第100話 戦国時代の人間の値段 2000円~

 100話目に相応しい、本書だけの内容にしたいと思いますw


 なお今回は<身売り>の日本史(以下;身売り)という本を参考に戦国時代の人間の値段についてまとめてみました。

 二つの無関係な史料だからこそ見える現実をお楽しみいただければ幸いです。

 まあ、新史料が出れば即 ごめんなさいする程度の内容ではありますが…


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 日本では御法度の人身売買で冨を得ていた対馬の領主 宗氏。

 それを買値で買い取るか処刑されるかどちらか選べと言った。


 これは日本人だけでなく、中国人倭寇からさらわれた中国人や朝鮮人も含む。


 和冦とは、1300年代は元々の字の通り『和人の外敵(海賊)』の意味だったのだが、時代がさがると現地人である中国人の海賊も合流するようになる。

 地元人ならではの情報力で警備の薄いところを的確に襲える現地犯罪者と、中国政府の手が及ばない治外法権日本で商品を売りさばける日本人犯罪者の利害が一致。

 対馬を拠点として犯罪者の巣窟ができあがったというわけである。

 この時、倭寇は日本刀というチート武器を持っていたので『倭寇=日本刀を指す』とか『倭寇が営業マンのごとく切れ味を宣伝したので中国への輸出品に日本刀があった』という説もあるが、本当かどうかわからない。


 ただ1420年に日本を訪れた朝鮮人が書いた「老松堂日本行録」の「唐人」という一説では対馬に到着すると和冦に拉致された中国人の話がでてくる。

 この時は米と人間を交換してもよいという条件だが、いくらかは書かれてない。(身売りP79)

 だが対馬が大陸の奴隷貿易に関わっていたのは確かだろう。


「どうせ、無料で奪ったものか、甲信越あたりで安く仕入れた者たちだろう。買値は保障してやる故、大人しく渡すが良い。こちらが知っていることを隠しているとどうなるか分かるであろう?」

 全部知っているけど自己申告しろというのは税務署の手口である。

 こうすれば、こちらが知らない情報が出るかもしれないし嘘を突けばまだまだ埃が出るからだ。


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「ちなみに、戦国時代の人間って幾らぐらいしたの?」

 こちらに来る前に さねえもんに聞いた所

「戦国時代の勝山記という本では甲州の武田軍が1546年に信濃を攻めた際に、兵士から生け捕られた人が2貫~10貫の身代金で解放された記述があるそうですよ」(身売りP54)と言う。

 これは約20万~100万円くらい。(少年ジャンプで連載中の『逃げ上手の若君』では3貫で15万とありますが、こちらは1330年あたりの物価なので戦国時代の通説 1貫=10万円説を採用します。)

「ちなみに1352年に子供を永久に売る時は2貫の代金が支払われ、買い戻す際は6貫で買い戻す契約を結んでいるそうなので、子供の値段は20万くらいですね」(身売りP46)


 安。

 

 金も食い物も乏しい時代では一切れのパンのために人が殺される状態だったのだろう。

「とはいえ、これは価値ある人間の金額ですからね。ここに連れてこられるような身よりのない人間の価格はずっと下がりますよ」

「マジで?」

 身代金が払われなかった場合、さらってきた人間は食費がかかる厄介物となる。


 1565年11月に上杉謙信が北条家の侵攻をくいとめるべく関東に残った後、小田氏治の常陸国小田城を攻め落とした時に

『景虎(謙信)より御意をもって、春中、人売買の事、20銭、30銭ほど致し候』

 という人身売買目的の市を開設の許可が出され、人買いに二束三文で売り払っている。(身売りP55)

 20銭とは20文の事だとすれば1000文=1貫なので、約2000円。

 まるで異世界に転生してたわし以下の値段で売られた人みたいな大安売りだ。

 誤植か銭=10文の意味であってほしい。

「まあ、人間は生きていたら食費が掛りますから。お金が有っても食料が買えない時代に他人を養うのは大変だと思いますよ」

 とさねえもんは言うが、その代わりにタダでこき使っているだろうし『お前の価値2000円な』はトラウマだろう。


 だから、1人1貫くらいで買い取ってやるとふっかけた。

「それでも十分トラウマな金額だと思いますけど…」

 とツッコミが入るが、大友札で銅銭が余ったと言えども1000人とか買い取るのは大変なんだよ。中には大陸に返還する人もいるんだし、その旅費と食費とか保障費考えると頭が痛い。

