第112話 茶道をたしなんでみた(客編)

 ※本作はフィクションです。実際の団体・人物・大分とはいっさい関係がありません。(久々)


 今回と次回はギャグ回です。

 まじめに茶道をされている方、ごめんなさい。


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 まあ、500貫というのはふっかけ過ぎである。

 結局、中間くらいの値段、まあ50~100貫くらいで売る事でいかがでしょう?と交渉がもつれこんだ。そして、その際に


「………ところで、あなた様(=宗麟)は茶はどれだけ たしなまれますかな?」

 と言われた。


 来た。


 茶器を売るときに、カウンターとして

『お前さんはどれだけ茶の湯を知っているのか?うまく茶会ができるのか?』

 という問いかけが来るのは覚悟していた。

 

 この時代の茶道というと千利休や信長から見出されるよりも前、村田 珠光むらた じゅこう(1422・3年~1502年6月19日)という人が「わび茶」の基礎を作り、武野 紹鴎たけの じょうおう(1502年~1554年)という千利休の師匠にあたる人物が最盛期だったはずだ。

 この人は侘びたものを好み、利休の弟子が書いた『山上宗二記』には、紹鴎の四畳半茶室の図が載っており、鴨居は「普通のモノより低い」とある。

 茶室に入る時は誰もが頭を下げる利休の茶室哲学の元になったのかもしれない。


 弟子である池永宗作による文献には、紹鷗が「茶室の中が明るすぎると、茶道具が貧相に見えてよくない。従って時間帯によって光が強くなる東、西、南向きの窓は避けるべきだ」と考えていたと記されている。(WIKI『武野 紹鴎』より)


 紹鴎は、4畳半茶室よりも小さい3畳半や2畳半の茶室を考案してはいたようだが、客をまねくのなら4畳半だろう。

 つまり、侘び茶の基礎、現代の茶道の基本の原型は出来あがっていたと見える。

 なので


「まあ、それなりには」

 と、答えると。

「ほほう。流石は茶器を商おうというお方。宜しければ、明日にでも茶会をいたしませぬか?」

「それはそれは、光栄の至り。是非 上方の流儀を御指南いただきたい」

 と言った。

 まあ、本音を意訳すると『茶会で不調法を笑い、お前の茶器の価値を下げてやる』『やれるもんならやってみやがれ』である。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


「大丈夫ですか?発展中とはいえ、この時代の茶道は結構マニアックになってますよ?」

 商店を出ると、心配そうにさねえもんが言う。

「まーかせて」

 そう言って胸を叩く。

 こう見えても俺は5ヶ月ほど茶道を嗜んだことがあるのだ。

「くくく…『リフォームのお客さんが茶道の家元だから』ということで、茶道教室にという、金を払う罰ゲームみたいな思いをして覚えた技術、今こそ見せてやろう」

「………ゑ?そんな程度の知識で自信満々に答えちゃったんですか?」

 心配だと表情に出して、さねえもんが言う。


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 茶道の基本は2つ。


 尻を相手に向けない。

 部屋に入るときは右足。出るときは左足を畳に入れる。(※流派によって異なります。)


 である。(※個人の感想です)


 あとの作法は流派によっても違うというか、座のかたちで掛け軸がどうだの茶器がどうだのは周りに合わせればよい。(※五か月だけ茶道をかじった素人の感想です)


「芋(いも)ころがし。って笑い話知ってます?」

 とさねえもんからは言われたが、みんながやればそれは正しいルールになるのが日本人的ルールだから間違ってはいないだろう?


 さて、予定の時間となって呼ばれた部屋に入る。

 奥にはちょっと偏屈そうな老人が一人。湯を沸かして待機している。

 さすがに武野 紹鴎ではないだろう。

 こんな素人の茶会に参加するわけが無い。

 そう思いながら、昔を思い出し部屋へ向かう。


 茶会で部屋に入るときは、まず正座で頭を下げて、そこから『80km車運転して現場を廻ってから帰ってきたのに、』と思いながら、右足から部屋に入り、『社長による強制参加なのに、なんで会費6千円しないといけないねん』と思いながら2歩進む。

