第134話 最小単位の保温施設

 今度復活する名作『太閤立志伝5』では、何の大義名分も無く他国に戦闘をしかけると悪名が上がるというシステムが有り、宿屋の料金が高くなったり仕官を断られるデメリットがありました。

 だが、戦闘自体は継続できないほどのデメリットは無く、むしろ悪名がカンストすれば無敵の人になってしまうシステムでしたが、現実世界で実践する愚者がいるとは思いませんでした。

 次回のタイトルは『戦争ってダサいよね~戦国文化の破壊~』を予定していたのですが、現実の苦さに心折れそうです。戦争反対。

 寒い冬や暑い夏は、家でゲームしたりツイッターやって真面目にゴロゴロダラダラして暮らしたいものです。


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 日本の家は風通しが良すぎる。

 全ては夏場に湿気が多すぎて、密閉空間を作ると簡単にカビが生えるし、暑さで死ぬのが原因だ。

 今ではベタ基礎と呼ばれる地面をコンクリートでコーティングした地盤の上に家を建てているため土の湿気を吸って柱が腐ったり白アリが発生する事は殆どないが、昔は礎石と言う15cm角程度の石を地面に埋めて、その上に柱を載せて対策を行っていた。

「でも、それやると冬場は真剣寒いんだよなぁ」

 床下から隙間風が吹く家――日出生台(由布院のさらに山奥にある自衛隊演習所で有名な僻地)にあったじいちゃんの実家だったが――の廊下を歩いた時とか、外にいるのと余り変わらなかった。

 そんな状態で生きるためには、家で薪を燃やして暖をとるしかない。

 だが、木が育つには時間がかかる。それ故に成長する前の木を切ったり、冬本番になるとなけなしの金を使って余所から買うのである。

「つまり断熱効果の弱い家は環境にも懐にも悪い」

 現代で言うなら窓を全開にして暖房を入れているようなものだ。


 折角の熱が逃げて勿体ない事この上ない。

 

 かといって、家の下や窓を北欧風の密閉住宅形式で塞いでしまうと日本では確実にカビる。

 前に1年ほど住人がいなかった貸家をリフォームする事になったのだが、窓を閉め切っていると風通しの悪い床の間が壁一面カビていた位だ。

 エアコンのない日本家屋で窓がないことは死を意味する。

 そのため古い和風建築の床下は、土間は別として生活空間は昭和初期までに作られた神社のように50cm以上の空間が空いている。

 だがそれは冬場になると、寒さに対し防御力ゼロのノーガード家屋になることも意味する。

 そんな状態にもかかわらず、戦国時代の日本は布団や毛布などがあまり発達していない。

 さねえもんの話だと、スキー場で有名な久住の近く、朽網の地に宣教師フロイスは冬場布教に出かけたそうだが、住民は防寒具もロクな物が無く、薪にも困る有様だったと記述が有る。


 なんで彼らが凍死しなかったのか不思議だ。 


 それくらい、俺のいる戦国日本の暖房事情は悲惨だったのである。

 これはどげんかなんとかせんといけんと一応、韓国のオンドルという床暖房設備も検討してみた。

 床下を冬場だけコンクリートでコーティングした柱と土壁で固め、保温用の石を配置すれば一晩ほど暖まる。

 ただ、シロアリに柱を食われるリスクがあるので、家が傷んだ場合、責任問題のリスクが心配である。

「というか、建築関係はそこまで詳しくないんですけど、囲炉裏のある家で換気を悪くしたら死にませんか?」とさねえもんが言う。

「あー」

 そうだった。

 大量の燃料を使うオンドルは朝鮮半島の森林破壊の元凶となったという。

 さらに1960年代には人口が増加して薪が不足し、練炭とよばれる木炭などの粉を結着剤と共に練った質の悪い炭を燃料が主流となった。しかし不完全燃焼により一酸化炭素が床の隙間から室内に流入し、一酸化炭素中毒を引き起こす事故が頻発したため、現代では温水床暖房が一般的らしい。

