第92話 私は金の卵を生むガチョウです。どうか食べないでください。
カクヨム様のリワード報酬で『立花記』という古書を購入する事が出来ました。
ベッキーこと戸次道雪の一生を書いた江戸時代の本です。
これもひとえに皆さまのご協力と御声援のおかげです。
誠にありがとうございます。
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「それにな。金は物量を促す道具。その道具の使用数でその国の事情はよく分かろうというものよ」
「どういうことでございますか?」
「たとえばだ…宗像。仮に、仮の話だぞ?お主が龍造寺と同じ立場で、謀反を企んだ場合、与えられた金はどう使う?」
宗像は1553年に一万田・服部とともに反乱を企てる領主である。
「……可能な限り豊後やその属国を相手に取引をして、与えられた紙幣を使いきろうとするでしょうな」
さすが再来年には反乱を起こす男。
あっさり答えやがった。
大友家が発行した紙幣は大友家が存在する間しか使えない。
つまり大友家と敵対する人間は、反乱を起こす前に何とか使おうとするだろう。
「だが、その札を領民家臣が持っていた場合どうなるだろうかな?」
「それは…、領民は損をしますなぁ」
小銭程度の金なら良い。
だが相当の金を持っていた場合、反乱を起こした領主はその分の補填をしないとならない。
仮に叛乱の首謀者が何の対策もせず踏み倒そうとしたら恨まれるだろう。
「ろくな生産力もない小領主に10億の金はかなりの足かせになるだろうな」
分不相応な金は使うのも難しいし、領民に与えれば回収は不可能だろう。
巨大資本が無料サービスを提供して中小企業を支配する構図に似ている。
「それ、もしかしなくても悪役の思考ですよね」
と言われたが気にしない。
「しかし、金は当家だけでなく松浦や有馬でも流通するのでございましょう?そちらに使われた場合はいかがするのですか?」
「他国の金は一度、その国の色の紙幣に交換しないと使ってはならないように命じる」
紙幣を3色に色分けしたのはこれが理由だ。
外貨のように、国をまたいだ場合は両替しないと使えない。
日本で通常の店では米ドルが使えないような感じだ。
こうすれば国またぎの紙幣数を把握できるし、一般人の旅人は両替商のある場所を通過しないとならなくなる。自発的に関所を通らせることが可能となるので怪しい余所者は一目でわかるようになる。
さらに、両替商はその紙幣の数を集計して3日ごとに報告させるようにした。
「そうすれば、この色分けした紙幣の動きで領主の思惑を見ることが出来るわけだ」
金の動きは物流の動きを示す。
米、武記、布、革。あらゆる商品に使用された金を把握すればその国の姿をうかがい知れる。
配布された紙幣はネット決済などで人の動きを知る、ビッグデータの役割をするのである。
「たった3万貫(約30億)で領主の心を知り、民たちの心に枷をはめられるなら、それは安い投資というものじゃ」
この手段のやっかいな点は、個人にとっては思いがけない臨時収入なので『大友家に反乱を起こして略奪するより従った方が楽である』と個人レベルで実感できる点だ。
また守護代の能力が可視化されてしまう点である。
肉を平等に配る役職 宰相のように、仮にエコヒイキするような配り方をすれば不満から守護代への反乱が起きるだろう。
そうでなくても渡し方に不満があれば責任はすべて大友家ではなく統治の責任者になる。
本当は一律給付でも良かったのだが、そうすると某県のように「県に寄付しろ」とか言い出すバカな領主が現れるかもしれない。そうなれば民衆は大友家を恨む。
だが守護代に任せれば恨みはすべて地元人の責任だ。
「つまり渡された1万貫はただの金ではない。責任の額でもあるのだ」
仕事の丸投げをここまで格好良く言えるものだと思えるほどビシッと言ってやった。
「ですが、守護代が仮に独り占めした場合どうするのですか?」
と誰もが「そんなことはしないだろう」と思える悪手を使われる可能性を吉岡が質問する。
10億の金を全て物資の買い占めに使おうなどという愚かな手だ。
「一日の両替金額に制限を設けよう。またそのような金額を使ったときは、その地域は『謀反の疑いあり』という事で紙幣を取引停止にする。
仮に密かに他国で使った場合でも流通量を見れば謀反の動きは察知しやすいだろう」
そこまでバカな手を取るなら周りの領主に見放されると思うが…
「逆に民衆にもうまく配布できたら、生活の隅々まで大友家の影響を及ぼせる。さらには大友家が弱体化すれば損をする仕組みにすれば皆が大友家を応援せざるを得ないだろう」
と宣言した。
「そのような手段が本当に上手くいきますかな?」
臼杵が首を傾げる。
まあ金属価値が金銭価値となる戦国時代に、こども銀行券を配って取引しろって言っているようなものだからなぁ。
仮に現代でも日本政府が崩壊したら一万円札もただの紙切れだ。
だからこそ全く価値の無い物を、大の大人が真剣に価値があるフリをしなければならないのだ。
「まあ、織田信長は茶器の一つが国と同額と騙せたんだ。やってやれない事はないだろう」
そう思って、地域振興券…もとい大友ペリカを肥前に配布する事にした。
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