第98話 生産拠点をしっかり持たないといつか技術は涸れる

 ※今回の話は経済学の勉強をアウトプットしてます。

 理論が間違っている場合は参考書が間違っています。(責任逃避)

 なお次回は奴隷貿易について踏み込みます。


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 アダム・スミスという人は経済の法則を大系化し

「政府が介入せず、市場に任せれば物の価格はちょうど良いあたりで落ち着く」という『神の見えざる手』理論を提唱した。


「そんなのは当たり前ではないですか」

 と、吉岡が言う。

 商品というのは売り手と買い手の合意で決まる。

 米の収穫が少なければ米価は値上がりし、豊作なら値下がりする。

 そんな事まで神の分野にするのは大げさだと言いたいのだろう。

 まあ、近代の発見というのはニュートンの万有引力みたいに「当たり前の事を法則として定義する」のが多いから仕方ない。

 同じくスミスなどが提唱した「労働価値説」なんて、商品の価値は労働量(バイト代とか)によって規定されるという当たり前の事を大仰に名前を付けたものだけど


『これ、材料代は100円ですよね。もっと安くなりませんか?』


 と言い出す原価厨という人種を見ると、当たり前が当たり前に通じない場合もあるので定義付けというのは大事だと思う。

 で、リカードという人がそれを発展させ「特産物のように安く作れる物を国同士で貿易したら、しない場合より利益が増える」という「」を提唱した。

「それは何ですか?」

 たとえば、別府では明礬が取れる。

 明礬とはゴールデンカムイでも説明が出た、皮をなめす時などに使われる素材だ。

 ところがこれ、中国産の方が量も多いし値段も安い。

 なので高い国産品を買うより貿易で輸入し、日本の生産者は別の商品を作った方が利益が出る。という分業生産を推奨する説といえる。

 2000年代に一人のバイトに様々な仕事ができるようにしようとする機運があったけど、300年前に『』と書いているのを知らなかったのだろう。

 そんなトンチキが偉そうにコンサルとしてのさばっていたのだから歴史を知るというのは大事なことなのだ。書店員時代に思いつきで色々させるバカ息子の課長があっさりだまされて一人で3人分の担当をさせられたのは悪い思い出である。


 私怨で話がそれた。


 このためリカードという人物は国ごとでの分業生産と自由貿易を奨励したらしい。

「しかし、それでは他国が値をつり上げたら言い値で買わねばならないではないですか」

 そう。生産ラインというのは国が国であろうとすると、利益が出なくても最低ラインは維持してないとならないのである。

 労働力が安いからといって生産ラインを中国に丸投げしてユニットバスやシステムキッチンがコロナのせいで輸入できなかった建築会社は大変な目にあった。

 そのため、畜産とかを守るためにも関税をかけて値段を上げる「保護貿易」という概念も生まれた。

 余談だが徳川幕府が貿易を独占していた時代に、別府の明礬生産者は中国からの輸入を止めさせ高い国産品を流通させて自分の生計を守ったという。

 自分達の利益のために日本中に不自由を負担させた形だが、国内産業を守ると言う点では、これ位しないと守れないのだろう。


「つまり、我が国はすばらしい技術と労働力を上乗せした製品を販売し、それで利益を得る。ただし技術や製造ラインは豊後や種ヶ島に秘匿する」

 これが基本的な政策となる。

 周囲の国から鉄などの金属や生産物を買い上げ、圧倒的な技術で加工品を作って売る。

 戦後日本のような政策だ。

 ただ、いくら人件費が高くなったとしても生産拠点は自分の国だけに限定し、外には工場を造らない。

 仮に大友家と敵対すれば、その技術を停止するという外交カードを堅持するためだ。

「それでも、無理に知ろうとする者が現れたらいかがいたしましょうか?」

「戦乱が終わるまで種子島あたりの離島で一生その作業に従事させるか、脱走しようとするなら処刑するしかないだろうな」

 磁器焼成に成功したベドガーという人物は、強王アウグストに秘密漏えいを防ぐため一生幽閉されたという。

 当時の陶磁器は金と同じ価値があるとも言われ、その優位を保つためにとった処置らしい。酷い事は酷いのだが、誰もしらない技術と言うのは国の運命すら左右する重要事項。普通は流出させてはならないものなのだ。

 そのかわり、その不自由さを上回るだけの報酬は出す。

 日本が凋落したのは技術や研究に金をケチるようになったからなので、それを反面教師としなければならない。


 なお、アダムスミスとリカードは物が不足していた時代をベースにしているため「作ったものはすべて売れる(総供給量が需要を決定する)」

 というセイの法則なるトンデモ理論も生まれたが、日用品は安価で買える位大量に生産したい。

「まあ、昔遊戯●のカードがたくさん売れてた時代、担当者は「お金を刷ってるみたいだ」と言ったそうですしね」

 物が少なくて、みんなが欲しがる場合そうなるもんだな。

 だから農具とか生産する人を増やせばそれだけ儲けも大きくなる。


「となると、次の問題は…」

「対馬の占拠ですかね」


 …問題を一足飛びに飛躍させないでほしいな…

「どういう事ですか?」

 ほらみろ、訳が分からないから吉岡でさえ理解できてないじゃないか。

「あー。対馬ではそうなんだよ」


 大友宗麟に関する誤解の最たるもの、奴隷貿易について次回は踏み込もう。

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