第140話 三国志に聞け(戦国時代の話です

何か思いついたので、予約投稿機能を使って投稿してみます。(25日9時)と 思いましたが、やっぱり待てねぇ ゼロだ!の気分で公開します


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「なるほど。つまり人間には基本的人権というものがあると皆へ認識させるのが必要なのですナ」

「一票の重さは同様で、地区ごとの誤差が少ないようにする必要があると。ですが、地域によっては思想的な偏りがあり支持政党の勝利が確実になる場所もでるでしょう。その問題はどうするべきでしょうか?」

 せっかく|遠路から(災厄の種をばらまきに)来てくれたので小選挙区制と比例代表制の概要を説明すると、2人の反社はスポンジのような速度で知識を吸い上げ質問してきた。

「その多数の権利だけが通らないようにするために政党を作る必要があるでしょう。それ以上に効果的なのは、地方の利益を超越した全体の利益を訴えることでしょうが、人が人である以上、どうしても欲が入るのは受け入れなければなりません。それが民主主義という考えの一部分です」

 とさねえもんが答える。

 Tという政治家は、新幹線街道高速道路海運をたくさん作った。これにより本人と関係が有る建設業は潤ったが、地方と都会との流通が盛んになり、全体の利益にもなったと思う。

 ところが、その弟子は金だけ地元に引っ張った。味方を当選させることに長けてはいたが「では、民衆の為になる事は何をした?」となるとパッと出てこない。

 そんな政治屋を生みださない様に、国を発展させる視点を投票者は持つ必要があると説明する。

「なるほど。『派閥争いよりも国としての視点を持ったものが指導者として正しい』と民衆が考えられなければどんどん腐っていくのが選挙と言う制度なのですナ」

「だから、少数の意見も反映できるように政党と比例代表制を作る事で不備を補う訳ですか」

 ……実際に民衆政治みたいな事やってる人は飲み込みが早いなぁ(遠い目


 うん。思い返すと、選挙制度が普及したら、数として少数派の武士は議席がとれなくて死ぬね。

 ソ連とか中華民国も、何故一回目の選挙で軍部政党が敗北して「やっぱなしで」と言いだすのか分かった気がする。

 軍事政治を動かす側は少数派であり、理想だけを語るわけにもいかないからだ。

 そりゃ実績0の理想を語る民衆の味方に負けるわけである。

 まあ、そうならないよう民衆の最低限の生活は保障して支持率あげないとならないだろうから、それはそれで良いのか。

「まあ、政府が民衆の為に活動してたとしても、マスコミがデマとかプロバガンダ流したら正確に伝わるとは限りませんけどね…」

 とさねえもんが言う。

 それは大丈夫だろう。この時代のマスゴミは俺達が運営してるのだから。


 ・・・・・・・・・・・・・


 とりあえず、一日目の説明を終えたあと宗麟とさねえもんと無月は集まって言った。


「「どうしましょうか。これ」」

「どうするかな。あれ(他人事)」


 宗麟は頭を抱えた。

 この時代、武士は支配者として農民を統率している。


 だが、実際のところ応仁の乱で足軽という名目で農民とか平民が戦いに参加したことで時代は総力戦に変わっている。

 農民の助けなしで戦闘はできないし、離散などされたら食料生産もままならない。

 推測だが加賀で一揆が成功したのも領民に戦闘経験が有るからではないだろうか?

