第122話 選挙(戦い)は数だよ!そして暴力だよ 兄貴!

 不正選挙でググるとWIKIに津軽選挙という言葉が出てくる。

『津軽選挙(つがるせんきょ)は、青森県津軽地方で頻発する金権選挙である。』

 とドストレートに不正選挙の内容が書かれており、なかなか読み応えがあり面白い。

『手口としては陰での贈収賄や買収といった一般的な汚職の他に、地縁も血縁も関係なく現金を配る、有権者に配るビラに現金をしのばせる、といった金を配るのが当たり前のような選挙活動が挙げられる。』

『孫がおばあちゃんに自転車を買ってとねだると「もうすぐ選挙があるから、ちょっと待て。選挙が終わったら買ってあげる」と返答され、実際に選挙後に自転車を買ってもらった逸話が存在する』

 と、選挙=住民へのお年玉放出会となっている様子が挙げられている。

 

 昔は選挙期間中にチラシだけを渡したら「金がはいっとらんぞ?●●の所は1万円くれたぞ」とゴネて、ワイロを贈らないクリーンな政治家が苦労した逸話が九州でもたまに聞こえるのだが、恐ろしい事に津軽選挙では2014年の事件も掲載されており今でも続いているらしい。


 余談だが、初代民選青森県知事となる太宰治の兄、津島文治は、1937年の衆議院議員総選挙に初当選した際、料亭で酒盛りしつつ金木町長と軍資金を分配し、酔った町長が警官に交番へ連れて行かれた際『札束が町長の懐から落ちて御用となり、文治は留置場で当選を辞退する羽目になっている』

 という黒歴史が記録もされている。


 また『大いなる完』という漫画では、留置所にぶち込まれるのを前提に多くの運動員が不正を働きワイロを配る人海戦術まで取られ、選挙の連座制の発展に大きく貢献した事態を描いていた。


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「…………とまあ、民主政治と言うのはルールの不備を徹底的に突いてくる政治家あくまと、人間の悪意を潰そうと頑張る人間との戦いの歴史とも言えるわけです」

 さねえもんは遠い目で語った。

「取り敢えず、津軽は一度リセットボタン押して別の制度で議員を選んだほうがいいんじゃないかな?」

 ついでに言えば俺もリセットしたい。

 選挙じゃなくて大名なんてクソ職場に就職した事を。


「俺たちにも『せんきょけん』を寄越せー!」


 外ではそのようなデモを起こす人間がみられた。

 別に自由民権運動に目覚めたわけではない。

 選挙権に付随する賄賂が欲しいだけの寄生虫たちである。

 だが、残念。もはや立候補者が注目しているのは有権者ではなく開票作業に当たる連中たちなのである。


 海外の場合だと、ロシアでは監視カメラがあるのに選挙監理委員がまとめた票を投函したと言われている。

 また戦時中の1942年、鹿児島2区では軍の主導により露骨な干渉や非推薦議員の選挙活動に対する妨害が行われ、あまりの酷さに戦争中の1945年3月1日にも関わらず『鹿児島県第2区で推薦候補者を当選させようとする不法な選挙運動が全般かつ組織的に行われた事実』を認定し『自由で公正な選挙ではなく、規定違反の選挙は無効となる旨を定めた衆議院議員選挙法第八十二条に該当する』として選挙の無効とやり直しを命じている。


 逆に言えば、禁じ手というのは使えば絶大な効果を発揮する。


「確率的に自分の票が入ってるか不確定な30票を完全に自分の票に変換すれば600票の内570票が勝負となる。だが、こんな手は他の奴らも使っているだろうから、場合によっては90票…いや。すり替えた後に別の買収された人間がすり替える可能性も考えられるな。150票を管理人にすり替えさせるべきでは無いじゃろうか?」

「むしろ、敵対する票には丸を他にもつけて無効票にすれば、相対的に当選確実な票数が減るんだから勝率も上がるんじゃないかのう?」

「それじゃ!」

 それじゃ!じゃねぇよ。こんな時にだけ頭を使いやがって…。


 2週間で豊後の選挙戦は2000年代のロシアにまで選挙手法が進化していた。

 ………………………………………………進化?


「いや、退化ですよ。ふつうなら見た目だけでも公平にしようと不正が減るのが選挙制度ですから…」

 それが達成されたら、今度は口先だけ良い公約を並べて、当選したら手のひらを返す詐欺師をどうするかって問題もでてくるが、今のところ豊後ではそれ以前の問題なのでどうでも良い。


 賄賂の証文が普通に経済貨幣として流通し「田村家(仮名)の領地10貫分を当選したらやる」という文書が巡り巡って当の田村さんの家への支払いに聞いたこともないような家から持ち込まれ一悶着あったという笑い話まででてきた。

「これって銀行の信用手形と同じですね」

「あー。期日になったら金に変換できるって奴ね」

 銀行通帳で当座預金という聞きなれない単語があるが、自転車操業の会社とかケチな大企業sとかは商品仕入れて売れてから金を用意するので期限の決まった借金をする。

 これを手形と言い、現金の代わりとして他の業者に転売したりできる。なお期限までに商品が売れず当座預金に現金が入ってないと手形が現金にならず『不渡り』といわれ、二回不渡りを出すと銀行口座が凍結される。

 今回の場合、証文持ってた奴の方が、発行者が落選して報酬が払えなくなると紙屑になってしまうのだが、それでまた問題が起こり、大量の不渡り証文が俺のところに訴訟として持ち込まれるんだろうなぁ…。腹が痛い。


 なお転売が発覚した、田村さん(仮名)が最初に証文を渡した佐藤さん(仮名)の家が不義であるとして現在係争中である。この話自体が(※フィクションです)として無かった事にならないものだろうか?

 

 ここまでくると他のワイロを受取った方でもうんざりして「もう、家名がどうとかで争ったりしません。家族の安全さえ守れればどうなっても良いので選挙権をお返しします。助けて」という人間もあらわれて来た。


 3つ程の陣営から金を貰い、最初はホクホクだったが、次第に金品授与がエスカレートし、現在価値で3千万を越えた当たりから怖くなったのだそうだ。

 うんうん。これで候補が落選したら「返せ」とか言われるのは当然として、逆恨みされそうだもんなぁ。

 …………………俺も怖いよ。それでも諦めないような基地害の相手しないといけないんだから。

「大変でございますね(他人事)。まあ、御屋形様のご無事を祈っとります」

 と言いながら憑き物の落ちたような顔で棄権者は帰っていった。


 たーすーけーてー。


「誰だよ。「選挙で決めればいいのに」なんてロクでもない一言を言った奴は!」


「手鏡ならここにありますよ」

 さねえもんが「お前だ」と言わんばかりの顔で鏡を差し出してきた。

 ああ、不用意な発言をした自分がにくい。


 そして選挙が始まって18日後。


 お行儀良く不正を働いていた豊後武士の一人が、ついにあることに気がついた。


「いっそのこと、対立候補を殺しちゃえば勝ち確定じゃね?」

 と。


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 あと2500文字くらいで終わるのですが、テンポが悪いので、もう一話分けます。すいません。

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