第120話 毛利調略…の前に人事改革。

「さて、これからどうするかなぁ」

 反乱の首謀者を体よく国外に放り出して、やっと第一の問題が片づいた。

 厄介な問題はよそに放り投げるのが一番だな。


 国内の生産量もチートレベルで増えているし、そろそろ放り出していた中国地方の旧大内領問題を片づけてもいいかもしれない。

 そう思って、これからの史実の予定を聞いてみると

「次の反乱までは3年ほど猶予がありますし、陶晴賢が毛利家に負けるのは来年の話ですからね~」

 さねえもんが次に起こる予定の反乱について語る。


 1556年に、原因は不明だが豊後の古庄さんとか小原さんが反乱を起こしたという。この反乱は1553年のものよりも大がかりで、事前に討伐できなかったらしく、宣教師は宗麟さんが臼杵の城に避難したと書いていたらしい。

 まじかよ。

「こちらも反乱理由は不明なんですけどね。討伐対象者に大友家関係者がいないから、宗麟さんが親戚を優遇しすぎて それに不満を持ったのではないかと推測されてますね」

「親戚を贔屓ねぇ…」

 まあ、同族会社とかで社長一族以外は偉くなれないとかあったら、野心のある社員は辞めるか会社を乗っ取ろうとする奴とかいそうだもんなぁ。


 今の大友家は大きく分けて4つの派閥に分かれている。

 

・1つは同門衆。大友家の血縁者。

・2つは御降衆。鎌倉時代に大友家の部下として一緒に豊後にきた直参譜代の領主。古庄家とか朽網という家がこれに当たるらしい。

・3つは国衆。平安時代から豊後に住んでて大友家に乗っ取られずに存続している家だ。

 平家物語に登場する大神一族がこれに当たり、佐伯氏、賀来氏、大津留氏などがいる。

・4つは新参衆。大友に雇われようと他国から流れてきた余所者というコトになる。


 史実の宗麟さんは同門衆だけを重用していると見られて1556年に反乱を起こされたと言われているらしい。

「他人事のようにおっしゃられておりますが、今 殿が重用している臼杵、吉岡、吉弘、戸次はすべて大友家の親戚です」


 ………………………それって、むっちゃ反乱ゲージためてる…ってコト?


「確信はないですが、多分」

「よし。加判衆の人数を増やそう。今すぐに。速やかに。迅速に。つつがなく公平にするぞ」


 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


 とりあえず、父親 大友義鑑の4回忌を急遽開催し「国が安定するまで、父の遺言を省みる暇が無かったが、皆のおかげで落ち着いてきた。そこで、孝行のためにも遺言を聞こうと思う」と宣言した。


 …いや、4回忌って何だよ?とか、遺言って死んだ後すぐ守るべきじゃね?とか、自分でも言いながらおかしいなとは思うんだよ。

 でも、こうした名目でもつけないとお前等領主たち言うこと聞かないジャン(心の慟哭)


 1550年に死亡した宗麟さんの父 大友義鑑は遺言の中で『同門衆と国衆は同数にするように』と遺言を残している。

 なので、2月12日と命日が近いから、それにかこつけて大胆な人事改変をしようという訳だ。

「なるほど。確かに大殿(義鑑)が亡くなられた後に菊池殿の反乱などがあり大変でしたからな…」

 と、予め仕込みをお願いした雄城右京が言う。会議を円滑に進めるサクラって重要だからな。

「すると、国衆から4名。誰かを選ぶ訳ですな」

 同紋衆はすでに4人埋まっている。なので大友家と血縁に無い外様の代表を選んでガス抜きをしてほしいわけだ。

「ああ、誰が良いと思うか、忌憚の無い意見を聞かせてくれ」


 家の大きさから言えば佐伯(大神氏)、大津留(大神氏)、小原(大神氏)あたりになるだろう。


 だが、佐伯は過去に出世しすぎたせいで妬まれて讒言され、家を滅ぼされかけたというトラウマがある。

 大津留は領地が大きすぎるので、それ以上に権力を持ったら警戒されるというトラブルもある。

 小原は肥後を任せたら1556年に反乱を起こす予定だが、肥後を任せるだけの功績も立てているので回避できなかった家だ。

 なので、これらの権力のある家は加判衆からは除外された。


 意外に思われるかもしれないが、実際のところ大友家の加判衆政策決定機関というのは、実はそこそこの領地を持つが、そこまで強くない中領主がつくことが多いポストだったりするのである。


 これは同門衆も同じで、大友義統の時代になると国力が低下し、裏切りを防ぐため豊後でも1・2を争う大領主である田原や志賀が政治に携わるが、宗麟の時代には彼らが加判衆になったコトはない。

 1550年に義鑑の片腕だった入田があっさりと討伐軍に敗北したのも、実際の動員可能兵数はたいして多くないからだったりする。(入田は竹田市の中島公園周辺の領主)


