第155話 つくってみよう。豊後運河
「高台だと船からの輸送が困るな」
臼杵城は城の規模が小さいので、城下町で荷降ろしを行う形でもそこまで不便はなかった。城と言ってもいざという際の避難所みたいな場所である。
だが、台地に築こうとしているのは城下町を内包した都市である。
そうなると船が近寄れないのはネックとなる。
「だったら、運河を作ればいいんじゃないですか?」
さねえもんが平然と言う。
なんでも、現在湿地帯の平地を開削し、水深12mくらいの穴を2つ掘り、両脇をセメントで固める。
そして、上からは大型の滑車を使い、荷物を船から直接持ちあげるようにするのだという。
「東側の運河が入口、西側は出口とドライブスルー形式にすれば、渋滞や事故も起こりにくいと思います」
と言いだした。
「ついでに、野放図に流れている大分川と大野川の流れを整備して、台地の周辺を取り囲むようにし、運河に流しこめるように連結すれば水堀にもなりますし、高城から府内・鶴崎を繋ぐ水運も確保できませんか?」
と、現在の大分市の町づくりを根底から変更するような案を出して来た。
「そんなに大きな川を2つも4つも作ったら、住民の徒歩移動が大変じゃないか?」
「いまでも湿地帯で大変で、殆どの人は小舟で移動してますよ?」
と言われた。
良く考えたら、裏川という名前の川があるが、上流と下流に橋があるだけで、現代でも凄い交通渋滞を起こしてるし、特に問題はないか。ダメな方向で。
むしろさねえもんに言わせれば、河川整備する事で水が効率よく配流できるので干拓工事には良いのだと言う。
「実際、高城駅や護国神社の前は昭和13年12月に呉鎮守府所属の大分航空隊が置かれて大分航空基地ってのがあった位には人が住んでなかったですからね」
え?なにそれ?
「中津留(大分市街地大分川対岸。舞鶴高校~旧芸術会館辺り)は空軍基地があって、国東に移転する前は、あそこに飛行場があったそうなんですよ」
そういって、地図を書きだすさねえもん。
初めて見たぞ。こんな滑走路。
「軍関係の時は機密だから書けないし、空港だった時期は1957~71年の14年しかなかったですからねぇ。今の若い人は知らなくて当然と言えば当然ですよ」
だったら君はいくつだ?
そう突っ込みたかったが話が進まないので、計画を聞く。
つまり護国神社から海までの1km程の陸地は人が住むには不向きだったので今は自由に使えるらしい。
そこで滑走路の代わりに運河を作ろうと言うのだ。
「河水は運河に沿って流して放流しますが、干潮時には水を運河に入れて水量を安定させましょう」
逆に海から敵が攻めて来た場合は、水を止めて船からの侵攻を止めるようにしたいらしい。
洪水が起こるほどの水流が来た時は大分川と大野川の氾濫を防ぐ支流として使えるだろう。
「そうなれば干拓地は農耕可能になりますし、河口付近は商業地にしてサブの城下町としても機能しますよ」
城郭外にも第二の商業地を作るわけか。
なお中間点の高台となっている護国神社のあたりは住民の一時的な避難場所として、解放する事にする。
あと、小さな船なら荷物ごと滑車で持ちあげられるようにすれば荷降ろしも楽かもしれないな。
台風で吹き飛んだり落ちる心配はあるが、利便性と安全の兼ね合いを見てみよう。
「そうなると、干拓地の埋め立てに使う土をどうするかじゃな」
周囲の山を壊して埋め立てるのが良いのだが、
「………」
吉岡長増さんがじっとこちらをみている。
「あー、じい様の城は城郭の一部として最優先で守りを固めよう」
「ありがたき幸せに存じます」
実はこの岡の東端には、地続きで吉岡のじいさまの城、千歳城があったりする。
岡自体はそこまで高くないが、鶴崎を見渡せる重要な土地で、壊す予定はないが城造りの為に領地替えで奪われるのでは?と思われても仕方が無いほどの重要地である。
なお、宗麟の息子、義統さんは秀吉の配下となったあと、武家屋敷を府内から鶴崎の近く、家島に移転させようと計画していた。
土地は埋め立てで作れるし、府内よりも大阪に近い。
大野川を使えば木材の運搬もできるし、鶴崎高田には鍛冶もいて、商業的発展の下地もある。
内政センスの良さが伺える計画だった。
結局、高麗出兵のせいで計画を実行に移す前に戦闘に参加し、改易されてしまったのだが…。
本当に義統さんは、戦闘では難があるが内政に関しては卓抜した能力を持っていたと思う。
なんで猿は高麗出兵に駆り出したのだろうか?
「しかし、困ったな」
他にも出された計画を見て考える。
「これでは完成までに何十年とかかりそうだ」
最終的にはこの城下町、東京ドーム300個分くらいの大規模な広さになるんじゃなかろうか?
「これ、どう考えても江戸城レベルの城になるんだけど、大分に作って維持できるんかな?」
城を作ったために民が疲弊して滅亡したとかなったら洒落にならないぞ。
「そうならないためにも、馬車馬のように働いて、自転車操業で頑張れば大丈夫ですよ」
ひとつも大丈夫でない事をさねえもんは言って、励まして来た。
だれか、代わってくれ…。
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「護国神社の前あたりから、滑走路が延びて、飛行機がギューンと飛んでた」と現場監督時代に教えてもらった事が有りましたが、今回実際に調べると軍事基地ゆえに国土地理院の地図にも記録がなく、詳細が不明でしたが、下記のページに詳しく纏めてくださってました。
ttp://navgunschl2.sakura.ne.jp/bangai/IJN_Nav_Base/048A-Oita.html
風化して行く歴史を記録して頂いた事に感謝します。
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