第76話  悪い子(平均年齢40歳)にはタピオカをあげません。

 現代世界の必需品 タオルはタイでも好評で立派な輸出品となった。

 まあ原理を知られたら向こうでも作れるだろうけど、化学繊維は作れないだろうから3年はこれで食っていけそうな気がする。

 日用品は現地で作ってもらい、紋様とか性質の良い物だけ輸出する高級ニッチ産業に変化していこう。なお食料の買い付けで商人同士が互いにレートが分からず難儀したのだが、両国の日用品価格に詳しいアンジロウさんのおかげで争いにならない水準で商談は成立した。本当に雇って良かった。


「というわけで、ついにねんがんのタイ米ことインディカ米とタロイモを手に入れたぞ」

 割合としては2;8。芋が多い。

「これで食料不足は解消できますかね?」

 とさねえもんが言う。

「いや、このままじゃダメだ」

 新しいもの好きなくせに因習大好きな豊後人のこと


「米の代わりに芋を食べて」

 とお願いしても絶対に従うはずがない。ぼくは詳しいんだ。(実体験による言葉)

 特に百姓に渡したりしたら「下々の民が食べるもの」とか言ってあいつら絶対食べないだろう。

 キリシタンが貧民と病人を救済したら『貧民の信じる宗教』ってバカにされた記録があるし。(イエズス会1578年年報)

 その子孫も、米不足でせっかく送ってくれたタイ米を『水気が少ない』とかいちゃもんつけて文句ばかりだったし。


 なので一計を案じる事にした。


 まず、インディカ米。

 これはお茶漬け炒飯みたいな汁気の多いご飯にした。

 別府のタイ料理のお店で食べた時、ナッツ入りの粥みたいなのが美味しかったし、大分県立図書館のレストランで食べた明太子茶づけ風オムライスも絶品だった。

「でも、おかゆだと文句言われませんか?」

 とさねえもんが言うが、この日のための秘密兵器を用意しておいた。

「なので、グルタミン酸を投入します」

 うまみ成分『グルタミン酸』。別名 化学調味料。通称『味の素』。

 昆布を60~70℃で出汁を取る事で生まれる調味料だが、これに鶏がらスープを加えてじっくり味付けをする。

 この時代の飯は味より量である。食糧不足を解消するために殺し合いをしている時代なので米も白米では無く玄米で食べている。

 ところが玄米は不味い(直球)。

 農家の娘だった健康マニアの母親が「いくら体に良くても玄米は二度と食べたくない」と言う位、昔の玄米は不味かった。

 そんなご飯を食べている人間にふつうに味付けをしたタイ米おじやを食べさせたら…勝負は言うまでも無いだろう。

 本当は今年だけ玄米からタイ米に切り替えて欲しいのだが、あえて『米と交換で食べさせてあげてもよろしくてよ』と高飛車に交渉に出た。

 非常に感じ悪いが下手に頼むと食べる前からバカにするからな。あいつら。(私怨)

 

 お次は本題。タロイモの普及だ。

 こちらは米でない分、食べる時のハードルが高い。

 なのででんぷん粉にしてこねて細長い団子にする。

 これを細かくちぎって玉にして煮込めばタピオカの出来上がりなのだが、これではご飯としては食べないだろう。

 なので、細長いままで、これに味噌といくつかの野菜とともに煮込む。

「これほうとう汁、別名団子汁ですね」

 とさねえもんが言う。

 これを『南蛮団子』として祝いの席で老中たちだけに食べさせる事にした。

 また「この団子汁は南蛮団子という特別な材料で作っており、自分宗麟の大好物である」と宣言する。

 こうして一般人にはおあずけすれば、憎まれ口しか叩かないような領主も「偉い人ばかり美味しいものを食べてずるい!」と思うようになるはずだ。


 さらに、タピオカ風に加工した粒粒バージョンは『食真珠』という名で京都の天皇と将軍様に献上した。流石にいきなりミルクティーを出しては抵抗があるから砂糖水に浸した状態で、である。

 なお菓子に関しては奥さんである一色さんと奈多(姉)さんの意見を参考に甘味を調節し、ネーミングも彼女たちにお願いした。


 そして、豊後では「南蛮団子は天皇様や公方様もお食べになった」と散々に宣伝する。

味付けは全然違うけど原材料は同じなので嘘は言ってない。ヨシ!


 でも、庶民には食べさせない。


 『羨ましい』が『殺してでも奪い取りたい』に変わるまで我慢させた所で「仕方ないから月に二回だけ領民に支給。武士(一番米を食べる層)には2日に一度食べることを許可する」と制限つきで解禁する。


 するとどうなるか?


 豊後国内の領民の80%が南蛮団子とタイ米に食事を切り替えた。

 まるで転売ヤーの買い占めでマスク不足やティッシュ不足となった商品に群がる市民の如く販売所には長蛇の列が出来る。

「『金を払う暴徒』みたいですねー(出典;ヒツジの執事/芳文社)」

 とさねえもんがつぶやく位に食生活が変わった。


 茶屋では「皇室御用達」の看板をデカデカと掲げて配給品のタピオカを味噌で煮込んだり、黄な粉をまぶして魔改造したタピオカを楽しんでいる。

 タイ米のおじやがそこまで人気が出なかったのに対して偉い違いだ。

 とある過疎農家で『「ローマ法王も食べた米」という触れ込みで宣伝したら飛ぶように米が売れた』という商法を真似したのだが、日本人が権威に弱いのは今も昔も変わらないようだ。

 この引っ掛けのような売り込みで豊後の米の消費が減り、米の備蓄ギリギリで何とか持ちこたえる事が出来た。

 …た、助かった。


 というわけで安部川餅風のタピオカに田楽風タピオカ、味噌タピオカなどありとあらゆるタピオカを使った怪しい商品が豊後には出回った。

「…砂糖が高いのは分かりますが、本来のタピオカを知っているとカオスな光景ですね」

 という雑音が聞こえたが、常識にとらわれては米不足は解消できないのである。

 

 あまのじゃくで「右向け」といえば左をむくような連中に食わせるにはこうするのが一番だろう。

 これで米不足は解消された。めでたしめでたし。である。

 

 …まあ、日本人は飽きっぽいから3か月もすれば元にもどるかもしれない。というか戻る。

 次は米の生産量を増やすために大規模農業をしないと。

 問題を解決しても次から次へと問題が出る。本当に大名は地獄だぜー。早く誰か変わって!!!


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 本当はカフェっぽいもの作ってみようかと思いましたが、そんな光り輝くパリピな描写は無理と判断し大阪風の怪しいテキヤの巣窟にしました。

 ごめんなさい。魔球と言うか暴投はいくらでも投げられるんですが、まともな珠を投げられません。

 なお、次回から統治パートになるのでやっと大友四天王たるベッキーや長増を動かせます。戦争以外の方面で。

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