 そのため、会議は混乱を極めた。


「由布や奴留湯はどうだ?」

「いや、あそこでは家格が足りぬ。不満を持つ家が出るだろう」

「かといって朽網や賀来では国衆が力を持ちすぎる。同門衆が警戒しては三角畠のような内乱(1530年頃に起こったと言わる同紋衆と国衆の内乱)が起こるやもしれぬぞ」

 同門衆でも国衆と血縁関係にあったり、親族が敵対している場合もある。

 そのため、自分の家に不利な人事を皆が潰そうとして4時間たっても一人も決まらない状態だ。

 うん。これは社内会議よりも酷い。

 複雑にこんがらがった利害によりどんな組み合わせでも不平が出るような最悪な状態になっているようだ。


「長増。お主は何か意見はないか?」


 義鑑死後に見事な差配をした吉岡へすがるような目を向ける。

 だが

「あの時は『将に国難迫る。家内一致せねば家滅びんとす』という状態でした故、多少の諍いには目をつむり、一刻も早くまとまらんとする下地がございました」

 だが、国が安定した今となっては寸毫の土地を得るために互いに争うような状態となってしまった。それゆえに、どのような案を出しても納得はしないだろう。と諦めの様な面持ちで言われた。


 まじかよ。


 みんな不満に思っている事ならば、意見を聞けば速やかに決まるだろうと思ったのだが、まさかここまでギスギスした雰囲気になるとは思わなかった。

 ボスザルみたいな連中が4人、互いに推薦して中小領主がそれに追随するから簡単に終わるだろうと軽く考えていたが、何でここまでこじれるんだろう?

「そりゃ、利権が絡むと根負けするまでゴネてやれって戦法をとる人間は多いですからね」と、さねえもんも眠そうな目で言う。

 時間の無駄だなぁ…。


 あー。なんか面倒くさいな。こんなの誰もやりたくない学級委員長を押しつけあうのの逆バージョンじゃないか。


 4時間かけても全く進展のない会議に嫌気がさしてきた。

 こういうとき学級会ではどうして決めたっけ?

 確か、「●●ちゃんが良いと思いまーす」

 とか生贄を数人決めて多数決で決めてたっけ。

 まあ、それだと怨みつらみが生まれるから匿名にする必要はあるが…

「…………もういっその事、無記名で投票すればよいのに…」

 そう、あくび交じりで口に出していた。

 すると、同じく退屈そうにしていた領主の一人がそれを聞いて


「とうひょう?それは、なんでございますか?」


 と、珍しそうに聞いてきた。

 あれ?この時代投票とかないの?

 古代ギリシャとか陶器に名前を書いて追放する奴とか決めてたって言うのに。

「投票か?投票とは自分が支持したい人間の名前を紙に書いて、数が多かった人間を選ぶ方法じゃ」

 いつもお前等が同調圧力でやっている事だよ。それを匿名でやるだけじゃん。

「ただ、挙手などでは本音が出せぬ。だから…そうじゃな。こうして書かれた名前の上に・(点)をつけて適当な箱に入れてしまえば」

 適当な箱に紙を畳んで落とす。文字を書けば筆跡でばれるからね。

「ほれ、これなら誰が書いたか分かるまい」

 現代の投票制度を思い出して、実演して見せた。

 まあ、こんなもん誰かが思いついてやってみて、それでだめだったから流行らなかったんだろうけど…

 すると


「なるほど。これは籤よりも納得ができるかもしれませぬな」


 はい?

「誰が書いたか分からねば、誰もが本音をかける。さすれば、恨み辛みが出ないかもしれぬな」

 あ、あれ?

 もしかして、無記名投票制度って今までなかったの?(※豊後に限る)


 豊後人、いや日本人と言うのは排他的なくせに新しい者には注目するという癖が有る。

 この投票制度に乗り気な人間が出てきた。

 ああ、これなら今日中には決まるかもしれないな。そう楽観的に考えていると

「まずいことになりましたね」

 さねえもんが、渋い顔でそうささやいてきた。

 まずい?何がまずい。言ってみろ(某パワハラ会議風

「いえ、選挙と言うのは本当の民意を出したら納得しないやつが絶対出ますからね」

 はい?

「共産主義が流行した頃の中華民国やロシアで選挙が行われたんですよ」

 へー。その辺り、全く興味がないから知らないなぁ。で、選挙があったのに何であんな風になっちゃったの?

「それは権力者が所属しない政党が人気が出て、結局軍事力の強い政党が選挙結果を覆したんですよ」

 あれ?それってつまり、武力衝突のまえにワンクッション挟んだだけって事?

「いえ。互いに誰が敵で誰が味方か人狼ゲームみたいに探り合いが起こったり、ワイロや流言飛語、離間工作などの昭和初期にみられたようなが始まって国内が割れる可能性が高いです」

 最悪だー。

 何で止めてくれなかったんだよ!

「止めるも何も、何の相談も無く選挙の話をしたんじゃないですか…」

 そうだった。…だって、あんまりにも退屈だったんだもん。

「まあ、今年起こるはずの反乱が1556年に起こるはずの反乱に置き換わったと考えたら、諦めもつくんじゃないですか?」

 迫りくる台風を眺めて諦めたような顔でさねえもんは「私はもう諦めました」と言った。


 わあ。投票。という珍しい概念に盛り上がり『いかにルールの隙をついて自分の候補を権力にねじ込むか?』を考える残虐超人も真っ青な無差別の戦いが始まろうとしてるや。

 普段はロクな意見を出さないのに、こういう事は頭が働く奴っているんだね。

 全体の数から、何票自分に入るのかを計算し始めた奴とか、ワイロでばらまくための財産を数え始めた奴らがいるのを、我々はただ見守るしかなかったのである…


「…さらっと、わたしまで巻き込まないでくれますか?」


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次回『戦国時代の総選挙(無差別級アリアリルール)』に御期待下さい

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