第125話  侵略することコンビニの如し。

 守ろう。命の水。

 長い選挙編をお読みいただきありがとうございました。

 伏線は出してましたが、宮城が水道を民間会社に売り渡したという話を聞いて、素人ながら水道というか生活インフラを商売に使われることがどうなるか、実際の史実とシミュレートを加えた話をするための布石の話となります。


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 不用意な一言で大変な事態となっていたが、そこまでして豊後の治安を安定させたかったのには理由がある。

 九州の北部の侵略達成のためだ。


 いや、今までのどこに侵略要素があったねん。とツッコミたくなる人は多いだろう。

 だが、水面下で侵略は着実に進んでいた。「肥前の水道事業は順調です」

「肥後の溜め池は予定の半分が出来上がりました」

「筑後の平野部の水道工事は順調に進んでいます」

 という報告が次々と上がっているからだ。


 侵略を進める家臣たちに義鎮はこう言った。

「前年、水道を各地で整えただろう。あれが余の侵略じゃ」

「は?」

 お前は何を言ってるんだ?という顔で見る家臣たち。

 そこで義鎮は順を追って解説する事にした。

「お主たちは府内に来て、屋敷の内で水を自由に飲めるようになったのを見たであろう」

 水道が家の中にまで引き込まれているのは現在では当然だが、田舎ではいまだに家の外に出ないと水道が使えない家と言うのが存在した。

 便所も汲み取り式の為、匂いが屋敷内に籠らない様に建物と分離されて外に出ないと使えない家もあった。

 水道が整備されていない昔の日本家屋とは何度も出入りを要求されるクソ物件だったと言ってよいだろう。

 おかげで寒い冬場に何度も出入りをしないといけないのでヒートショックを起こしそうである。

「そこで余は水の特性を利用し、家に居ながらにして水を使えるように改良した」

水圧を利用した水道や蛇口の技術は見ただけでは中々分からない。

 特にコレラや赤痢が流行するようになれば、その差ははっきりするだろう。 

「あれを余の統治下である、肥後、肥前、筑後で行ったのだがな、

「なっ!豊前と筑前は他国領ではないですか!」

 金を出して他国を強化する。

 正気とは思えない戦略だ。この時代では。



「水道事業を始めてから3年。水道を使い始めてどう思う?」

「…それは」

 水道は洗濯機と合わせて女性陣に評判は良い。

「……軟弱者どもには評判が良いようですな」

 しぶしぶ便利さを認める。

 ま、こいつは男の部下には旧態然とした水汲みを『鍛錬じゃ!楽をするな!』などと言って強制し、不興をかっているそうだが。

「そうじゃ。武士でも無い忙しい農民や商人には非常に評判が良い」

 筋肉バカや他人に面倒事を押し付けられる老害以外にとっては水道と言うのは非常にありがたい存在だ。

 まず川まで歩くという無駄な作業が省略できる。

 そして4リットル近い物体を持ちかえる肉体労働がキャンセル出来る。

 仮に片道1km離れていれば毎日30分近い移動時間と肉体労働が省略できるわけだ。

「これを個人ではなく1000戸規模で見れば一年分の仕事を省略出来ていると言えるだろう」

 人間工学的に見ると大成功な施設である。

「たとえ、強い軍を持っていようが、これほどの民の生活の助けになる事にはならないだろう。水道とは民の生活の根幹に関わるのだ」

 そこまで説明すると、他門の加判衆たちは自慢話ととったのか、うんざりしたように言った。

「御屋形様の素晴らしさは十分分かりました。それと、他国の援助までする事と何の関係があるのですか?」

「察しが悪いな」

 クイズでも出すように義鎮は言った。

 ヒントは十分出している。あとは、考えればわかるだろう?と。


「仮に、豊前や筑前の領主が我が国に敵対したとして、その場合水道施設を破壊したら…」

 そこまで言われて加判衆たちは、「あっ」と声を挙げた。

「そして、『水道が使えなくなったのは領主が大友家に逆らったせいだ』と風聞を広めたらどうなると思う?」

 インフラとは国全体の資産であり、個人にとって当たり前に仕える財産でもある。現代社会なら電気やネットもそれに当たるだろう。

 それが、その土地の…例えば市長や町長が急に中国に媚び出して独立を宣言し、日本政府から『電気やネットの供給をストップする』と言われたら、いくら温厚な日本人でも暴動くらいは起こすと思う。

 特にネットを見ながらダラダラ過ごす時間や仕事をする時間はもはや生存・教育・参政・飲酒権に並ぶ現代人にとってなくてはならない権利といっても過言では無い。

 それらをアホな領主の一存で使えなくなったとなればどうなるだろうか?

