第102話 銅銭廃止のお知らせ(海賊出没地域に限る

 中国さんの貨幣の歴史調べてたら更新に時間がかかりました。

 今日の私から、先週の私へ『やろう、変な宿題押しつけやがって、プチ殺しますわよ』と言いたいです。


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「奴隷貿易というのは」


 ・①貧困で身売りする人間

 ・②人間を売ろうとする人間

 ・③人間を買う人間


 の3つがあるから成立する。とさねえもんは言う。

「物質が燃える時の3要素みたいだな」

 このうち、①の貧困で身売りをする人間は仕事を与えることで問題クリアできるだろう。

 それだけの仕事が豊後にはある。

 ③の買う人間だが、これは『領内で奴隷を見かけたら主人が処罰対象になる』と、けん銃や薬物の不法所持みたいな罰則対象にすれば解決だろう。

 人間は大きいし隠すのは大変だからすぐわかる。

 

 問題は②の人さらいである。

「山賊とか和冦の海賊が略奪行為を働くのは、まじめに働くより奪った方が楽。というのと、薩摩のアンジロウさんみたいに、国が貧しすぎて海賊をしないと食べていけない2つのパターンがあります」

 とさねえもんが解説する。

 後者は、某 回転寿司の社長さんがやったみたいに、漁をしたり山菜を採った物を買い上げれば更正できるかもしれない。

 戦国時代にこんな事を言えばバカにされるだろうけど、ソマリア海賊に対して成功した事例を見れば庶民に対して有効である気がする。

 問題は前者。犯罪でしか生きていけない連中だ。

「そこで、中国政府と協力するんです」

 なんで、そうなるの?


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「中国では古来から銅が不足していました」

「はぁ?日本に輸出するくらい銅銭があるのに何で不足しているんだ?」


 さねえもんの説明に抗議すると、

「昔、三国志にハマっていた時に大澤先生(現;地雷魚先生)が監修した『うまなみ三国志』って本に書いていたんですが」と前置きして


 古来、中国は銅が不足していた。

 銅がとれるのは漢中とよばれる西の山脈か、長江の南の鉱山。

 洛陽と呼ばれる都付近では銅鉱山は少なかったという。

 国は税収でも金が足りなくなると、銅を採掘してお金を造らないといけない。

 だが、その銅の量が不足していたという。

「なので、統治者は物資の交換道具である銅の流通量にはかなり頭を痛めていたんです」

 中国で一番質の悪いと評判の董卓五朱銭を発行したら銅の含有量の少なさ、鋳造のひどさに銭の価値がなくなった。

 そうなると、物々交換が主流となりモノの価値が爆上がりする。

 そうなると、十年間は籠城できるほどの物資を徴収した董卓の資産は相対的にはねあがるようになったという。

「これ、現代日本で金持ちが自分の所有するお金の価値を落とさないようにモノの価値を落とすデフレとは正反対の政策ですね」

 ハイパーインフレってやつか。

 このモノ持ち有利な政策は貧富の格差を生み、餓死者もでた。

 金が有っても食べ物を買えないから当然だ。

 そして、なんやかんやあって董卓が滅んだあと中国の派遣を取った曹操も銅不足には悩まされたようで、鉱山のある呉とは赤壁で、蜀には漢中でそれぞれ敗北を喫しているのは焦りがあったからではないか?という。


「そんなわけで銅不足の中国ではかなり前の時代から、紙幣らしきものは流通していたらしいんです」


 国が混乱したり商業が発展すると銅銭が足りなくなった。

 物が増え、人が増えるのに鉱山から発掘される銅の量が追いつかないのだ。

 本来国民一人当たりの財産量を200万円くらいにしたくても、市場に流通している金が一人当たり100万円しかなかったら物理的に不可能。

 現代では信用制度という、国が金の価値を保証しているので原価24円の紙切れが1万円の価値をもつようになっているが

『銅でないと金として認めない』

 という人間ばかりだと経済は回らない。

 そこで、政府はまず。鉄銭である。

 銅より大量に存在し、希少価値の低い鉄を銅と同等の銭と思えと言い出したのだ。


 当然評判は最悪だった。


 鉄はさびる。

 さらに入手も比較的簡単なので偽金も作りやすい。

 そこらで買った剣や鍋を溶かして形を整えるだけで数倍の価値のある銅と同価値と言われたら民衆は納得できなかった。

 鉄銭を採用した南朝の梁はインフレーションが起き、経済が崩壊したという。


 後の時代でも銅銭1枚と鉄銭10枚を同等の価値とすると銭の重さが10倍となる。持ち運びが不便である。

 しまいには鉄銭の交換札まで作られた。

 北宋では交子、南宋では会子と呼ばれたものである。

 そこまでやるなら普通に紙幣を使えよと思うのだが…


「というわけで、中国政府は紙幣制度には結構前向きに考えてくれると思うんですよ」


 なるほど。中国の銅の不足っぷりは理解できた。

 で、それと海賊撲滅と何の関係があるんだ。


「要は、犯罪者には使えない銭にするんです」


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 対馬の奴隷は全て買い上げて、日本人は豊後か故郷、朝鮮半島の人と中国大陸の人はそれぞれ故郷に返す事にした。

