勉強しているな。
コンクリートは乾燥して固まるのではなく水和反応という化学反応で固まる。
そしてアルカリ性物質であるセメントが、そのアルカリ性を保っているとコンクリートは本来の強度を保つのである。
しかし塩分を含んだコンクリートは水酸化ナトリウム(NaCl)と反応し、中性化してしまう。
この中性化したコンクリートは脆く、さらには鉄筋コンクリートの鉄筋まで錆びるという最悪なおまけまでつく。
日本では昭和4~50年代には川砂が不足して、海の砂を平気で使っていた時期があった。
そのため、1996年から98年にかけて山陽新幹線の路線各地で高架橋の床板コンクリートが次々にはがれ落ちる事故が起き、国土交通省では、「コンクリート中の塩分総量規制(昭和61年6月)」「普通ポルトランドセメントの塩素量(平成2年2月)」の通達を行い、塩害によるコンクリート構造物の早期劣化を規制した。
ttps://www.mlit.go.jp/kisha/kisha02/13/131015/131015.pdf
なので、塩分を含んだ砂は使えないのだが、その砂のせいで運河が塞がっているので、減らす為にも使ってもらうことにしよう。
「うどん麺の湯切りみたいな道具を使って、川水で3度洗ってから使ってくれ」
幸い、塩分を含まない川水が近くにあるのだ。
洗った水は釜場に流して塩でも取ればよい。
「とりあえず一週間くらいかけて、海岸沿いにさっき言ったコンクリを作っておいてくれ」
「その間に五郎さまはいかがなさるおつもりで?」
「内緒の秘策がある」
「デアルカ…いえ、失礼いたしました。秘策でございますか?」
「ああ、こればかりは越後の…長尾景虎さんにも言えない見せられない秘策だ」
「それは、吾輩が見てもよいものでしょうか?」
「ん?良いに決まってるじゃないか?」
それくらいの技術アドバンテージ与えとかないと、俺の『楽して九州併合してもらって楽隠居するよ計画』が遅くなる。
そんな事を考えて発言したら、何故か感激したようで
「景虎どのには上手くごまかしておきます!!!」
と言われた。
さすが、細やかな気遣いができる男。
大船に乗った気分で俺は作業を任せ豊後に帰った。
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そして一週間後
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夜中に停泊した船。
赤々と燃える松明に映るそれを見て、信長くんと秀吉君はその巨大な船、というか『動く城』とでもよびたくなるようなデカさと奇怪な形にびっくりしていた。
「なんじゃ…これは………」
それは、いかだのような四角い形に、巨大な大木がごときみんな大好きクレーンが搭載されていたからだ。
日本は鉄が少ない。
それは第二次世界大戦後に屑鉄が結構な値段で売れていた事からもわかる。
こんど1556年に反乱予定の小原宗維さんが反乱を起こしたら、オーストラリア送りにしてコークスと鉄鉱石を採取させようか?と考えるほどには鉄がない。
「というわけで、年間に一隻作っていた船。その3弾目を引っ張ってきたぞー!」
長さ35.0m 幅 15.0m 深さ 3m。
甲板面積は15.0m×10.0m=150.0㎡ 積載荷重 800t
クレーン能力;定格荷重×作業半径 70t×4.0m
「これを、春日丸
「秘蔵の楯を奪ってから異世界に飛んで神となりそうな名前と言うか、暴走族みたいなので止めてください」
なんでやねん恰好良いじゃないか。真悪参。
ネーミングに関してはとりあえず置いといて、複数の動滑車を利用したクレーンを動かす。
さすが自由な海。地上だと移動すら一苦労の重機が楽々動く。
「戦国の地面じゃクレーン車は動かせないけど、船なら自由に扱えるからな!」
「門司海峡を監視してた兵士たちが、みんな『みなかった事』にしてましたけどね」
あまりにも奇怪な風貌の巨大船とか見たら上司に報告しても信じてもらえないだろうし、黙っとく方が出世にも響かないだろう。
「まあ、いいや。とりあえず、さねえもんクレーンの引っ掛けと誘導を頼む」
「はいはい。了解しました」
そう言って、用意されたコンクリの鉄輪にフックをひっかけ持ち上げる。
「動いた…」
10t程度の重りなら軽々と持ち上げられる大型クレーン。
20人がかりでもびくともしない石塊をひょいひょいと持ち上げては砂浜に堤防のように突き刺さっていく。
5分で一つ(安全性を第一に考えて作業しております)50個で250分=約4時間。
いやあ。無理な工程を要求する施主がいない工事って楽だし楽しいなぁ。
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作業は一晩で終わり、越後の人には誰も見られず夜間中にクレーンを解体し、筏みたいな船に変更できた。
「昨日の晩に一体何が…」
昨日まで砂浜だった場所がコンクリの堤防で覆われたのを見て、越後の侍さんたちが腰を抜かして言った。
「鬼か天狗か…、鬼神の類が来られたのか…」
もしかしたら、全国各地に広がる鬼が一晩で作った石階段伝説というのは、滑車の技術を秘匿するため、夜間に突貫で行われた作業を鬼の仕業にしたのかもしれないな。
「これがあれば、わしのやった堤防作業3日で終わったんじゃ…」
そんな恨み言が聞こえた気もするが、とりあえず越後の護岸工事はとりあえず目途がついた。
この経験は豊後と加賀の発展に活かせるかもしれない(ウ●娘風)
「この力があれば、天下…いや三界だって手中にできるやもしれぬ」
ぶっそうな事を言い出す第六天魔王に頼もしさを感じつつ、次の春日丸
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一晩で作られた石階段って工期がクソな割に壊れたとか崩落したという話を聞かないので、下準備がしっかりしてたんじゃないかなと思いますが、意外と便利な道具を秘匿するための方便だったのかもしれないなと思いました。
次回は、武田が嫌がらせに放った忍者との
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