第136話 戦国時代のリンゴ売り

 タイトルはシンガーソングライターの谷山浩子さんの楽園のリンゴ売りのもじりです。

 お前もリンゴを食べてみないか?


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 俺は武士の棟梁ではなく、統治者として政治に注力すると言ったらみんなから怒られた。

 いじめだ。

「まあ、大手商社の社長が『しごとしたくない』とか言ったら、怒るでしょうよ」

 そうだろうか?俺だったら全力で賛同すると思うが。


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 それから3カ月ほど経過したが、布団と防寒着は飛ぶように売れた。

 この時代だと材料が足りなくて品不足になるという事態がおうおうとして起こるが、材料は化学繊維なので綿にこだわらなければ木などの繊維があればいくらでも作れる。

 資源の採掘と加工、リサイクルが出来れば21世紀に比べて人口が半分以下の時代なんて十分に賄える。農家さんと肥料の力で。


 特に掘り炬燵は大ヒット商品で、多くの農民をダメ人間へと変化させた。

「いやあ、この炬燵と言うのは極楽ですな」

 齢50を超え、手足が冷えると言っていた吉岡長増が温泉でも入っているかのような表情で言う。

「冬は毎日が寒くて嫌で御座いましたが、これなら政務もはかどります」

 と、暖かい海岸育ちで寒さに弱い臼杵兄も賛同している。(大分は北部の国東や杵築は降雪があるが大分市以南は雪がほとんど降らない)


 兄の方は史実よりも2年長生きをしているが、栄養とか休息とかを改善したお陰で健康そのものである。

 物語的には一度死にかけたほうが盛り上がるのだろうけど、ブラック企業で体を壊した身としては災厄の芽は絶対に先に摘み取っておくべきだと思う。

 他の人間も、これほどまでではないが各自自堕落な生活が身について来たようである。快適な生活が浸透しているようでなによりである。

「これ、戦隊ヒーローが怪人の仕業と思って退治に来るやつ………」

 などと失礼な事を言う奴もいたが、冬場にこたつから出て戦争に行こうなんて考える奴の方が、よっぽど人間離れしたした思考だと思うぞ。


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 これで、日本中平和になってめでたしめでたし…と言いたいところだが、冬が終われば布団の魔力は半減してしまう。

「そうなれば農作業が始まる前にいっちょ戦争でもしてみるか。と考える変人が現れてもおかしくない変人が再び生えてくると思うんだよ」

「戦国大名をそこらの雑草みたいに言うのやめてもらえます?」

 雑草と違って抜いたら終わりにならない分タチ悪いよな。あいつら。

「はあ…。で、次はどんな手段を思いついたんですか?」


「衣食住の悩みは改善できたから、次は娯楽を充実させてみようと思うんだ」


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 大河ドラマでは「戦は嫌にござりまする」という言葉を揶揄する時代が有った。

 ピクシブの『スイーツ大河』の項目では

https://dic.pixiv.net/a/%E3%82%B9%E3%82%A4%E3%83%BC%E3%83%84%E5%A4%A7%E6%B2%B3

『時代にそぐわない価値観

分かりやすいのは戦国モノ。「武将当人が『戦は嫌でございます』とか言い出す」反戦主張、「女性視点で『時代に翻弄された』事を強調」「側室の否定」といったフェミニズム的な描写などがある。』 

 という記述が書かれていた。

 ところが数年後、人物描写を丁寧に行い、小さな小領主が苦労の末に和解して『さあ、これから頑張ろう』と思ったら大国の都合で主要キャラが次々と理不尽に死亡する作品が公開されると『戦は嫌にござりまする(血涙』とか『もう少し手心を…』などの日寄った意見が視聴者の側から出てきたものである。(※個人の感想です)


「つまり、人間と言うのは人生と言うモノがどれだけ尊いものか理解しないと平気で人の死を捕えるし、悲しんだりしないものなのだと学んだのだよ」

「大河ドラマ視聴者を戦闘大好きのヒャッハー人類と断定するの止めてもらえますか?」

 にっこりと殺意を向けるさねえもん。事実じゃん!(※こいつの感想です)

