第75話 タピオカへの道は遠い

 昨日思いついたタオルですが、生産体制の布石は整っていたので今回はその話になりました。電波がそう書けとささやいているので仕方ないんです。

 はやくタピオカを豊後に輸入して戦国カフェとでキャッキャウフフな話をしたいのにどうしてこうなった?


 なおタオルの織り方はチャンピオンREDコミックの『科学的に存在しうるクリーチャー娘の観察日誌』という漫画を参考にしてます。R18な内容の本ですが異世界で電気や火薬無しで化学無双するお話として大変面白いです。

 

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 タオルの歴史は古いようで新しい。

 古くは紀元前2000年のエジプトで使われていたとも言うが、近代で作られるようになるのは1800年代になってからだという。


 1811年頃にフランスでタオル製造に必要なテリーモーション原理(糸を弛ませて織る方法)を考案し、1850年 イギリス人ヘンリー・クリスティーが、トルコの手工芸品であった「ターキッシュタオル」を参考にループパイルを持つタオルをつくりだしたという。

 (明治5年)頃。

 文明開化のシロモノだったりする。


(参考;タオルの歴史 | 内野株式会社 https://www.uchino.co.jp/tips/history/towel-history/)


「で、その『たおる』なるものは何でしょうか?」

 と吉岡が尋ねる。

「タオルってのは、えーと風呂上がりに使う布で、なんというか、こう…ふわふわで…もこもこで…」

 あれ?説明するの結構難しくね?

 IQの低い説明に吉岡たちが頭をひねっているのをみかねて、さねえもんが

「わっかを大量に付けた布ですね」

 と、ざっくりな説明をする。


 概念自体が存在しない物を説明すると言うのは難しい。

 この時代の体を拭く布は襦袢とか手ぬぐい・豆絞りなどのが中心だ。

 隙間があると毛細血管現象で水が吸い付き、体の水が布にしみこむという寸法だ。たぶん。

 これに対しタオルというのは、細かいわっかが大量についている。

「わっかが大量にあると表面積が増えます。普通の布を1とすれば、細かい突起のついた布は5倍以上(適当)。その突起が大量の水を吸い込んでくれます」

 豆絞りは布の隙間に水を吸い込ませるが、吸水力の容量が少ない。

 体についた水を拭く場合、何度も絞る必要がある。


 ところが数万のわっかがついているタオルは吸水力と保水力が段違いで、体を拭き終えるまで絞る必要などない。


 汗だらけの国なら大人気商品となるだろう。


 なおタオルは、普通の布を織る際にわっか用の縦糸を追加で設置する事でできあがる。

 普通の布なら機織り機で縦糸をピンと張って横糸を通し、縦糸の上下を反転させて横糸を通す作業の繰り返しだが、タオルの場合、わっか用の縦糸を横糸を通す。

 この一工夫が思いつくと生産できるのだが、布はまっすぐな糸で紡ぐもの。という先入観があると難しいのかもしれない。


 タオルは地味だけど、洋服ボタンと並ぶアイデア商品なのだ。


「奇抜なアイデアより、身近にある商品の方が長期的に利益を生み出せますからね。生産体制が整えば臼杵で醤油とか味噌も作りたいところです」

 フ●ドーキンとか●ジジンなどの醤油メーカーが臼杵にはある。あれも増産したら貿易品になるだろうな。発酵方面は詳しくないけど高野山とか納豆作ってるそうだし、そこらは無月さんに丸投げしよう。


「ですが、そのような品物、売るほど作れるんですか?」

 と臼杵が問う。今の日本は生糸を輸入する位だし材料と生産力に不安があるのは当然だろう。


 うーん。計画段階だけど、そろそろ公開してもいいか。


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 川の近くに建てられたコンクリート製の建物には大量の機織り機がある。


 ただ、ここの機織り機を織るのは女性ではなく水力だったりする。


「な…なんなんですか?これは?」

 と驚愕する家老たち。

「紡糸工場(化学糸を作る工場)と布の製造工場だな」

 明治時代に女工哀歌などで書かれた養蚕主体の紡糸工場や綿主体の紡績工場とは違う。あんな人間使い捨ての重労働を強いたり、蚕を飼うほこりまみれで空気の悪い職場など作りたくもない。

 その点、紡糸工場は少し危険だが楽だし可能性を秘めた産業だ。 

「糸を紡ぐ…紡糸とは何ですか?」

 

「おがくずや竹から作る糸だ」

 有機物をカセイソーダという強アルカリ溶液で溶かして繊維だけを残す。

 この液体を、底に穴の空いた鉄鍋に入れ、下から出てきた液体繊維を酸の桶にくぐらせるのである。中和されて液体から固体となった糸状の繊維を糸車で巻きとれば完成である。ね。簡単でしょ?

