第90話 紛争地帯の解決方法を考えてみる
衣食住を化学繊維と化学肥料とコンクリートで近代化させ医療まで充実させたので次は何をしようかと考えていたら、肥前の守護代に任命していた一万田から「あいつら全然言うことを聞きません」と泣き言と恨み節が伝えられてきた。
ええい、根性無しめ。
もう少し問題を先延ばしさせてくれれば良いのに。
大友家転覆を企んでいた男の領地経営失敗によって、彼に賛同していた裏切り者予定者たちは驚いたようだった。
そりゃそうだろう。豊後と肥後を乗っ取ろうとしていた男が肥前一国すら治められなかったのだから。
まあ、肥前を治めろとか言われたら、未来を知る俺でも逃げ出すけどね。というか未来を知るからこそ逃げ出すけどね。
肥前の支配ってのはそれくらい大変なのである。
とはいえ、こうなったからには逃げ出すわけにはいかない。
がっつり問題を見直してみよう。
第一に陸路では遠いのに海路だと直線で来れる位置関係に敵がいるのが不味い。
大分で言えば大分市と日出町、別府が別の勢力で争っているようなものである。
夜中にどれだけ警備を固めてもいつ海からおそわれるかわかったものではない。
そこまで面倒なら一つの勢力にまとまれば良いのだが、部下になると死に近い無茶な要求をされるからそれもできない。
なので強大な勢力に暴力で治めて貰うしかないのが実状らしい。
「あなたにこの国を上げます」というのは、『我々では戦争ばかりで平和を保てないので面倒みてください』という意味なのだ。
返品したい。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「さて、それでは問題点をまとめてみましょう」
そういって吉岡が大書した紙には
・1、豊後から肥前までは遠く、統治の手が及ばない
・2、肥前国内も山で分断され反乱平定に時間がかかる
・3、現在居る領主たちはかつて互いに殺しあい、遺恨がある
などと問題を書き出した。
さてここから問題を解決して見よう。
まず1の距離の点。これは直線距離的に遠いので解決するには拠点を動かすしかない。
ゲームとかだとだいたい博多に拠点を移して戦っていたな。
「だが、豊後を空ければ山口や四国からいつ船で攻めてこられるかわかりませぬ。簡単に空けるわけにもいきませぬぞ」
と外交担当の臼杵が言う。
まあ、それ以前に先祖代々の土地を離れるとは何事という意見で移動できないんだよね。
「まず1番目だが、これは兵力を余所に割けないから諦めるしかない」
という結論になった。これ以上考えても解決する方法はない。
「で、2番目だが」
長崎と佐賀は坂が多いので移動は非常に不便である。
「山に囲まれている。というのは豊後でも言える問題ですな」
と、吉岡が似た事例を出して分析する。
そう。大分も南の臼杵、北の国東、西の玖珠が険しい山で囲まれており、移動が非常に困難なのである。
なのに反乱の拠点とならずに治まっているのはなぜか?
「それは自治を認めているからでしょう」
と玖珠の統治者である吉弘義兄さんが言う。
「玖珠は清原家という一族が24家に分かれており、唯一国東の岐部家(ペトロ=カスイ=岐部の一族)だけが定住に成功しました」
何でも玖珠から都に行く際に国東から船出をするので交流が生まれたためと言われる。
逆に言えば、余所者をシャットアウトして同族同士仲良く出来ているから上手く治まっているのだろう。
逆に佐賀の方はご近所同士が敵なので仲良く出来てないという。
この遺恨による分断は宗教による分断の次に厄介な壁となる。
これを解決するには相手を賊滅するか、豊富秀吉並に強大な暴力で押さえつけるしかないだろう。
それがない場合はどうすればよいか?
「肥前を三つに分けて統治すれば良いんじゃないかな?」
なにいってんだこいつ。って顔でみられた。
「いやな。肥前は広い。広すぎてとてもじゃないが管理しきれないと思うんだよ」
現代社会でも長崎と佐賀に分かれているからな。
そんな未来志向で提案してみたのだが、当然ながら
「前例がない」
「そんなことできるわけがない」
「今まで通りで良いではないか」
というおきまりの言葉が返ってきた。
…いや、今まで通りだとダメだったから「国をあげます」って言ってきたんだろうが。そこで
「今の国割りは800年以上前、平城京の時代の国割りが元となっておるのは知っておるか?」
と根本的な話を振る。
「あの時代は戸籍が作られた頃で、50戸単位で一つの郡が決められたのだ」
当時の平均寿命は少なかったので一戸あたりの人数は約5~50人。
3つくらいの集落の2500人の集団を8つほど集めたのが一国程度なのだ。
「なお、これらの知識は延起式という日本初の法律本に書かれておる。」
つまり、それからの農業発展で増加した人口や通信網を全く無視した境界となっているのである。
そんな実態とかけ離れた制度を使っているから行政が混乱するのである。
その範囲を細分化すれば責任とか軽くなるのではないだろうか
「なるほど、言いたいことはわかりました。」
とベッキーが納得する。
「では、どのように分けるべきでしょうか?」
「まず北部の山脈を境にすべきだな」
当時の平戸あたりは中国との密貿易で発展している。
交通も船中心だし平戸の松浦氏が実行支配しているし、『北肥前』として独立して機能するだろう。松浦鎮信を首班にして治めさせるべきだ。
「なるほど。ではあとふたつはどのように?」
「諫早湾からみて半分、嬉野の南にある経ヶ岳より南と西を『西肥前』として島原の有馬に治めさせよう」
実質的に長崎県の南部にあたるのだが、港町である長崎は1570年ころに家臣たちから追われたキリシタン大名の大村氏が開港するまでは寒村だったので、当時の中心は島原なのである。
こちらは、ほとんどが有馬氏の親類なのだが玖珠と違って身内同士で争いがたえてない。なので、この地域を重点的に一万田に協力させ有馬に治めさせよう。
「では、残った東側は…」
「東肥前、または佐賀と呼ぼう。あそこは山からの体積物でできた平野が広がる。広いが交通が便利なので比較的治めやすいだろう」
『比較的治めやすい』という部分は嘘だけど、地理的に見て移動が楽なのは本当だ。未来では線路も通っているし。
この欺瞞的な説明を誰もが分かっているがあえて誰も指摘しない。
「で、誰を首班にすえるのですか?」
と一番の問題を口にする。
イスラエルの首班をどうするかレベルで厄介な問題である。
だが、俺としては消去法的に答えは決まっている。
「龍造寺だ」
その言葉に
「おまえどの口が『実態とかけ離れた制度を使っているから行政が混乱するのである』とかいってんだよ、おい」
という声が聞こえた気がする。
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