 この時、次の畳には右足で入る。

 そして相手にケツを向けないように心持ち体を左に向けながら、かかとを軸に90度回転。

『8時に終わってそのまま社内で食事して、9時に解放されたら10時に帰宅。翌朝7時には出社なのに 』と思いながら、座に向かい、『だいたい、これは自分の担当じゃないのに社員全員強制参加って、労基署に行ったらどうなるんだろな?これ。社長逮捕でもされねぇか「渇ぁーーーーっつ!!!!」』


 急に怒鳴られた。


「な、なんばしよっとですか。アンタ」

 理不尽な叫びに抗議すると、怒鳴った方も、はっとした表情で

「…し、失礼。なにやら只ならぬ雑念を感じたもので…」

 いかん。作法を思い出していたら余計な事まで思い出してた。反省反省。

 しかし、今の反応を見るとどこかの寺の和尚だろうな。

 瞑想中の警策(肩を叩かれるやつ)の感覚で怒鳴ったんだろうし。


 茶会の主の失態で少し気が楽になったのか、後から入って来た商人たちも心なしホッとしたように部屋に入る。

 これで茶会の始まりだ。

 後は、茶菓子を食べ、出された茶椀を見て「よし」の合図を受けてから茶碗を180度回転させる。

 こちらに見える様向けられた茶碗の目印が皆に見えるよう外側に向けるとか、そんな意味があったはずだ。

 そして3度に分けて飲み、最期は音をたててすする(※これ、正しいのかわかりませんが、そう習いました。主人公が(※本作はフィクションです))

 飲み干したうえで、もう一度茶碗を見る。

 空になったので高台(茶碗の底の印)までみるんだっけかな。


「けっこうなお手前でした」


 一通り、見物が終わってから、自分が口をつけた部分を懐紙で拭って椀を返す。

 これでひととおり終わったが判定やいかに?



「………たいしたものですな」



 おお、現代茶道が認められたか?

 と思ったが

「作法は洗練されているのに、ここまでぎこちない動きをされる方は初めてみました」

 ああ、京都風の婉曲なDISだったか。

「上方での茶会は初めてですから。こんなに緊張した茶席は初めてですので、多少の武張った所作はご容赦願いたい」

 とあらかじめ用意していた返答を返す。


「まあ、茶の湯は一期一会。もてなしの心をどれだけ読むかなども大事ですが、どれだけ楽しく和やかな時を過ごせるのかが大事だと私は思います」

 礼儀作法とか地方ルールが多すぎるので正解などない。

 情報が共有化された現代でも、大富豪とか麻雀をやるとルールが違ってたりするのだ。

 それを『田舎から来られた方は、こんな事もご存じないのどすか?』と切るか、違いを楽しめるかによって変わるのだと思う。

 そんな思いを読みとったのか、開催主の和尚は

「確かに、茶会の場で相手を品定めするというのは無粋でございますな」

 そう言ってくれた。

 どうやら話は通じるらしい。

「ですが、茶道となれば話は別。そこまでおっしゃるなら、今度は貴方様の点てる茶がどのようなものか、じっくりと拝見させていただきたいものですな」

 挑むような目で見られた。

 どうやら、今度は俺が主となって茶会をする番らしい。へうげものだと準備だけで半月とかかかっていた気もするけど、これは茶道的に正しい期間なのだろうか?

 料理バトル漫画ならぬ、茶道バトル漫画でもやるんか?

「まずいですよ。そんな短期間で素人が出来る茶会なんてありませんよ」

 とさねえもんが言う。

 なるほど、やっぱり無茶を言っていじめてやろうパターンか。

 だとすれば、俺には豊後で奥さんたちに好評だった秘策がある。

 お茶が大衆文化となった、現代の様々なお茶を飲んだからこそできる逸品だ。


「俺が出した答えは、これや!!!!」


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 おもいっきり煽って続きますが、まあ料理マンガのようなビックリネタではないので、過剰な期待はお控えください。

 ちょっと茶会という言葉を思い出したら、色々思いだしたんです。(※本作ry)


 なお『部屋に入るときは右足』という部分ですが、ネット検索すると『左足で入るのが常識です』と言い切るページもあれば『右足です』と言うページもあるので、流派とか部族によってルールは変わるのだなぁと思い知りました。

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