第101話 3方ヨシ!

「火事だー!」

「火事だ火事だ火事だ!!!余所の棟に火が燃え移っているぞー!!!」


 不安を煽るようにわざと大げさに騒ぐ忍者たち。

 ここで奴隷とされた人たちが幕府の旗を掲げる大友家(宗麟の父のだいから大友家は三五桐の家紋の使用を許されている)に逃げ込むならクロ確定。

 逆に、宗氏に従うなら生活困窮者として身売りしたもの。


 そんな判定で捕えられている人たちの反応を見たのだが、日本人の逃亡者は少なかった。どうやら、ここにいる日本人のほとんどは働く場所もなく、困窮しているのが殆どのようだ。

 現代日本でも、社会的弱者はタコ部屋とか犯罪の片棒を担がないと働く場所がない事があるが、犯罪者組織がそんな人間の受け皿になっている現場を見たような気がする。


「とはいえ、外国に売るのはさすがにダメだろ」


 当時の欧州人にとって奴隷に人権はなく、たんなる所有物 モノ扱いされていた。

 1610年にフランス人冒険家のジャン=モケはゴアに滞在中、あるポルトガル人が購入した女性の日本人奴隷の歯が白いことを褒めた所、嫉妬した男の妻が召使いに彼女の歯を砕くように命じた。さらに浮気を疑った妻は熱した鉄の棒を彼女に押し当てると日本人女性は死亡した。

 だが、彼女は何の罪にも問われなかったようだ(大航海P122)

 1607年にインドでの日本人の奴隷化は禁じられたはずなのに、この様である。

 欧州で人権が進んでいるというのは、産業革命で子供にも過酷な労働を課すような、人権を進めないとヤバい人間が多かったからだろうと推測される話である。


 そんな恐ろしい所に同胞を送るわけにはいかないし、将来的には欧州人にも「それは野蛮人の思考だ」と認識させることが出来たらよいなと思う。

 逆に、庇護を求めてきたのは中国や朝鮮の人たちだ。

 言葉が分からないので通訳を介しての言葉だったが

「海賊にさらわれて、ここまで連れられてきた。助けてくれ」

 という事だった。


 うん。こっちは言い訳できないだろうな。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


「海辺で漁をしていたら倭寇にさらわれて、気が付いたらこの島に連れてこられた。とこの者は申しているようだが、何か言う事はあるか?」


 宗を白州に座らせ、客である俺が座敷で見下ろす。

 気分は大岡越前である。

 時代劇なら「もはやこれまで、かくなる上は…」と殺陣シーンとなるような展開だが、こちらの銃の多さにもはや戦意は喪失している。

 金はあんまりないけど技術への知識が有ると言うのはこういう時話が早い。


「何も…ございませぬ。全ての責は私にあります」


 潔く罪を認める宗。


「対馬史は、あんまり詳しくは知らないんでニコ●コ百科あたりの受け売りなんですけど」

 と前置きしてさねえもんがいうに、今の宗氏当主 宗将盛(そう・まさもり 1509 ~ 1573)は甥の宗将盛が元々当主だったものの、家臣から嫌われ反乱が続発した末に追放され、1539年65歳で家督を継がされたらしい。

 1542年に室町幕府12代将軍・足利義晴より偏諱を賜り、宗晴茂(はるしげ)、のちに宗晴康と名乗ったという。 

 https://dic.nicovideo.jp/a/%E5%AE%97%E5%B0%86%E7%9B%9B 


 何だろう。すごいんですけど…


 1550年の菊池義武の反乱を思い出したよ。あっちは叔父さんが反乱起こしたんだけど…

 

 宗将盛は民に麦の生産奨励を行うなど、痩せ細っていた対馬の土地や産業を活気づかせる事に心血を注いだという。

 また主幹産業である貿易については、1544年に蛇梁倭変(日本の船が朝鮮に攻め込んだらしい)が勃発し朝鮮との国交が断絶。1547年の丁未約条により国交が再開されるも、来船数の制限を受け、かなり苦慮したという。

 そして1552年、78歳のときに子供に家督を譲って隠居、89歳で死去したという。

 つまり、引退寸前に俺たちは乗り込んだと言う訳だ。

 この潔さは『自分の命で全てが治まるなら』という生贄精神の表れもあるのかもしれない。

『実際に会ってみないと分からない』と思ったが、宗氏は自分の家や領民を守るために他国の人を喰い物にする平均的な戦国大名と言えるだろう。


 これ、初期はどうかしらないが悪党が私腹を肥やすために人身売買しているというより、経営破たんしている中小企業の経営者が社員を養うために犯罪に手を染めているようにしか見えない。

「……これ倒したら俺たちの方が悪役だな」

「流石に、これは同情の余地がありますな」

 とベッキーも同意する。


 奴隷の人も助かって、宗氏もちゃんと運営できて、大友家も慈善ではない。そんなよい落とし所はないだろうか?


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


「まず、ここに運ばれてきた日本人奴隷はしばらく大友家が買い受けましょう」

 と、さねえもんが言った。

 仮に帰る場所があるなら、金ではなく情報や取引拠点などの支援で身受けの金を返してもらう。

 そして、帰る場所がない人間は豊後で労働者として農業かセメント採掘や製塩の仕事などについてもらう。

 こちらは造れば造るだけ売れる好景気状態。人が増えれば増えるほど売り上げが伸びるのだ。むしろ、日本中に御布団や化学繊維の服を流通させるにはまったく人が足りない。


 これで奴隷問題は解決。外国からさらわれている人は地道に交渉をしていかないとならないだろう。


 とはいえ、これでは宗氏の経済は火の車である。

 対馬の生産力は低い。

 モノが作れなければ貿易か観光でしか金は稼げないが大陸との国交が閉じている今、それも難しい。

 自然と大陸から海賊が略奪した犯罪品を買い取って転売するしか生存の道は残されていない気がする。

 ソマリアの海賊見てるみたいだ。

「魚介類を取ってもらって豊後で買い上げるか」

 某す●三昧の社長さんみたいな方法くらいしか思いつかないが、不漁の時が困る。


「ここの利点と言えば、半島に近く、日本で唯一の窓口になっている事でしょうか?」

 だが、その貿易は海賊のせいで潰されている。

 そして海賊は活動範囲が広くて明政府ですら取り締まれていない。

 1556年に頭目である王直は騙し討ちで捕えられたが、その後も貿易は再開されなかった。

 奴隷問題は豊後の人手不足によって解決したが、対馬が取り残されている。

 せめて貿易さえ再開できれば、豊後製品を仲介して売ってもらう手間賃が発生するんだが…

 離島の経済状態に頭をかかえていると、となりでさねえもんがトンでもない事を言いだした。


「まず、大友家がと、宣言を出しましょう。明国に」


 え、いやだよ。めんどくさい上に、逆恨み買うじゃないか。海賊たちから。


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 明日の私へ、今日の私より


『ガンバ』

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