 今までどおりの生活に戻ったと納得できる国民は殆どいないだろう。

 むしろ、正当な権利として使用できたものが、たった数人のアホのせいで使えなくなった事に対する怒りが大きいのではないだろうか?


 こうしたインフラに食い込む事は、巨大資本が他国に援助と称して国を乗っ取る姿を見ている現代人にとっては露骨な侵略の一種と言える。

 特に宇佐神宮は元々の大口スポンサーである大内義隆の口添えもあり、寄進という形での工事にそこまで警戒を示していない。

 そのためかなりの規模の水道が完備されている。

 そしてその主要部分は銅管に土管をコーティングしたモノだが、その他は3年で取り替えが必要な物質となる。

「つまり、大友家無しで国家運営は出来なくなると言っても過言ではないだろう」

 目の前の菓子でも取るかのように、他国の征服を告げる若い当主に大津留は背筋が凍った。奴留湯も底知れない見せかけの善意と悪意に怯えたが

「しかし、そこまで上手くいくのでしょうか?」

 と尋ねるのが精いっぱいだった。

 だが、義鎮は確信を込めて「ああ。上手くいくだろう」と言った。

「人間というのは贅沢でな。3年もすれば便利な道具は当たり前となり、使う頻度が高ければ高いほど依存度も増える」

 スマホなど不要と言っていた親が一年もしないうちにスマホ中毒になっていった経験から来た確信だ。

 初めは使い方が分からないから「不要」と言っているが、使いこなせるようになると「便利だわ~」とか言い出し、不具合でスマホが壊れるとこの世の終わりのような慌てようだったのを思い出す。

「つまり、余がこれからやることは、戦をせずとも民が大友家に頭を垂れるための投資じゃ。いずれは九州北部は大友家のモノとなる。ならば当主として民のために財を投じるのは君主として当たり前の事じゃろう」

 と改めて説明する。 

 ヤフーは昔、無料でモデムを配り、インターネット契約を増やしまくった。

 あれにやり口は近い。

 毎月の支払いが発生する便利な機能は、初期投資で無料を餌に客を呼び込めれば長期的には利益が回収できる。

 無料で水道を整備して便利な生活を提供し、少しずつ維持費として金を取れている。

 中には手伝いとして専門的に就職した人間も生み出せれば、生活を守るため味方となってくれるだろう。

 外国に出展した企業が現地人を雇用するような感じである。

 そのために赤字も増えたが、インフラ事業に自身を組み込んでいくことで倒産されては困る会社となったり、助成金をかすめ取る存在にまで膨れ上がった。


 特に巨大資本というのは勢力の伸ばし方が異常に早くなる。

 卑近な例で言えば2006年頃に大分市では始め7ー11のコンビニが1軒。大分県でも20軒しか存在しなかった。

(引用;ttps://www.7andi.com/library/dbps_data/_template_/_res/company/news/pdf/2007/0510_01.pdf)

 嘘だと思うだろうが一度出典した店舗は閉店し、ローソンとファミマにエブリワン、それに残存勢力であったCOCOストアが数件あるだけだったのである。

 それゆえに2007年頃に古国府に7ー11が出来たときは「可哀想だけど、数年後には潰れるのね」などと筆者は思っていた。

 ところが、である。


 二度目の出店は本格的だった。


 2軒目が市街地に出来たと思ったら、ローソンとファミマが存在する主要幹線道路に次々と新規出店が続いた。

 中には閉店する店もあったが、新規開店する店がそれを上回り、いつの間にか先行していた2店に追いつき、ほぼ同数の182店舗となる(ローソンは188店舗)。

 2010年代後半には3店舗が同一地域でしのぎを削る状態となった。

 たった5年で勢力図というものは大きく変わるのだなぁと思い知ったものである。


「この水道事業は相場での儲けを継ぎこみ、失敗してもすぐに金を投入する。国東の田原が鎌倉の御代に借金のかたで土地を買ったように、豊前と筑前は命を失うものを出さず、金で買い取るのじゃ」


 まるで、それが明日の予定であるかのように、微塵の驕りも見せずに義鎮は重臣たちに宣言した。

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