 おまけに火縄銃があれば武士も平民も違いはなくなる。


 武士ヤクザ武士暴力団として面目を保てるのは戦闘があるからだ。


 軍事政権から民主主義に変わるきっかけなんて『実際は少ない人数の軍人に、なんで多数派のおれたちが従わないといけないねん』が基本である。

「もしも戦国日本で農民が革命に目覚めたら、数の上で武士は確実に負けるだろうな」

 そうなると、戦争のプロと銃を撃てる一般人が内戦で殺しあうルワンダのような地獄が待ち受けていることになるのだろう。

 どうしてこうなった。

『戦国文化を破壊したいと思ったけど、身分制度の破壊までは考えてなかった』

 そんな言葉が頭をよぎる。

 宗麟が目指したのは、豊富な食料や温かい布団。平和を愛する武士と言うほんわか平和な文化を見せる事による戦国文化の消滅だった。

 決して血で血を洗い、滝のような流血に飛びこむフランス革命のような殺伐さや連合赤軍のような軍民男女等しく戦闘に参加する地獄世界では無い。


「幸せの国と呼ばれたブータンが、ネットの普及で他の国を知ってから幸福度ランキングが落ちたって話もありましたねぇ」

 知る不幸と言う奴である。

『支配されているのが当たり前』という連中に「実は武士も農民も同じ人間で、君たちは不当に搾取されているんだよ」などと教えたら国中がひっくり返るに違いない。

 まあ戦闘経験や各地での連携作業に乏しい民衆による反乱は、おそらく失敗するだろうけど責任者が全国の武士から恨まれるのは間違いないだろう。

 その責任者とは大友家なのだが…。


「いかが致しますか?あの二人、消しますか?」

 と、屋根裏で警備に当たっていた甲賀忍者の一人が尋ねる。

 彼らは一応武士によって領地が保証されているので、こちら側の人間である。

「それはちょっとしたくないなぁ…」

 せっかくの申し出だが断る。

 確かに、歴史的に民主制度はかなり後の話である。

 ここで無理に進める必要はない。

 だが、結局として世の中は国民一人一人が動かすものだし、生産者であり構成員でもある国民によって国が動かされるという流れはかわらないだろう。


「だいたい「殺す」って選択肢を持つのは人間としてよくないと思う」

「「「あなた武士の頭領ですよね?」」」


 忍者からも突っ込まれた。

 でも、人間として持ちたくないんだよ。邪魔ものは殺せと言う考えは。と宗麟は思った。

 身分とか支配構造を維持したまま平民の権利も認める。そんなことできるのだろか?

 いや、できねぇよ。

 なんだろう、この答えのない意地悪クイズは。

 こんなの解決できる人間いるわけない。

 たぶん軍師 竹中半兵衛も黒田官兵衛も解決できないと思う。

 かといってこの時代の武士も民衆も、明治維新みたいなことやって流血起こすほどのまとまりも、教育もされてないのである。

 この時代だと民主制をつくったフランスでもまだまだ流れた血が足りてない。

 民主化制度というのは、成功したモデルなしに進められるような問題ではないのである。


 そこまで悩んだとき、無月さんが顔をあげた。

「要は、殿は身分と言う制度の境界をあいまいにしたいのですよね?」

 武士だけが支配するという制度を崩壊させれば戦国と言う時代は消える可能性が高い。なので

「まあ、突き詰めればそうだな」

 と答えた。

 すると、我が意を得たりといった表情で無月は

「よく考えたら一つ、いえ一人だけいましたよ。成功したお方が」

 と言った。


 ・・・・・・・・・・・


「はいはい『魏武三国志』はこちらだよー」

 十数日後、豊後では三国志の悪役 曹操猛徳を主役とした三国志の別話が発行された。

 そこには正史三国志をもとに三国志演義との違いを解説しながら、孫子を編纂したり、酒の製法改良を行った超世の傑、曹操の偉業を書いた話が書かれていた。

 良く知られた物語を史実で殴る。これは日本人の知識欲を満たすだろう。

 天才である彼が考案した制度は中国だけでなく日本にも影響を与えたと語ることで知識人も興味を持てる内容となったと自負している。

「まあ、内容は後期の●天航路を参考にしてますけどね」

 と、三国志もいけるさねえもんが言った。 


 その中で、一番注力したのはこの言葉である。


 ただ才のみ挙げよ(唯才是挙)


 曹操が発布した求賢令において記されている言葉である。

 彼は人材マニアであり、身分よりも才能を愛した。

 そのため登用制度も変更し平民でも政府の一員となれるようにした。

 この「才さえあれば道徳なぞ不問である」という考えは、当時の支配的価値観であった儒教の教えに真っ向から対立するものだった。

 後に家柄や身分に関係なく誰でも受験できる公平な試験とした『科挙』の元にもなるこの制度。これを推してみたのである。

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