「日本でも掘りごたつに練炭を使用して、中をのぞき込んだら死ぬ事故がありましたよね」

 普通の薪だとそこまで危険性はないが、室内で物を燃やすというのはリスクが高い。

 住宅で火を使う場合、密閉性と換気性は両立させないと命に関わるのである。

「というか火そのものが火事の原因ですし出来ることなら電気を使いたいです」

 さねえもんの実家では近所で火事があったのだが、仏間を掃除中に何らかの衝撃でろうそくが倒れた事に気がつかず、他の部屋を掃除し終わったら火の手が回っていたという事があったらしい。

 他にも昭和時代の火事はだいたいタバコの火の不始末が多かったし、ストーブや石油ファンヒーターが燃える火事も後をたたなかったという。

 建築関係者としては、火というのは使わずに済むのなら使わないのが正解だと思う。


 でも、それだと家は寒くなる。


 まさに矛盾した条件を日本家屋は抱えていたのである。


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「そんな夏は暑く、冬は寒い『日本には四季が有る』と金が取れるほど珍しい気候の日本の冬で、燃料を殆ど使わずに過ごす方法がやっとできあがったぞ」

 そう言って、完成したブツを大友四天王とか寒冷地の領主に見せる。

 暖かい布団は勿論の事。毛布、マフラー、毛糸の靴下など、日本には存在しない優秀な防寒着を見せてみる。

 冬の日本を快適に過ごす方法。 

 それは『防寒具で完全防備する』のである。


 空気をたっぷり含み外気を遮断する化学繊維製の服に、毛糸のマフラーと靴下。

 フカフカの布団に化学繊維の毛布。

 部屋がどれだけ寒くても、

 これらの装備を被って寝れば外気はほぼ遮断されるため、暖房器具なしで寝る事が可能である。実際じいちゃんの実家はそれで正月とか過ごしていた。

「だから、この異常なまでに暖かい防寒着と布団ができたんですね」

 感心したようにさねえもんが言う。

 九州でも毎年雪が積もる日出生台では、これぐらいの寝具が無いと都会人(大分市在住)は確実に風邪を引くからな。

 よその国(筑後)とかだと冬場に雪の中陣を敷いて合戦をしているとか聞くけど本当かと思ったものだ。

 冬場に外に出るだけでも拷問なのに野宿とかマジでありえない。

 どれだけ国がヤバくても、寝るときくらいは暖かく穏やかで現実の辛さを忘れられるような状態で会ってほしいものである。

 マフラーなどで動脈からの体温放出を防ぐのは当然で、綿の暖かい衣装から毛布の開発も進めている。

 平野部なら、これで暖房なしでも生活が可能になるかもしれない。

 これだけの装備の原料を生産するために3年かかったのだ。

 だが、収穫量は増えて種も十分確保できたし、これからは安定した量を作れるだろう。

 特に、この時代は布団の風習がないので、歩く寝袋とか、半纏などの奇抜なデザインの服でも、これが正式な服装だと印象付ける事が出来れば公共の場でも使えそうだった。むしろ現代日本も寒い日はそれ位の恰好で出勤したい。

 それよりも冬場の労働を禁止してほしい。寒いねん。冬。

 そんな事を考えていると、熱心に俺の発明品を見ていた四天王がマフラーを付けて感心したようにうなずく。

 おお、分かってくれたか。

「これを使えば、冬場でも動けますし在陣も楽になりましょうな」

 と、ベッキーが言う。あ、あれ?

「確かに。敵が寒さで動けぬ中、我々は夜間でも機敏に動けるでしょう」

 と臼杵弟も同意する。

「この歩ける毛布。というのは水をはじく布で覆ってしまえば野営も楽になりましょうな」

 と吉弘のアニキまで言う。

「このような優れた品を独占出来れば大友は無敵ですな」

 吉岡までも同意する。


 お前等、人の話聞いてた?


 自分から苦しい思いをして命を捨てに行くとか常識的な行動とは思えないねん。

 なんで、金を貰っても冬夏問わず戦争なんて行きたくないのに、なんでそんな罰ゲームしないといけないんだよ。

 そう、思ったがぐっとこらえて当主としての方針を伝える。


「いや、逆だ。これらの防寒着は豊後よりも他国に優先して安く売って普及させたいと思う」

「「「「はあ?」」」」

 その場に居た蛮族武士たちは、信じられないといった感じの声を上げた。


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 この話は、完全防備した筆者が布団の中でエアコンを一切使わない状態で書いてます。

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