 実際に実務を行う義兄上吉弘鑑理の頭が。

「鬼ですか」

 と言う言葉が聞こえるが気にしない。

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そんな寸劇を思いだしていると


「いえ、これは私が合法的に身請けした者たちなのです」


 と卑屈そうな目でニヤリと笑う宗。

 まるで、浄水機の押し売りに来た男を追い出したら「今のショックで機械が壊れたかもしれないから弁償しろ」と言い出した時の目にそっくりだった。

「彼らは、戦争とかではなく、貧乏から困窮して身を売った者たち、いわゆる人倫売買でなのですよ」

 とぬかしだした。

 鎌倉幕府は1231年の大飢饉のあと国民を食わせる事が出来ず、一時的に人身売買を黙許した。これを人倫売買と言う。

 凶作などで飢え死にしそうな人間たちが妻子や自分を金持ちが買う事で政府が救えない人を救済できたとして黙認されていたのだ。

 財政破綻で民間に丸投げしたようなものである。


 これは江戸時代でも、娘や息子を奉公という名の身売りに出すのと同じだ。

「貧困ビジネスってのは昔からあったんだなー」

 某派遣業界のピンはねを知ると、時代は進んでも悲惨な現実は少ししか改善されてない様にも感じる。

 そう考えると21世紀になっても富の再分配はうまくいっているとはいいがたい。

 政府は10万円のおかわりをあと20回くらいやってほしいものだ。

 だったら、鎌倉時代に行くか?と言われれば断固拒否するが…


「ですので、私は飢えた者を食べさせてあげている善意の人。誉められこそすれ、誹謗される謂われはありませんな」

 などと悪人のくせに善人ぶる宗。

「まあ、言っている事に筋は通っていますな」

 と吉弘が言う。商品として養わなければ路頭に迷っていたのは確かだとも。だが

「そうか。では直接証文を見せて貰おう。それとも別の部屋で詳しく話を聞かせてもらおうか」

 人身売買が正式なモノであれば契約書があるはずだ。

 そうでなければさらってきたか、正式な取引でないものとなる。


 たとえば、「2年の有期契約」などがそうである。


 永久奴隷なら2億円くらいほしいが、2年位なら400万円で奴隷になってもいいかと思うかもしれない。

 このように奉公とは永久に仕えるものと期間があるものでは値段が異なるが、

 そこで仲介人は外国人には永久奴隷として売り、日本人には年期奉公と言って安く身売りをさせる。

 文句を言おうにも日本を離れた場所に連れて行かれるので泣き寝入りとなるわけだ。

 

 外国に売られた人の記録を見ると日本でユダヤ人に買われた少年は売値は11ペソ。少年に渡された金額は1ペソ。9割を仲介人がピンハネしたらしい。(P39)

 技能実習生並の酷い契約違反だ。

 こんな詐欺師は処刑されても仕方がないだろう。


「と、いうわけで年季奉公の場合、適正価格で買い上げる。文句はないな」

 と言うと宗は不満げな顔をした。

 まあ、農業ではロクな収入がない対馬では貿易や観光で収入を得るしかないのは理解できるが、扱って良い物と悪い物があるだろう。

 というわけで最終手段だ。

 この会話自体、単なる時間稼ぎだしな


「大変です!お屋形様!」

「どうした!」

「離れで火事が起こりました!」


 おとりで売り飛ばされた甲賀忍者が上手く工作を始めてくれたようだ。


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 余談;


 外国側の記録では1604年のポルトガルの日本人奴隷は主人が死亡したときに約440トスタンの財産として評価されたそうです。(大航海時代の奴隷貿易P173)

 このトスタン。前回紹介したフロイス日本史の奴隷売買で2足3文と書かれていた部分が原文では2・3トスタンと書かれていたとあり、原文が読める人は強いなぁと思います。


 つまり、日本の最低値と比べると、欧州につれて帰れば200倍の価値がついた事になりますが、これは4年ほどの航海費と食費が上乗せされるし、何度か転売された結果であり、どちらにせよ日本で売ろうとすれば安いのに代わりはないでしょう。

 戦国時代のトスタンやレアルがどれだけのレートで交換されたのかわからないので類推になりますが、子供の永年奉公が2貫、戦場での捕虜が20文を基準として考えると、

 5ペソ=1貫。

 トスタンの場合1トスタン=10文?

 これなら440トスタン=4貫=40万円となります。


どちらにせよ、戦国時代の人間って安かったのに間違いはないようです。

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