 特に大陸の人は大内義隆かんごうふさんの仲介で明の政府に九州北部の大守(中国で言えば市長 兼 警察署長)として、日本に売られた人間の返還と海賊退治の対策を書いた書状を携えて使者を送ることにした。


使


 と書いて。

「そんなことできるか!」

 と怒られるのは当然予想できる。

 さて、ここからが口車の廻し所だ。


「その日の生活に満足できない賊は一獲千金を狙うものです」


 ヤクザとか犯罪者というのは一攫千金ねらいの人間が多い。

 世界大戦後に一時期 人が多く集まった広島の呉や大分の別府を拠点にしていたヤクザも景気が下火になると拠点を移してほぼ絶滅した。

 特に戦国時代の海賊は命がけの犯罪だ。

 楽して稼ぎたいけど命がけという矛盾した行いにより、一度の略奪で相当稼がないと割に合わないのである。

「逆に言えば、金目の物が無いところには寄りつかないのです」


 そこで、明には『』を勧めた。


「つまり、海岸沿いで銅銭を使うのを停止せよというのか?」

「はい。我が殿 義鎮様は海賊の撲滅に着手しました。そこで資金源を断つためにも換金性の高い銅貨を庶民が持つのを一時的に停止していただきたい、とのことです」


 そして、その地域の家の前には

「この家の金は役所が預かっています」

 と張り紙を出しておくのである。そうなれば、海賊も『ここの家は襲ってもたいして儲からない』と数度の襲撃で理解するだろう。

「しかし、民は紙の金を使うのであろう?それを奪われたら如何する?」

「紙幣は、役所を仲介しないと余所に持ちだせない様にすれば宜しいかと…」

「どういう事だ?」

 民に渡す紙幣は地域ごとにデザインや色を変え、手渡す人間の名前を書いておく。

 そしてその紙幣は、その地域でのみ米などが買え、余所の地域では使用できなくする。

「襲撃した土地で賊は買い物はできないでしょうから、ますます余所者にとって価値はなくなるわけでございます」

「それだと、地域をまたぐ行商人はどうするのだ?」

「余所で使う際には、役所に申請すれば銅貨に交換できるようにするのです」

 昔(1971年8月15日以前、ニクソンショック前)のドル札が金との交換紙幣だった金本位制なのに対して、こちらは銅本位制の紙幣という訳である。


 こうすれば海賊が略奪しても、手にはいるのは犯罪者では交換できない紙切れとなる。

「ならば、海賊が住民を買収して交換させるのではないか?」

 オレオレ詐欺が金銭の受け取りに「出し子」と呼ばれるバイトを使うようなものだろう。だが、犯罪の手口も多様化した未来人から見ればそんな手は想定済みである。

「交換量を役所が記録すれば換金量が異常に多い人間は海賊と関与しているのが一発でわかるでしょう。特に海賊に紙幣を盗られたと申告があったなどは普通の人間は恐ろしくて使えないでしょうなぁ」

 わざわざ警察署の前で闇取引するやつはいない。

 財産を持ちだすには一度役所を通す事になると、賊の換金に協力するのは余程のバカか底抜けのバカのどちらかだろう。


 とはいえ、貨幣制度が整っておらず いつ紙幣が紙切れになるか分からない社会だと、普通ならブーイングを食らう。いくら便利でも政府が滅んだら紙くずになるんでこの時代には紙幣それほどが普及していないのだから。

 だが、海賊という余計者がいるせいで住民は安全のために財産を国家に預けると思う。

 『苛政は虎よりも猛し』と言うしね。

 生活を保護してくれるなら、住民も持ってて危険な物は役所に預けるだろう。


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「つまり、海賊の力を削ぎながら、銅不足も解消でき、役所が不正さえしなければ、民衆は生活を守るため反乱を起こしにくくなるわけです。役所が不正さえしなければ」

 金が無いから紙にしました。といえば民衆も怒るだろうけど、「皆をまもるため政府が銅を預かっておく」と言えば互いに面目が立つだろう。

「民衆に感謝されて、銅不足も解消。海賊は資金源を根こそぎ断たれる」

 そう、利点を上げてウチの使者はセールスマンのように言った。


「如何でしょう?いまなら紙切れに判子を押すだけで、幾らでも必要なお金が作れますよ?役所が不正さえしなければ」


 紙幣が流通できるかどうかは国家が信用あるかどうかなのである。


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「うまなみ三国志」は電子書籍で購読が可能です。

 三国志だけでなく当時の中国の話や風習も知れて、日本の歴史にもつながるので興味のある方は是非読んでみてください。

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