第97話 奥様方への裏工作は内政準備に入りますか?

なんか3話分電波を受信できたので、とりあえず一話分を放出します。


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 豊後の領主に「お前たちの領地に送り込んだ施設、反乱防止の装置な」と宣言したのは単に示威行為を行ったわけではない。

『その恩恵を受けている人たちの事を考えると裏切れないよね?』

 という確認作業だ。


 現代社会でamaz●nやgo●gle・L●neを使わないと個人が思うのは勝手だけど、他人にまで強要はできないようなものである。まあL●neは既読機能が非常に嫌なので使わなかったが… 


 便利な物はどれだけ禁止しても市場の原理で普及する。

 戦国時代にあれだけ発達した鉄砲が江戸時代に衰退したのも、禁止されたからというより使う必要が無くなったからだろう。


 なので、水道禁止とか洗濯機使用不可などと言おうものなら、とある集団からクレームを受けるのは必至。

 そこを教えるために、わざとらしく俺は会議終了時の伝言として

「ああ、そうそう。うちの室(奥さん)たちが、来月も会合を開くそうなので、各々方の奥方・女房衆にもよろしく伝えておいてくれ」


 と、言った。

 これが豊後領主に計画を暴露したもう一つの理由。

 女性層の掌握である。


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 府内の町の一角。そこできらびやかな衣装を着た女性が、各地の領主の妻へ新しい化粧品の使い方を伝授している。

「これからの暑い季節。日焼け肌荒れが気になりますわよね?そこで、日の本よりももっと暑い南蛮のシャム(タイ)で使われている品を取り寄せましたわ」

 大友家に嫁いできた一色さんは、そういうとペースト状の化粧品を取り出す。

「これはタナカと呼ばれる化粧品でございます」

 と奈多家から嫁いできた雪さんが個別に化粧品を渡していく。

 タナカというのはミャンマー付近に生えるタナカの木を35年かけて成長させて伐採し、木を粉末状またはペースト状にして少量の水と共に肌に塗って使う伝統的な化粧品だそうである。

 柑橘系の木なので保湿効果や肌への栄養もある…とリボンの武者って漫画に書いてあった。

 現在では日本の化粧品が向こうでも人気らしいのだが、日焼け止めがなさそうな戦国時代なら十分に効果があるのではないかと思い輸入してみたのだ。

 

「シャムに渡った入田どのが帰りがけに使用した所、使用しなかった水夫に比べて肌が白かったので興味のある方はご覧になると良いですよ」

 と、一色さんが補足説明しながら実際に肌に塗って実演してみせた。

「これは冬の乾燥にも良さそうですね」

 そう言ってベッキーこと戸次鑑連の妻、入田の娘が肌に塗りこんでいく。

「現地の方のお話ですと、吹き出物や虫刺されにも効果があるそうですので薬としても使えるそうですのよ」

 とカンペを見ながら由来や効能を奥さん2人は説明していく。


 この一年間、一色の姫さんもだいぶトゲが抜けて社交性が備わって来たので、欧州のサロンという概念を説明し、その運営をしてみてほしいとお願いしたのだ。

 

 女性は嫁に行くと実家とは切り離される。

 そこで心細い思いをしたり、うちの一色さんみたいに虚勢をはって強がる女性も生まれる。

 豊後で時にキツネつきの女性が出たのも、そうした閉塞した環境が原因かもしれない。

 そこで女性だけの社交場を開催し、化粧品の普及とか新技術の紹介の場や憂さ晴らしをしてもらおうと思った。

「そういう事でしたら私に任せなさい!」

 と都に近い丹後の姫様は言ったが、源氏物語とか紫式部あたりの平安サロンとか聞いた時分としては不安しかないので

「雪さん、後添えはお願いします」

 ともう一人の奥さんにバックアップをお願いした。


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「これが都の菓子ですか。雅ですねぇ」

「田舎に籠もっていると刺激がないし、嫌みな姑と悪口ばかり言い合うから気が滅入ってしかたないわぁ」

 目論見は成功し、ストレス発散になっているようだ。

 新作の化粧品を試したり、都から取り寄せた菓子と豊後で作った菓子の食べ比べをしたり、タピオカに変わる菓子というと どんな物が食べたいかなどのマーケットリサーチや試供品販売も行えるので一石二鳥と言える。

 

 なお、このサロンが開かれている間、将来の大友宗麟である俺は府内から出ている。

 そうしとかないと「宗麟は女好きだから、人妻を集めて品定めしている」というひどい風評を書かれるだろうからだ。

 史実の大友宗麟は大名を引退してキリシタンに成る前に、怖い奥さん(奈多夫人。雪さんの妹)と離婚して別の女性と再婚している。

 この時、拠点である臼杵城は元奥さんと息子に置いたまま、別宅に抜け出したというのだから家に余程いたくなかったのだろう。

 離婚後に奈多夫人は常に短刀を持って自殺を図ろうとしたり、密教系の僧に依頼しガマガエルの目に熱した棒を差し込んで、同様の苦痛が呪として宗麟の後妻にかかるように願ったなど、ヤンデレを飛び越えた恐ろしい逸話が目白押しなのである。

 当主となって1年。まだ子供が生まれず一部の家臣は、出産経験のある女性を側室にさせようと画策しているようだが、その候補である奈多夫人と絶対に結婚しない様に悪あがきしているのはこれが原因である。

 この逸話が江戸時代になって大友記とか立花記という本で『大友宗麟は女好きで乱行を重ねたので、嫉妬した妻が仏僧に頼んで調伏の祈祷を依頼し宗麟は頭がおかしくなった』という話に変換されてしまったのだ。


 そうでなくても、史実の宗麟さんは有能な人材を他国から入れたり、狩野派の絵師を招いて新商品のパッケージデザインを頼んだら

「大友宗麟は古くから功績のある家臣をないがしろにして、媚びへつらう者や芸人を重用している。当主は堕落した」

 とか言われて、ベッキーに説教されたというデマを創作されたのである。


 なので俺は、決して李下に冠を正さない。


 予防線を張れるだけ張って名君のコスプレをしながら生きていくのだ。(切実)


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 なおサロンの人数が増えたあたりからクラフトワークとか書・創作菓子などの出展場も作り、その道にたけた人はサークルの長みたいに指導する立場になったり興味のある分野では逆に生徒になったりする。そんな文化教室のような事もした。

 これは楽しみの少ない籠の鳥たちにとって大友家主催の会合は癒しであり、自分の能力を発揮できる数少ない社交の場となるだろう。


 大友家に反乱を起こせば、このような場に入れなくなる。

 さらに領民たちの生活レベルがどれほど落ちるか理解できるだろうから、領主の奥様方は変な企みが領内に持ってこられれば全力で止めようとするだろうし、こちらの味方にもなってくれるだろう。


「戦国の世の女性にそんな権力があるはずがない」

 と思われるかもしれないが、仕事帰りの家で毎日のように顔を合わせる人から同じ事を言われれば少なからず影響はあるだろうし、家の繋がりを重視する家ならば妻が構築した人脈を無下にはできないだろう。

 仮に無視した場合、跡継ぎ息子連れて府内に逃げ込むように言い合い始めているそうで、家を重視する武士にとって子供まで人質に取られた形となる。


「まあ、ここまでやってもだろうけど、ハードルにはなると思うよな。普通」

「戦国時代の人質って、絶対に守らなければいけない人物と言うよりも消耗品ですからねー」

 

 さねえもんと俺は遠い目で最悪の事態を予想しながら、次の予防策に頭を巡らすのだった。


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