「そこでだな。今度は日本人の価値観の破壊を初めてみようと思うんだ」

「と、言いますと?」


「本を出す」

「本ですか?」


「昔な、とあるTRPG(テーブルトークアールピージ)の副読本で、ある息子を殺害された王が、暗殺者を捕まえて処刑しようとしたら、そいつが死を全く恐れなかったと言う話があったんだ」

「はあ」

 唐突に話題が変わり、さねえもんが気の抜けた相槌をうつ。

「そこで、王は吟遊詩人に依頼して、暗殺者にこの世の素晴らしさ、楽しい物語、素敵な恋の話などを聞かせたらしいんだ」

「息子を殺した相手にですか?」

 なんで?という表情で問いかける。うん、俺もそう思ったよ。でも、この話を書いた人間は人の心と言うモノを良く知ってたんだろうな

「それからしばらくして王は再び暗殺者に処刑を告げた」

 すると今度は暗殺者は泣きながら処刑をしない様に王様に訴えた。自分が一度も体験した事ない素敵な世界を全く味わえないまま死ぬ事に恐怖し、他人の命を軽率に奪った事を謝罪し、もう一度やりなおさせて欲しいと絶叫した。

「その姿を見て王様は満足して暗殺者の処刑を実行させた。そんなお話だよ」

「えげつない外道ですね」

 死をも恐れない人間の心も、物語は溶かす事が出来る。

 逆に恐怖に震えるいじめられっ子に勇気を与えるのも物語の力である。

「なるほど、つまり命を大切にして平和の大事さを伝える話を流通させる事で」

「戦争は悪い事なんだ。という思想でゆっくりと洗脳して行こうというわけだ」

「そこは、教育とか教化という言葉を使いましょうよ」

 オブラートに包んでいるだけで、やってる事は同じなんだけどな。

「知識が増えると人は戦争とか争いを避けるようになるとも言いますよ?」

 目から鱗が落ちたと言うが、新しい鱗がくっついただけではないか?という説もあるのだが、これは人生観の違いだろう。

 やめよう。この話題。

「そうですね。どっちにしろ日本人が『戦争反対』って思えるようになれば良いだけの話ですしね」

 秀吉は圧倒的な暴力で逆らうものを押さえつけ、農民から刀を取り上げて平和な世界への足がかりを作った。

 だが、そんな暴力を手に入れる前に分裂してしまう豊後では頭を使うしかない。

 物語という娯楽によって世界がどう変わるのかは分からないが、他人を平気で殺せる現状よりかは多少の変化を起こした方がましだろう。

 これが平和への第一歩となるのかはわからないが、智恵の実を食べて楽園を追放されたように、この修羅の国から日本人は追放されるべきである。

 そのためなら、リンゴの100個や200個いくらでも作って見せようというものである。

「そこまでの覚悟が有るなら、やりましょう。グーテンベルクの活版印刷技術なら基本は知ってますし」

 とさねえもんも賛同してくれた。

 まあ急に変わる事はないだろうが、パワハラ天国だった昭和日本がパワハラは犯罪と変わったように世間の常識というものは結構簡単に変わる。

 その節操のなさに期待しようじゃあないか。


「ちなみに、これら本は他国から先に売りつけて、豊後は最後に発売するよ」


 もしも、他国から攻められたときにだれも戦闘に参加しなかったら困るからな。

「すがすがしいまでに外道な発言ですが、確かにその通りですね」


 というわけで、戦国風にアレンジした『かわいそうな象』とか『はだしのゲン』や『おんな城主 直虎』のような話を活版印刷で流通させることにする。

 そのために、豊後へとある人物を呼び出す事にした。 


「ああ、あの方ですか?まだアジアにいますかね?」

「多分いるんじゃないか?あちらでの布教は難しいだろうけど…」

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