第156話 戦国時代民衆が本当に必要だったもの

テロや暴力に屈せず、ごく淡々と日常を続けて行きます。


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「城下町を作ることで一番大事なことは何だと思う?」

「敵が攻めてきた時の備え、平時と戦時の水の確保、区画の整備、用途地域(区画の役割)の振り分け…あたりですかね」

 さねえもんが言う。


「………そのとおりだ」


「…………何『やべ、それ気がつかなかった』みたいな顔をしているんですか?」

 と、白い目で見られる。

 建築って行政の決めた場所に家を建てるから、団地の造成とかでもしないとそこまで考えが及ばないんだよ…。

 えーと、たしか工業地帯は『工場でも建てられる地域で、住宅やお店は建てられるが、学校・病院・ホテルなどは建てられない』…だったけか?(うろおぼえ)

「で、第1種 低層 住居専用地域が小規模なお店や事務所をかねた住宅や、小中学校などが建てられて、2種になると小中学校などのほか、150㎡までの一定のお店などが建てられるんだっけ?」

 なんとなく思い出して来た。


 とりあえず、拠点となる場所には櫓と、コンクリ補強した詰め所兼、射撃場を塀から少し離して建てて、防壁にすることとした。

 用途地域だと唯一『住宅を一切立てられない』工業専用地域と同じく防衛用専用地域と言ったところか。


 水に関しては現在の防火用水用のため池と、下の川からアルキメディアンスクリューか、ポンプでくみ上げる形式を併用しよう。

 と、ありあわせの知識と将来の団地の姿を思い出し、高尾山公園と大分ドーム辺りを本丸に、トキハアクロス(大分のローカルデパート)辺りに二の丸でもおく事で街並みを整えていく。


「で、本当は何をいいたかったんですか?」


 有る程度城下町の区画を決めた後、さねえもんが尋ねて来たので待ってましたとばかりに用意していた答えを言う。


「消防法の制定だ」


「消防法?」

 火事と喧嘩は江戸の華という言葉がある。

 江戸の町のあまりの火事の多さに住民がやけくそ気味に張った見栄であるとどこかで聞いたことがある。

 電気のないこの時代、明かりは火。炊事も火。風呂を沸かすのも火。

 火事になる要素満載である。

 これにタバコまで輸入されて、仏壇に蝋燭使ったりすると危険がいっぱいのお部屋の完成だ。これで火事にならない方がおかしい。

 おまけに石膏ボードも耐火壁もないのに10軒ほどの家が繋がっているのだから、一度火が付けばボンバーマンもビックリの誘瀑っぷりで、火事の連鎖が起こる。

 これを消火する方法は、『周りの燃えそうな建物を破壊して延焼を防ぐ』という方法のみ。


 戦争などやれば、取り敢えず町を焼くのが有効な手段となるのも分かろうものである。


「というわけで、家と家の境界は最低でも50cm…ええとだいたい2尺(60cm)くらい離すように家は建てるように定めよう」

 本当なら3mは離しておきたいがそうなるとスカスカになりすぎて土地が勿体ない。

 長屋も、10軒つなぎだと引火して飛び火を大発生させるので最低でも2軒。

 昭和時代の公共住宅形式とする。

 そう提案すると

「民衆ごときにそのような、贅沢な土地の使い方は聞いた事も御座いませぬ」

 と、反対をする者がいたが

「火事をなめるんじゃねェッッッ!!!」

 つい声をあらげてしまった。

 だが、生まれ育った町で立て続けに2度火事があって、一瞬で家財が灰となる光景見た人間としては、油断はしたくない。

「現場監督として家を建ててる間、誰か放火しないか?職人さんがたばこを投げ捨てて火事が起きないか?雷が落ちて家が燃えないか?考えた事はあるか?今までの苦労が一瞬で消えるような苦労をした事もない素人が口を出すんじゃねぇ!テヤンデバーロチキショウ!!」

 と、何故かべらんめえ調になってしまった。

 だが、火事にならないか毎日心配していた身としては、ここはゆずれない所である。

「そこまで精神追い詰められてたなら、一度心療内科行った方がよいですよ」

 と、心配そうに言われたが、とっくに受診済みで、こちらに来るまで精神安定剤無しでは眠れない状態だったよ。(※本作はフィクションですが、ここは少しだけノンフィクションです)


 あのような地獄は味わいたくないので、防火にはマジで気合いを入れて設定をしよう。

「まず、壁には2cmほどモルタル(セメント粉と砂を水で塗り固めたもの。不燃)を塗るか、できればサイディング(外壁材。一般的にセメント製や金属製のものを指す。)を設置する事を義務づける。」

 と、ルールを書く。

「もしもそれに従わない場合、どうなるんですか?」


「欠陥住宅として強制的に外壁を作るか、家主を町から追放だな」

「極端すぎませぬか?」

 

「耐火製の壁を使うと火矢とか放火の被害を軽減できる。長期的にみれば得なのだ」

 それに、耐火壁は内部からの火事でも効果がある。

 中で家財が燃えても、外壁は燃えないため、煙突のように火は屋根だけを崩壊させる。実際に燃えた家は全焼でも、周りの建物はほとんど無事だった。

「さすがにカーポートとか屋根の樋は溶けて変形してたし、煙の煤がついてたけど、互いに耐火壁がしっかりしていると引火はしなかったし、一軒だけで消し止められたんだ」

 逆に江戸で大火が起こるのは、住宅が密集しており、外壁も木が向きだしのため外からの飛び火を防げないのが原因であったと思われる。


 なお木の家に住みたい。ということで外壁を木の板で作っている家があったが、あれは個人的におすすめしない。

 日焼けで色が変わったり、北側は湿気でカビが生えるし、最悪キクイ虫とかシロアリの巣になるからだ。実際に大工の事務所兼住居が全面木造の家だが、ペンキも塗ってなかったため、木が痛んで『この工務店大丈夫か?』という惨状になってしまっていた。

 これで火事にでもなれば回りに炎を噴き出して延焼を起こしかねないだろう。

「と、いうわけで住居地域はモルタルかサイディングの壁を義務付けます」


 なおモルタルは塗った後に乾くまで時間がかかるし、昭和中期の建物だと砂粒ででこぼこな場所に埃がたまったりカビが生えるのをよく見るし、ひび割れも起こるので、個人的にはおすすめしない。

 少し技術が必要になるが、サイディングの方が雨で埃を洗い流してくれるし、掃除も楽で手入れがしやすいと個人的には思う。

 まあ、運搬中に割れる可能性があるという弱点はあるし、コーキング(防水の穴埋め材)が10年ごとに塗りなおした方が良いと言う欠点はあるが…。

 そんな話を家臣たちはきょとんとした顔で聞いていた。

 コンクリの建物は見せた事があるが、モルタルやサイディングはまだだったか。

 うん。これは現物を見せた方が早いな。

 というわけで、実権的にモデルハウスを建てる事にした。


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 工事現場がいたずらでダメになるって本当に悪夢以外の何者でもなく、そのプレッシャーに耐えられない人は現場監督って辞めた方が良いと個人的に思います。

 あと、うっかりの忘れものが多い人も。

 養生を忘れて、朝に雨で室内にカビが生えないか?とか、床板付けたのに基礎がプールみたいにならないか心配する羽目になります。

 書いてて地獄を思い出したので、今日はこの辺で…。


 みなさん火事にはお気を付け下さい。

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