第91話 戦国時代の出る杭 打たれまくり

 九州の弾薬庫こと佐賀は憎しみとカタキで領主たちの繋がりは出来あがっている。


・龍造寺隆信は龍造寺本家の当主・胤栄に従い、天文16年(1547年)に主君だった少弐冬尚を攻め、勢福寺城から追放した。


 これは天文14年(1545年)に少弐氏とその家臣 馬場頼周の策謀によって、祖父と父に親類四人が悉く誅殺された怨みがあるからだ。

 この馬場頼周は曽祖父の龍造寺家兼が翌年討伐されたのだが、その主である少弐は健在だった。

 隆信はその仇を倒したのである。

「ですが龍造寺の誅罰は、その家兼が主君を見捨てたのが原因と聞きますぞ」

 と外交通の臼杵が言う。


 肥前筑前の守護だった少弐は度重なる大内氏の侵攻に耐えられなくなり龍造寺家兼の進言で大内義隆と和議を結んだ。

 だが、この和議は謀略で、天文4年(1535年)少弐資元は大内氏に領地をすべて取り上げられたという。

 そして天文5年(1536年)、大宰大弐の官を得た義隆は家臣の陶興房に命じて少弐資元を攻撃させ、少弐資元は自害した。

 この時龍造寺は少弐を助けず見殺しにしたと言う。


「その、龍造寺が少弐を見捨てた理由というのが…」

「……………………いや、もういいよ」


 聞いているときりがない。

 怨みの連鎖と言うのはこうして完成するのだろう。

 こうした争いの際に、肥前の領主は、それぞれの陣営に味方するのである。

 家は生き残るが、親族を殺された一族は怨みをしっかりと憶える。


 それが数代にわたって続くのだ。


 領内はすべて敵だらけといっても過言ではないだろう。

「もう、みんな殺して別の民族を入植させた方が楽なんじゃないか?」

 というイスラエルも真っ青な状態。

 これを治めろと言われて喜ぶ奴がいるなら、喜んで責任を押し付けたい。


 ところが、この紛争地帯を巧みに扇動して一つにまとめ上げ、1578年に大友家に反旗を翻したのが龍造寺隆信だ。

 つまり龍造寺家なら肥前を纏められるかもしれないし、失敗して滅びれば大友家は将来的に安泰かもしれないのである。

 まあ、そんな事は言えないので龍造寺の家柄や能力を最大限褒めて『彼ならできる』と勝手に太鼓判を押した。

 監督時代に上司から言われて喜んだ言葉だが、自分が言うと面倒事全部押し付ける魔法の言葉だったのだと実感する。あのクソ上司め…………

「しかし、それで肥前の者は納得するでしょうか?」

 戦国時代は村八分合戦だ。

 適当に敵を作って周りを味方にして袋叩きにする。

 はっきりいって目を付けられた奴から死ぬのだが、隆信はその生存競争に長けていたのだろう。


 だがそれは40歳を超えて百戦錬磨の狸になってからの事、今の彼はまだまだ小領主にすぎない。

 ここでそんな若者を首長にすると言われたらどうなるだろう?

「なんであんな奴が俺より上なのだ」

「自分の方が優れているのに妬ましい」

 などの恨みの目が注がれるのは間違いない。


 これらの醜い感情を持つ領主たちを抑えて統治できるか潰されるかは隆信次第だが、大友家としては安定した食料と治安維持に必要な人材は渡しての大抜擢という形にするので、なんとか解決して欲しい。

「本音は?」

「豊後ですら治めきれてないのに余所の厄介ごとにかまっている暇はないんだよ」

 だいたいこっちは史実だと1553年と1556年に反乱が国内で起こるし国外だと1556~1570年まで安定して謀反が起こるから、その予防策を考えないといけないのである。

 よその家に構っている暇はないのである。

 龍造寺隆信は1567年くらいまでは大友家に従って動いていたのだが1568年になって急に大友に逆らうのだから、その前に滅亡するのならそれはそれで助かる。

 なお反乱理由は不明。

 何か領地に関する不満でもあったのかもしれないので、生き残ったらその辺を聞いておこう。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


「だとすれば、それに見合った権限を与える必要がありますな」

 と吉岡が言う。

 義務には権利が伴う。厄介事の管理をさせるのだから、その代わりに他の領主を討伐する大義名分と監督者として寮内で騒ぎを起こさないよう任務を与える。

 ヤクザに警察のまねごとをさせるようなものだが戦乱の世の領主なんてみんな似たり寄ったりである。

 ならば優秀なヤクザに任せて無駄な混乱や殺し合いを減らした方がまだましというものだ。

「しかし、それに気が付いた肥前の連中が一致団結して大友家に反旗をひるがえす事になりませぬかな」

「それはそれで良いよ。その頭を潰せば他の連中は従えやすくなるし、連合という形で大友家に対峙したとしても肥前国は安定するだろうから」

 小さな集団がそれぞれいくつかの党に分かれて争われると現状を把握するだけでも大変だ。そのためにも寄るための大樹を作ってみよう。

「それに、隆信からは恨まれないように、そして大友家に逆らえない様に、あるモノを大量に渡しておこうと思うんだ」

「あるもの?なんですかそれは」

 いぶかしげに吉岡が問いかける。それに俺は待ってましたとばかりに懐に手を入れ


「10万貫(約100億円)の資金だよ」


そういうと、俺は赤、青、緑に色分けされた大友ぺリカこと新紙幣を取りだした。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る