「かせいそーだ?かがくせんい?」

 蚕も使わずにできあがる糸と、それを自動的に巻きとる歯車を見て目を白黒させているベッキー。

 なお某男塾漫画のせいで人間の体は酸で溶けると勘違いされているが、有機物を溶かすのはアルカリである。

(現在でも強アルカリのカセイソーダは激物として扱いには資格が必要です)


 こうして作られた糸は女性の手によって機織り機にセットされていく。

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「機織り機で布を作るというのは、互い違いにセットされた縦糸の間を一本の糸を通し、横糸を詰めたら縦糸の上下を変えて再び横糸を通すという作業の繰り返しだ。

 これらの動作要素を極限まで追求し、歯車の回転だけで繰り返せるようにしたのがここにある装置だ」

 そういって歯車で勝手に動く機織り機を見せる。


 動力は川の水。


 歯車が半回転すると縦糸の上下が入れ代わり、横糸はクランク(回転運動を往復運動に変換する装置)を使って左右移動を繰り返させる。

 たまに糸が絡まって失敗もするが、放置するだけで布ができる方がメリットは大きいだろう。

「い、いつの間にこのような物を…」と臼杵が驚いている。

 こちらに来てからすぐだよ。布団を大量生産するために地道に頑張ったよ。俺。


 この自動機織り機に、わっかを織り込むギミックを追加すればタオルの量産だって可能だろう。

 布団の布を大量生産するために密かに作っておいた装置がこんな形で役立つとは思ってもみなかった。マジで。

 さすがに難しい文様を付けるのは難しいので女性の仕事を奪う事にはならないが、単に布を織るだけなら歯車の組み合わせでなんとか作れた。

「信じられん。勝手に布が織られていく…」

 知恵者とよばれた長増でも驚愕している。


「ちなみに、吸水性を挙げるには『*』の形に穴を空けて作った糸の方がよいらしいですよ」とさねえもんが補足する。

 化学繊維の良いところは、点だ。

 Cの字やOの字型の糸だと糸の中に空気の層ができるので保温製が高くなるし、凸凹の多い形なら保水力やゴミの付着力が高くなる。

 ギザギザの文様なら光が乱反射して絹のような光沢だって出せる。

 工夫次第で糸自体が高いポテンシャルを持っているわけだ。

 あ、これ魔法の糸として売り出せるね。


 わざわざ狭い部屋で蚕を育てて肺病になったりする必要はないのである。科学万歳。

 アルカリ液を完全に除去して中和しないと皮膚の弱い人はかぶれのおそれがあるが、そこさえ気を付ければ竹で服が作れるのだ。素晴らしい。


 おまけに工場作るには大金が必要だが、半年前から国内紙幣を使っているのでノルマに追われて自動●工場のような秒刻みスケジュールで従業員をこき使って金を稼ぐ必要もない。ホワイト職場を提供するのは経営者の義務である。


 横道を直角にそれまくったが、このようにタオルの増産体制は整っている。

「どうだ?これを売れば食料だって売ってもらえるだろ」

 と大友3老たる家老5人に自信満々に言う。


「「「「その前に国内で販売しなさい!!!!」」」」


 怒られた。


「こんな便利なもの何で隠していたんですか!」

 と言われたが、化学繊維の実用化(主に強アルカリの作成)ができたのが先月なんだから仕方ないじゃないか…………。



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 本作ではあまり書いてませんが、布団の製造は水面下で進んでおりました。


 というか、ハーバーボッシュ法の頃から竹布などの化学繊維は作りたかったのですが、アルカリという危険物作成が可能なレベルへの産業力と資金が必要だったので見合わせていました。

 まあ、西日本中の変わった品々が揃えば作成は可能だろう。と。

 なお強アルカリは皮膚に触れると大変危険なので作成方法は書かずに起きます。決して作者が理解できなかったわけではないと思っていただけたら幸いです。


 次回こそはタピオカ輸入します。戦国カフェやります。

 そんな電波が降り注ぐよう、タピオカ買って気分をタピオカにします。


…なので、面倒な交渉パートをカットする事をお許しください。

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